十話 様々な魔法剣
クレイ達が駆けた先で目に入ったものは崖に面した狭い地形で、統一された甲冑を纏った兵士達が巨大な蠍を相手に苦戦している場面だった。
兵士の数は50人以上はいるだろうか。
しかし相手は全長3メートルを超え名の通り岩のような強度を誇る巨大な岩石大蠍の集団、こちらも10体近くいる。
右を向けば地層の壁、左を向けば崖真っ逆さまという地形の悪さから、ユニバール軍は集団での連携が思うようにとれず、前線の兵士は刃がまともに通らない相手に剣や槍で果敢に戦っている。
対して相手の岩石大蠍は甲殻類の足の力を活かし、急な崖でも複数の足で地面をがっしりと掴み複雑な地形を縦横無尽に動き回る事でユニバール軍を前から横から後ろからあらゆる方向から襲い掛かる。
そんな混沌とした戦場に、真っ先にブレイバスが斬り込んだ。
「【破壊魔剣】ッ!」
走りながら自身の得意とする魔法を展開する。ブレイバスの大剣は掛け声と共に一瞬にして刀身全てが黒い氣に覆われた。
「誰だ!?」
今まさに岩石大蠍に剣をぶつけている戦闘の兵士が声を上げた。
ブレイバスは問いかけはとりあえず無視し、走りながらその大蠍に真っ黒に染まった大剣で薙ぎ払いを仕掛ける。
「オラァ!!」
「ギィヤアァァッ!!」
その大振りの一撃により岩石大蠍の甲殻は爆発するように破壊された。
ユニバールの兵士達が何度攻撃してもロクにダメージが通らなかった大蠍に一撃で致命傷を与えた事に、周囲の兵士達は驚愕し手を止めた。
「【結界飛翔】ッ!」
また別の角度からクレイが既に宙返りをしながら大蠍軍に迫っていた。
そして宙返り中に生み出した魔法の足場を蹴る事で、斜め下に落下するように加速ししながらまた別の岩石大蠍に空中から襲い掛かる。
「はあッ!」
「ギュバアァッ!!」
その一撃は見事岩石大蠍の装甲の合間を縫うように突き刺さり、大蠍は苦悶の声を上げた。
尚も暴れようとする大蠍に剣を突き刺したまま、クレイはその長剣を両手持ちし直し更に叫ぶ。
「【結界真剣】ッ!!」
クレイの呪文と共に、周りからはわからないが岩石大蠍に突き刺された長剣の刀身を覆いその刀身が更に伸びるように魔法の刃が生み出される。
結果、大蠍は更に深く身体を突き刺されクレイの生み出した【結界真剣】が大蠍の身体を貫通した。
「おおおおッ!!」
そしてその剣を力任せに振るう事で、大蠍の身体は真っ二つに切り裂かれる。
そこから出てきたのは魔法と合わせ2メートルを超える長剣。その冗長な刃が日の光に反射し煌めく事で見る者を魅了する。
「ひ、ひえ~! クレイさん! ブレイバスさん! マジ強えぇッ!」
クレイとはまた違う方向から空を翔んでいたシュンツも同じように兵士達を援護していたが二人のその攻撃を見て他の兵士同様驚愕する。
「あ、あんたら一体何者だ!?」
再び兵士からの問いかけ。状況に少し余裕のできたクレイはそれに涼しい顔をしながらそれに答えた。
「通りすがりです、援護しますのでまずはこの場を収めましょう」
先ほどまで囲まれながら戦っていたユニバール軍であったが、クレイ達の乱入によりその一角はすぐに制圧され、隊全体が別方向に意識を集中できたことからすぐに攻勢は傾きだした。
クレイ達とは反対側、岩石大蠍を三匹相手にしている場に、ユニバール軍の中から一人、長髪長身の若者が声を張り上げる。
「大勢は決した! お前達仕上げた! 一気に畳みかけるぞ! 私に続け!!」
その男は手に持った長剣を大きく掲げ、最前線の兵士達の合間を縫うように岩石大蠍に駆け出す。
その様子を見て他の兵士達は口々に声を上げた。
「おおッ!!」
「ジークアッド隊長恩自ら……!」
「で、出るぞ、ジーク隊長の必殺の……」
ジークアッドと呼ばれた男は、大蠍に向かい剣を振るう瞬間に叫ぶ。
「【王道聖剣】ッ!!」
その男の呪文と共に、その長剣は眩い光に覆われる。
そしてその一撃は、岩石大蠍一体の巨大な尾を斬り飛ばした!
周囲の兵士達は雄叫びをあげ、ジークアッドに続くように皆活気付け、残りの大蠍を制圧していった。
「あっちにも魔法剣の使い手がいるみたいだな」
「あぁ、魔法の詳細はわからないけど、剣術は相当な腕前みたいだ」
近くの戦いを終え、その様子を遠巻きに見ていたブレイバスとクレイが感心するように口を開く。
その近くではリールが負傷者を見つけては【愛の癒し手】による治療し周っている。
「うわー、皆さん凄いですねー! 私、ビックリしましたです!」
その近くでは、レアフレアが翼をはためかせ宙を浮きながらクレイ達に称賛の言葉をを送る。
先程の戦いで崖の下まで落ちていった岩石大蠍もいた。レアフレアはなんの気も無しに浮かびながら落ちていった大蠍を確認するように崖の上を飛び、森になっている下を見渡す。
────その時、レアフレアの周囲は影に覆われた。
異変に気付き上を向くレアフレア。
影の正体は、落下してくる一体の岩石大蠍であった。
先程の戦いで、崖の上にいたまま参戦していなかった知能の少ない岩石大蠍が、仲間がやられていったことに興奮し崖から飛び降りレアフレアを襲ったのだ。
「レアフレアさんッ!」
その事実にギリギリで気がついたのがクレイ。
考えるよりも早く身体が動き、レアフレアを庇うように崖へ飛び出す。
結果、空中でレアフレアを抱き抱え大蠍の衝撃から彼女を救うことには成功する。
が、代わりにその決死の蠍ダイブを受けたクレイは、レアフレアを抱き抱えたまま岩石大蠍と共に崖の下に落下した。




