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九話 飛ぶという事は

 岩だらけで足場が悪く、傾斜の落差も大きい過酷な鉱山を歩くクレイ、ブレイバス、リール、シュンツの四人、とクレイ達が歩幅と同等の速度で翼をはためかせながら宙に浮くレアフレア。


「中々キツイ行進だな、リール、大丈夫か?」


「う~ん、まあ文句言ってられないよねっ、頑張るよ。ありがとねブレイバス」


 幼い頃からの生活家庭により人並み以上の身体能力はあるリールだが、それでもこの中では一番体力はないだろうとブレイバスが一応気を使い声をかける。

 実際問題なさそうな声が帰ってきたので、今度は他の男二人に声をかけた。


「クレイ、シュンツ、お前らは飛んでいかねーのか?」


「僕の【結界飛翔(フォースウイング)】は短い距離を立体的に動けるけど、流石に長い道で走るようにそれをしたら体力持たないよ。というか、そんな事言わなくてもわかってるだろブレイバス」


「オレの【天空殺法(ヘヴンドライヴ)】も一気に速く進めるッスけど、皆さんと一緒に行くなら無理ッスね。翔びながらゆっくり行くのはこの道を歩く以上に疲れるし、コントロールも大変ッス。オレだけ先に行っても仕方がないし」


 二人の大体予想していただろう返事にブレイバスは適当に「そーかよ」と返事をした。ただの雑談でありさほど興味はないのだろう。

 クレイはそこで現在唯一空を飛んでいるレアフレアに目を向け口を開く。


「その点筋翼人(バーディアン)は流石ですねレアフレアさん、魔法ではなく生態で飛んでいるわけですから、僕ら以上に無駄がなく慣れたものなんですね」


「えーっとぉ、そうでもないですよ? こんな事出来るの私くらいです」


「え?」


 レアフレアからの何気ない返事に、クレイは思わず聞き返した。


「私達筋翼人(バーディアン)は大体みんな筋肉ムキムキですから、その分重いんです。だからシュンツさんみたいにビューンって行ったりするのは得意ですけど、私みたいにパタパタ飛べる人は限られてきます。人によってはシューッと滑空しか出来ない人とかもいますからねぇ」


 レアフレアの返答を一同は興味深そうに聞く。

 今回の依頼に相手の生態や慣習は直接かかわるものではないが、それでも相手の事を知っておくこと自体が大切だと言う事は場の全員が理解しているのだ。

 そうした所で前方から複数の人の声や物音が聞こえてきた。その物音に対しクレイが呟いた。


筋翼人(バーディアン)かな?」


「いえ、なんだが金属の音とかしますねぇ。人間じゃないでしょうか? 滅多に来ませんけど」


 クレイの予想を否定するレアフレア、そこでシュンツが口を開く。


「まだけっこー距離があるッスね、俺が見てくるッスよ 【天空殺法(ヘヴンドライヴ)】!」


 シュンツが唱えるとシュンツの足元から突風が放出され、それに乗るようにシュンツの身体は宙を浮いた。

 

「なにかわかったら戻ってくるッス!」


 シュンツはそう言うと更に足から風を吹き出し、その勢いで鳥のような速度で物音がするほうへ飛んでいった。


「俺から見たらアイツも筋翼人(バーディアン)と変わらねえけどな」


「飛べるって気持ちよさそうだねー」


 すぐに消えてゆくシュンツを見送りながらブレイバスとリールが呟く。


「でも簡単じゃあないですよー、私達筋翼人(バーディアン)も、生まれ持って翼持っていますけど、キチンと飛べるようになるまでに失敗して落ちて死んじゃう事も多いですからー」


 あどけない顔で日常話のようにそう語るレアフレアにクレイも続く。


「単純に縦横以外に高さが加わるからね、僕もある程度自由に動けるようになるまでは凄い大変だったよ。レアフレアさんが言う通り制御に失敗すると最悪死、よくても大ケガは必至だしね」


「クレイもよく落ちてはお父さんの魔法に助けられてたしねっ」


「慣れてきて油断してきた辺りでまた落ちて、リールにもよくケガ治して貰ってただろうクレイ!」


「うるさいな!」


 『自在に飛べる』とまではいかないが、それでも空中をある程度動き回ることが出来るクレイの失敗談を、その様子をよく知るリールとブレイバスがからかうように蒸し返す。

 このような飛翔談議をしている所で、この中でもっとも実戦的に空を翔べるであろうシュンツがやや慌てるように戻ってきた。


「凄い事になってるッス! ユニバール軍が兵隊率いて岩石大蠍(ロックスコーピオン)の群れと戦ってるッス!」


 ────岩石大蠍(ロックスコーピオン)

 鉱山などに生息する巨大な蠍。

 名の通りその外甲が岩石のように固く大きく物々しい。尾に付いた長い針は前方まで自在に操ることが出来、毒等はないがそれを振り回すだけで脅威的な存在な野生生物。

 獲物を見つけるとただただ殺戮兵器のごとく襲い掛かってくることから、出会ってしまえば『追い払う』という選択肢はなく『仕留める』か『逃げ切る』かのどちらかを強いられる。


「ユニバール軍? どうしてこんな所に……」


 クレイはそこまで言いかけて口を閉じた。そして数日前に酒場でリールが持っていたチラシを思い出す。


 ────あぁん? 何々、『ユニバール王国の戦力増強のため、筋翼人(バーディアン)を我が国の戦力に加えるべく鉱山へ赴く! 勇気ある者我ら騎士団の元に来たれ!』、か────


「こないだ言ってた筋翼人(バーディアン)を説得しに来たユニバールの一団、じゃねえか?」


 ソレに気付いたブレイバスも肩を回し、首を慣らしながら嬉しそうに口を開く。

 この出来事にたいしどうするかはまだ決まっていないが、この男は既に闘る気のようであった。


「……うん、きっとそうだね。ユニバール軍と関わるつもりはなかったけど、敵ってわけでもないし恩を売っとけるならそれに越した事はないかな。よし皆、援護に入ろう!」


 クレイの一言に一同は気合をいれて返事をすると、戦いの方向へ駆け始めた。

 実際に鳥人間なるものがいたとして、人間の体重で空を飛ぶには何倍もあるとんでもない大きさの翼が必要で、それを扱うにはとんでもない量の筋肉が必要で、そんな筋肉つけてたら更に重くなるからもっと大きな翼が必要になって、

 そんなこんなで仮に実在しても空を飛ぶのは無理らしいですね。


 作品によっては「翼は補助の物でメインは魔法で飛んでいる」とか「細かい生態系をキチンと設定し現実味を持たせる」とかあるみたいですが、本作の筋翼人(バーディアン)は別にそんな事はありません。

 まぁその辺はファンタジー的なノリで了承お願いします。

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