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二十八話 事の真実

 クレイが目を閉じて沈黙する様子をみて、ヴィルハルトも口を閉じた。人差し指を立てつつウィンクをしたままのポーズで微動だにせず。

 ジェルから解放されたミザーは、その奇妙な二人を不思議な物でも見るかのような目で、何をするわけでもなくただ見ていた。クレイの考えを知りたいからという理由と、なにか行動を起こしてもヴィルハルトには通用しないであろうことを先ほどの攻防で理解したからだ。


「ヴィルハルト将軍達は僕たちが窮地に陥るのを知って、もしくは予測して助けに来てくれた、というわけですね」


「フッ そうなるな フッ」


「僕たちがこの獣神の聖域森林(フェンリルウッズ)に来た理由は夜狼人(ウェアウルフ)を説得し、来るべき【闇部族(ダークネス)】との戦いのためにラムフェスと同盟を結ぶこと」


 クレイは自分達の任務内容の復唱をする。


「この森に来た時から色々な事が起きました。黄土色の霧が出たと思えば僕たちは部隊からはぐれ、その後虚ろな目をした明らかに尋常ではないラムフェス兵に襲われた。あの兵士達の様子が、霧のせいだとするならば僕やブレイバス達もそうなっていないとおかしい」


 次に復唱したのは森に入ってからの出来事。


「最初は夜狼人(ウェアウルフ)側の攻撃かとも思った。でも、ミザーやその後であったエルダー族長の様子をみても、とてもそうとは考えられない。そもそも彼らにこんな回りくどいやり方で僕らを陥れる理由もない」


 ミザーはその話を神妙そうな顔で黙って聞いている。ヴィルハルトはクレイの推理を満足そうに聞きながら、どこから取り出したのかワイングラスに飲み物を継ぎ始めた。


「そしてラムフェス兵の皆さんと夜狼人(ウェアウルフ)の人たちの交戦。その時に彼らはハッキリと言った。僕たちに『裏切り者だ』と」


 クレイはそこで一つため息をつき、ミザーの方へ目をやる。


「最初に出た黄土色の霧は隊列の前方から突如出現したようにも見えた。ミザー、あの霧はこの森で自然発生した物ではない事は間違いないね?」


「……ああ、私が生まれてからは一度もないし、過去にそのような話も聞いた事はない」


 話しかけられたミザーは、聞かれた通り自分の知っている事を話す。


「と、すればあの霧は人為的に、魔法で産み出されたものの可能性が高い。あの時部隊前方にいて、そもそもあんな広範囲を制圧できる程の魔法を創り出せる人物、そして僕らが裏切ったと嘘の情報を流して簡単にそれを部隊全員に信じ込ませることが出来る人物」


