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十四話 この山の現状況は

 迫る超大男は両手の武器を肩に担ぎ、やれやれといったようなポーズで手を広げながらこちらへの歩みを続ける。


「おいおい、『誰だ』って聞いてんだぜ? こんな所に女子供がいちゃあ危ねーんじゃねーの?」


 その時、男の右側の地面の一部分が盛り上がる。


「! あぶない!」


 クレイが叫ぶが、もう遅かった。

 その一瞬後に勢いよく飛び出した影突殺土竜(アサシンモール)が、男が鎧で覆っていない部分に突き刺さった!

 が、


「ん? あぁまたこのモグラか……お前のいう通りだよ坊主、ここはこんな危険な生き(もん)がゴロゴロいる、だから危険だっつってんだが」


 常人ならば身体に風穴があきかねない影突殺土竜(アサシンモール)の突撃を、男は自身の筋肉だけで完全に止めた。

 それでも尚肌には影突殺土竜(アサシンモール)が爪を突き立てて空中でもがいてはいるのだが、男は全く痛みを感じてもいないかのようにそのモグラの爪を抜き取ると、手慣れた手つきで首を絞め影突殺土竜(アサシンモール)を動かなくする。


「鹿は逃がしちまったが、まぁオヤツにはコイツで十分か」


 捕らえたモグラをそのまま腰袋に放りいれ、再びクレイのほうへ向く。

 その相手の凶顔を見て、レアフレアはしがみついているクレイの腕により強く力を込めた。


「クっ君……」


 レアフレアのその行動に、男はやれやれと肩を竦め息を吐く。

 そこでクレイが口を開いた。


「申し遅れました、僕の名はクロード・スミスと言います。こちらの筋翼人(バーディアン)のレアフレアの依頼を受け、この大空勇翼鉱山(スカイディアヘイム)を登っていたのですが、崖から落ちてしまい、運よく命はあったものの仲間とはぐれてしまいこの場をさ迷っていた所です」


 クレイの言葉にレアフレアはクレイの顔を見上げる。

 目的及び起こった事は嘘偽りなく話し、しかし自らの名は偽名を使ったのだ。

 その答えに相手は頭を掻きながら笑いだした。


「なるほど、『クロード』で『クっ君』ね。しっかし驚いたぜ! まさかお前ら()あの崖から落ちてきてたとはな! はっはっはっ!」


 男の笑いにレアフレアはキョトンとした顔をし、クレイは『まさか』と言った表情を浮かべる。


「俺もだよ! お前らと同じように筋翼人(バーディアン)の家に行こうとしてたら足滑らして落ちちまった! お陰で仲間とはぐれちまったのも一緒だよ! 笑えちまうね!」


 男はその場でしばらく大笑いを続け、しばらく立った頃こちらを再び見やった。


「俺の名はザガロス。フルネームでザガロス・ガイザードだ! よろしくなクっ君ッ!」


 ザガロスと名乗った男は冗談っぽくクレイをそう呼ぶと、そこで顎に手を当てクレイとレアフレアをジロジロと観察した。


「おめぇら、その細い身体であの崖から落ちといてよく無事だったな筋翼人(バーディアン)のねーちゃんにちょっと持って貰いながら落ちたのか?」


 ザガロスの言葉にレアフレアは高速で手のひらをブンブン振り回す。


「いえいえまさか! 私がクっ君に助けて貰ったんですよ!」


「ほほぉ……どうやったか知らねぇが、クっ君おめぇ、あの崖から女を守るたぁ中々いい男じゃねーか」


「って逆にザガロスさんはあそこから落ちてどうやって助かったのですか? 見た所無傷みたいですけど」


「そりゃねーちゃん、俺は(つえ)ぇもんよ、あの程度の高さじゃなんともねーよ」


 レアフレアの問いかけに対し、胸を張り鼻息をあげながら答えるザガロス。

 そんな目の前の巨人を見て、レアフレアは開いた唇に手を当て「ほぇ~」と声を漏らし、クレイは戦慄で背筋を冷やす。


 その様子に満足するかのようにザガロスは腕に力を込め、より筋肉を見せつけてきた。

 そして今度はその丸太のような腕を動かし、女性の腕ほどありそうな極太の指でこちら指し、話を続ける。


「さて、せっかく知り合った事だ、一つ忠告しとくぜ。今はお前らの目的地へはいかねぇ方がいい! 理由は内緒だ、聞くんじゃねーぞ!」


 笑顔でそう語るザガロスに、クレイは内心舌打ちした。

 ザガロスと会うことは初めてではあるが、彼が何者なのかは知っているし(・・・・・・)、彼が言っている事がどういう意味なのか、既に予想がついていたからである。


 対称的に、見た目に反し陽気なザガロスと少し会話をし、若干緊張がほくれたレアフレアは大袈裟に口を膨らませザガロスに反論する。


「だめですよー! 私の父が大変なんですぅ! 早く行かないと!」


 レアフレアはそこで何か思い付いたような顔をし、再度ザガロスに言葉を投げ掛ける。


「あ、そうだ! ザガロスさんもお仲間とはぐれちゃったんですよね? それなら私達と一緒に行きませんか? その方がお互い心強いと思いますし!」


 クレイはそれを聞き、顔を強張らせる。

 その心境を知ってか知らずか、ザガロスは悩むように首をかしげ、再び頭を掻きながら口を開いた。


「んー、それも悪かぁねぇ、が! やめとくぜ。俺は一人でもこんな森は問題ねぇし、デート邪魔すんのもそこのクっ君に(わり)ぃしな」


 言いながらザガロスはクレイ達の横を通りすぎるようにそのまま歩いて行く。

 その真横を通る際、「かかかっ!」とまたもや大袈裟に笑いながらレアフレアに話かけた。


「ねーちゃん! 男の気持ちわかってやんな! せっかく二人きりなのにこんなデケェおっさんが一緒にいちゃあ邪魔でしょうがねぇだろう!」


 ザガロスが更に歩を進め相手の顔が見えなくなった頃、ふと立ち止まり今度はクレイに話しかけた。


「……確かに忠告はしたぜ、どう受けとるかはおめぇら次第だ」


 その言葉を最後に、ザガロスはそのまま奥へ歩いていき姿を消した。

 最後までそれを見送った所で、クレイはずっとはりつめていた警戒を解く。静かに目を閉じ大きく息を吐き、左手で冷や汗を拭う。

 そんなクレイの様子を見て、レアフレアは不思議そうに話しかけた。


「クっ君、どうしたんですか? ザガロスさん、最初恐かったけど思ってたよりいい人そうでしたよね?」


 レアフレアのその問いかけにクレイは半笑いをし、そしてすぐに表情を鋭くした。


「レア、急いで皆と合流しよう、引き続き案内を頼む」


 そう言って尚、『訳がわからない』と言った顔をするレアフレアにクレイは事情を説明した。


「あの人の鎧の中央にマークが、王冠を被った竜の紋章を見ただろう?」


 レアフレアが不安そうに頷くのを確認し、クレイは続けた。


「あれは北の軍事国家ラムフェムにおいて、最高位の称号である【竜聖十将軍】にのみ与えられる紋章だ。つまり今この大空勇翼鉱山(スカイディアヘイム)には、ユニバールと合わせて二国の軍団がいる事になる」

 何気にこの男、一章二十六話に名前だけ出てきてたりします。

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