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☆十六話 伝わる温もり 弾ける想い

 降りしきる雨が静かに響く小さな洞穴。その冷たい雨とは対照的に顔と胸を熱くさせたレアフレアが、一人で頬に手を当て顔をブンブンと横に振る。

 少しそれをしたかと思うと横たわるクレイの方へ静かに向き直り、震える声で相手を呼んだ。


「く、クっ君……」


 ここまで運んで尚、意識が戻らないクレイは当然その程度で意識を取り戻すはずもなく、レアフレアの呼びかけはなかった事にされたかのように、すぐに雨の音にかき消された。

 続いてレアフレアはクレイに近づき、先ほどと同じように身体を揺する。


「ねえ、クっ君、起きて? ね?」


 クレイが意識さえ取り戻せばまた状況は、やるべき事は変わってくる。

 しかしその想いも虚しくクレイの様子に変化はない。

 ──いや、変化はあった。レアフレアの体感かもしれないが、先ほどよりも更にクレイの身体が冷たく感じたのだ。


(これは、四の五の言って入れられませんね……)


 レアフレアは緩むように震える口をキュッと締め、覚悟を決めて行動に移った。

 横たわるクレイの上半身を起こし、意識のない相手の濡れた衣服を順番に脱がせる。


(やっぱり筋肉質ですね……って今はそんな事わわ……!)


 クレイの衣服をほぼ脱がせた所でもう一度まっすぐに横向きに寝かせ、今度は自身が立ち上がりクレイから見て背後を向く。

 その場でクレイの意識がない事をもう一度振り返って確認すると、やはり相手の顔は横たわらせたつい先ほどと変わらず真後ろの壁のほうを向いたままであった。

 再び前を向き直ると、レアフレアは自らの衣服もその場で脱ぎ始めた。


(うう~……クっ君の為、クっ君の為……)


 顔をかつてないほど真っ赤に染めたレアフレアは、脱いだ衣服の内、上着だけをクレイのすぐ後ろの地面に敷き、残りを畳んで隅に置く。

 そして横たわるクレイに並ぶように、敷いた上着の上にレアフレアもまた横たわった。


(クっ君の為、クっ君のため……)


 消しきれない雑念を無理やり押し込み、レアフレアは横になりながらクレイと自分の上半身をやや浮かせる。

 そして背中に生える純白の翼を器用に動かし、クレイの身体の下に差し込んだ。


(後は下も……)


 クレイの身体を浮かせている手を下にスライドし、自身もわき腹から腰を浮かせるにように身体を動かし、更にクレイの下半身と地面の間にも翼を挟ませる。


(これで、クっ君の身体が地面で冷えることはありませんね……)


 続いてレアフレアは自身の大きめの胸をクレイの背中に押し当て、両手をクレイの腹のほうへ回す。

更にもう一枚の翼を敷布団のように自身とクレイにかぶせた。


(……よし! 完了です!)

 

 計画通りの体勢まで持ってきたレアフレアは目を見開き胸中でガッツボーズをする。


(……)


 胸中ガッツポーズを終えて数秒、やることが無くなったレアフレアには、再び雨が降りしきる音のみが耳に入る。


(あ~、あぁ~……ラララ~……ららら~……)


 頭の中に音楽を流し、雑念を排除しようとするレアフレアであったが、することが無い今、それも無駄な足掻きである事をすぐに悟る。

 更に数秒沈黙し、現在の状況にどうしても意識が向いてしまう事実を、前向きに受け止めることにした。


(クっ君の鼓動が背中伝いでも感じます……細身かと思っていましたけど背中も腕もやっぱり筋肉質ですね……私たち筋翼人(バーディアン)の男性にも引けを取りませんよこれは……)


 レアフレアは更に前に回した手を動きまわしクレイの胸周りや顔もペタペタと触り、ついでに顔も背中に押し当てる。


(クっ君の匂い、新鮮ですね、私意外と匂いフェチかも知れないです……触ってみると意外と鼻も高いです、空気が出入りしているから鼻からもキチンと呼吸出来てるみたいですね、良かった……後は、他もそうですけど胸板は特に──)


「ぅ……」


「ひゃああああああああああああああああぁっ!!」


 突如小さな声を上げたクレイに、レアフレアは反射的に叫びを上げた。

 そしてその叫びを上げる原因となったはずのクレイにすがる様により強く抱きしめる。


「……」


 しばしの沈黙。

 クレイの背中に埋めさせた顔をゆっくりと上げ、クレイの後頭部を見上げながら口を開いた。


「く、クっ君……?」


 返事はない。

 ここに運ぶ際にわずかに上げた声と同様、無意識のものであったようだ。


(か、考えてみたらクっ君起きたらどうしましょう!? 二人とも裸です! 言い逃れできません! いや、正直に話せばいいのですけどもっ! 冷静にそれができる自信がありません! それに起きた後のクっ君の出方次第では私……!)


 落ち着いていた心が再び乱れ、再び顔を赤くして横に振る。


(身体が温まってきた頃を見極めて服、着直しましょうか?! あ、でもクっ君の服は濡れたままだし完全に起きるまでほっとくわけにも……い、いやその頃は私は服着て抱いててもいいですよね!? でもそれはそれで裸のクっ君抱いてることには変わりないですし……クっくん! 一体いつ起きるの!? 起きてほしいけど起きないで!)


 ひとしきり頭を回転させ、しばし時間が立つ。

 しかしまだクレイが目覚める気配がない。

 レアフレアは自分の身体を一度見下ろし、またすぐにクレイの後頭部を見上げ、少しだけ睨むように目をキツくする。

 そしてほんの少し頬を膨らませながら胸中つぶやく。


(……でも、女の子が恥ずかしがりながら献身的にこんな事してるのに、全く反応ないのもどうなんですかクっ君。……ちょっとくらい──)


 その時、レアフレアはクレイを覆っている自身の翼が熱くなっていくのを感じた。

 

(え? なんですか?? 私の翼が……こんな事いままで一度も……)


 焚き火に当たるような熱を発する純白の翼は、今度は金色の光を放ち出す。


(な、なんだろう……でも私……コレをどうすればいいか、わかる……?)


 ────この大陸において『魔法』の多くは解明されておらず、一人ひとり魔法に目覚めるきっかけは千差万別。

 大多数の者は魔法を使えないままその一生を終えることが多く、ソレはいつ来るのか誰にもわからない。


 レアフレアの魔法発現のタイミングは、今この瞬間であった。




挿絵(By みてみん)

 本来のイラストはR-18判定喰らってしまいました。

 修正前の物はTwitter(https://twitter.com/koorihoono)

にありますので良かったら探してみてください。

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