 そこまで聞いて、ヴィルハルトは注いだ飲み物を一気飲み干し満足そうに髪をかきあげた。


「貴方がたと同等の実力者である【奇竜】エブゼーン・キュルウォンド将軍。あの人が僕たちをハメた、で間違いないですか? ヴィルハルト将軍」


 ラムフェス王国が誇る【竜聖十将軍】の一人【奇竜】エブゼーン・キュルウォンド。クレイ達を『重要任務だ』とこの森に連れ込んだ張本人。

 森に入ってからは別行動をとっており一度も会っていない部隊の最高責任者。


「フッ 完璧だ フッ」


 クレイの問いかけに、ヴィルハルトは間を置かずに返事をした。すると後ろから人影が起き上がり、声を上げる。


「……おい、そりゃマジかクレイ」


「ブレイバス、起きたのか」


 クレイは振り向き、起き上がったブレイバスに目を向ける。


「ああ、俺が口を挟んでもしょうがねえと思ってよ、途中から寝たふりをして聞いてた。そしたらそんな答えが出てくるからつい口挟んじまったよ」


 ブレイバスはそう言って頭を押さえる。


「まあ、挟んじまったついでに聞きたいこと聞くぜ? どうしてエブゼーン将軍が俺たちを陥れようとしているんだ? んでなんでヴィルハルト将軍達はそれに気づいたんだ?」


「フッ いい所に気がついたなブレイバス。クレイ、続きを説明できるか? フッ」


「……いえ、僕が予想した事はこの状況に持って行ける事を出来る人物を消去法で探したに過ぎません。相手の真意まではとても……」


 二人の問いかけにクレイは正直に答える。しかしそれもヴィルハルトの予想内だったようだ。ヴィルハルトは視線をクレイから外し、ミザーの方へ向ける。


「フッ ではミザー嬢、貴女にはお分かりかな? フッ」


 クレイは困惑した。ミザーにして見れば今日あったばかりの他種族が大きなもめ事を起こし、自分達はそれに巻き込まれた。つまりミザー達夜狼人(ウェアウルフ)にとっては今回の事はとばっちりであり、であってもいない人間の真意などわかるはずがない。

 しかし、ミザーの口から出てきた言葉はクレイの予想とは反するものだった。


「……そう聞いてくるという事は、そのエブゼーンとか言う人間達を束ねる者の目的は私、だな?」


「ミザー? どういうことだ?」


「人間達との交戦の場に行った時、クレイと同じように私も狙われていた。詳しい事はわからんが理由はいくらでも予想はつく。夜狼人(ウェアウルフ)族長の一人娘である私を捕える事が出来れば他の夜狼人(ウェアウルフ)達への牽制や、他国や他種族への外交カードなんかにも使えそうだな。そもそも外界との関わりを絶った我々夜狼人(ウェアウルフ)の女だ、奴隷の類でも金にはなるだろう。多くの人間はそう言ったものに目がない、と聞いた事があるぞ?」


 自分の価値を冷静に、そして冷徹に話すミザーにクレイもブレイバスも威圧を感じ、気圧されする。

 その横で涼しい顔をしたヴィルハルトがミザーに話を続ける。


「フッ それも正解。ではそう感じている貴女がクレイに対して心を開いた理由は? フッ」


「……? 実際会ってみて、この男からはそんなような悪い印象は受けなかったからだ」


 ミザーは訳がわからないような顔をし返答した。そしてその返事にクレイもブレイバスも違和感を感じる。


「フッ 通常そのような判断はしないのだよミザー嬢。初対面の印象はどうあれ、たったそれだけの事で他種族の相手が確実に安全な者だなど確証など持てるはずがない フッ」


「……」


 ミザーは再び沈黙する。クレイ、ブレイバスも黙ってヴィルハルトの次の言葉を待った。


「フッ しかし貴女の勘は極めてよく当たる。それはまるでそういう魔法であるか(・・・・・・・・・・)のように。違うかい? フッ」


「ああ、そうだな……私の勘はよく当たる……『魔法のように』か、そう言われた事もあるな」


「フッ エブゼーンの真の狙いは君の予知ともとれるその力だ。その力を得るために今回の騒動を起こし、責任をクレイ達になすりつけようとしたのだ フッ」


 合点が言った。貴重な力を持つミザーを捕え、制御する事が出来ればそれはエブゼーンにとって大きな力になる。使い方次第では夜狼人(ウェアウルフ)と同盟を組むという軍事力より大きなものかも知れない。そしてその際に起きた事をクレイ達部外者に責任を押し付ければ彼にとってはいい事づくめでしかない。

 国を欺き、夜狼人(ウェアウルフ)を謀り、クレイ達名ばかりの英雄たちを犠牲に。


 クレイはそこまで思考を張り巡らせた。しかしヴィルハルトの次の問いかけにより、状況はその程度の事ではない事を思い知る。


「フッ ではクレイ、エブゼーンがどうやって本人すら正確に把握していないミザー嬢の力を知ったのか、どうして私たちが彼の凶行に対し真正面から君たちを助けてやれないのかわかるか? フッ」

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