十九話 それぞれの再会
夜狼人の若者の案内でクレイ、エルダー、ミザーの三人はその現地へ向かう。
ウェアリスとウルディは族長エルダーの命令を受け、他所にいる夜狼人達を集めに別方向へ走った。
「走りながらでいい、詳しく話せエトゥ」
その途中、エルダーは若者夜狼人、エトゥに詳細を聞く。
「ハッ! ここより数km先の一角にて、私と他数人が重武装した人間と接触! その際相手の目的を確認しようと威嚇しながら話しかけた所、人間が弓を引き我々に放ちました! それを皮切りに乱戦に突入! 私のみ報告に戻った次第であります!」
「武装した人間……ラムフェス王国の者か?」
エトゥの話に、エルダーはそう口にしクレイの方を見やる。
『自分たちの仲間が説得対象である夜狼人に先制して襲った』 それは信じがたい事ではあったが今この森で重武装をしている人間の集団等、数時間前まで行動を共にしていたラムフェス軍以外には考えられない。
それをこの場で認める事は、任務達成は勿論夜狼人に囲まれながら単身行動している自分の命までも危険に晒しかねない。
しかし、『夜狼人には仁義がある』 その師の言葉を信じるならば今、下手に嘘をつく事は余計に状況を悪化させるだろう。
今この場にいるのは、戦闘を通してある程度打ち解けたミザー、物事を合理的に考えるエルダー、立場が弱そうなエトゥの三人。もしもウェアリスがいたのならば、怒りの矛先はそのままクレイの方へ向きそうでもあったが、幸い────いやエルダーがそれすらも察しての役割分担だったのかもしれない────ウェアリスはこの場にはいないため、クレイは正直に考えている事を口にした。
「わかりません。しかし、可能性は高いです。エトゥさん、その兵士達は虚ろな目をしたり、なにか様子はおかしくなかったですか?」
そこでクレイが考えた事は先ほど自分を襲ってきた三人の兵士の事。人の精神に異常をきたす何かが起こっていて、それが原因での交戦ではないかと予想を立てたのだ。
「……いえ、そんな事はありません! ただ奴らはこちらを見るなり人間らしい怒りの形相で攻撃を開始しました!」
走りながらもエトゥは後続のクレイを睨み、反論する。この若者もやはり夜狼人。エルダーやミザーの手前で抑えているだけであり、人間であるクレイを快くは思っていないだろう。
「なんにせよ行ってみなければわからんか。ミザー、エトゥ、いつでも【獣還】出来るように構えておけ」
エルダーのその一言に、ミザーとエトゥの顔が引き締まる。
(【獣還】……さっきミザーが狼の姿になったアレか)
クレイは初めて聞く言葉に自己解決しながらも、自分もまた気を引き締め現場へ臨む決意を固める。
その時、前方のエトゥが足を止め左前を注視する。
それに釣られるようにエルダー達も足を止め、そちらを見やった。
「どうしたエトゥ、もう着いたのか?」
「まだ現場ではありません。が、複数の気配がします」
エルダーの問いに、エトゥは視線の先を警戒しながら返答する。
「……なるほど四人、か?」
「夜狼人と、人間の臭いが混じっているな」
エルダーとミザーも注意をそちらに向け、やってくる何かを臭いと気配で分析する。
クレイにも木々の物音で何かが近付いてくる事が僅かに認識出来た頃、その方向から狼の遠吠えが聞こえた。
「この声は、ガリオンか」
エルダーがそう呟くと、隣でミザーが遠吠えに返事をするかのように自らも鳴いた。その声は通常の狼の遠吠えとは一線を画する綺麗な声。
(これなら相手にも誰が声を上げたかすぐにわかるな)
近付いてくる者が仲間だとわかったクレイ達は、そちらに進行方向を変えた。
◇◇◇◇◇
狼の遠吠えが聞こえたほうへ向かうと姿を見せた人影は合計で四つ。
その内二人はミザー達のように頭から犬耳を生やした二人の男。その内の細身の男は足を引くように歩いている。
そしてもう二人はよく見慣れた小柄な緑髪の少女と大柄な黒髪の少年だった。
「リール! ブレイバス!」
クレイはその二人、リールとブレイバスの名を呼ぶ。
「クレイっ! 無事だったのねっ!」
「オメー、どうして単独夜狼人の人らと行動してんだ?」
「そっちこそ。……まぁお互い上手くコミュニケーションとれたって事かな?」
クレイ達三人が話をしている隣でエルダーが、ブレイバス達と共に行動をしていた夜狼人の二人に声をかけた。
「ガリオン、デイブット、見たところ多少怪我をしているようだが何があった? 急を要する事態が起こっている。手短に話せ」
「はっ! 月樹の果実の収穫に向かっていた所この者達と遭遇。果実を食い荒らされていた事から混戦が始まり、敗北しました」
エルダーの問いに答える細身の夜狼人。その二人の会話にミザーが眉を潜めながら呟くように口を開いた。
「敗北……?」
他種族と戦闘を行い敗北したのであれば、命をとられていてもおかしくはない。しかしそれどころか大きな怪我は見受けられず、ましてやその人間達と仲良く歩いているのだ。ミザーの頭の中は疑問で溢れていた。
「お、お嬢、でもコイツら、いいヤツ。こっちから仕掛けたのに、怪我、治してもらった」
ガリオンの隣で太った夜狼人デイブットがミザーの疑問に答える。
正確には答えてはいないのだが、その言葉でミザーの疑問はほぼほぼ解消された。
その答え合わせをするかのようにガリオンが更に話を続ける。
「こちらから仕掛けた闘いに無様に敗北をし、情けと共に回復の魔法を、そちらの人間の少女にかけられ、生き恥を晒しております」
一通りガリオンとデイブットの話を聞いたエルダーが、納得した顔をするとブレイバス達の方へ目を向け再び口を開いた。
「そうか、ブレイバスにリールと言ったな。コチラの者が迷惑をかけた。そして我々もクレイ殿から話の大筋は聞いた」
そして更にこの場の全員に話を続ける。
「しかし、お前達以外でも夜狼人と人間が争いを行っているという情報が入った。速やかに問題解決するために人間の二方は着いてきて貰うぞ。ガリオン、お前は足を怪我しているな? 拠点に戻れ。デイブット、お前はその付き添いだ」
「はっ! 気遣い頂き痛み入ります」
「わ、わかりました!」
エルダーの指示にガリオンとデイブットは直ぐに従う。そしてブレイバスとリールの方へ顔を向けた。
「二人とも、先程は済まなかった、俺とデイブットはここで別行動をとる。今からお前達が同行するのは我らの長とその娘だ。失礼のないようにな」
「ブ、ブレイバス、手加減してくれてありがとう。リールも、怪我、治してくれてもっとありがとう!」
ガリオンとデイブットの言葉にブレイバスとリールも笑顔を向けながら返事をする。
「ああ、もう気にしてねーよ。元気でな!」
「ガリオンさんの足、しばらく時間かかるから安静にねっ!」
そこまでいうとブレイバス達もエルダーのほうを向き直る。
「わかりました、多分俺達みたいな感じでちょっとしたイザコザですかね?」
「多少の怪我なら私が癒せるので任せて下さいっ!」
こうしてブレイバスとリールを加えた六人は、再びエトゥを先頭に走り出した。




