一話 訓練試合
長らくお待たせしました!
まったりペースになりますが更新再開しますのでよろしくお願いいたします!
石壁に囲まれた殺風景な広場で全身鎧を纏った何十人もの兵士たちが、暑い日差しをその身に受けながら弱音の一つも吐かずに石壁の内側で大きな輪を作っている。
その輪の内側にいるのは総勢十一人の男女。
十一人の中で更に一人と二人、そして八人のグループに分かれ、それぞれ横に並んで向かい合う相手を見つめている。
一人だけ単独で立っている、焦茶色の長髪をなびかせながら凛とした顔立ちの男が場の全員に向かって声を張り上げた。
「これよりチーム戦対人試合を行う! 各々準備はいいか!」
男の言葉に全員が「はっ!」と勢いよく返事をする。
そしてその後、二人チームのうちの一人、大柄黒髪の青年が隣の青年に小声で話しかけた。
「とは言ったもののクレイ、二対八ってやっぱあんまりじゃねえか?」
話しかけられた茶髪の青年、クレイもまた小声で返事を返す。
「直前でそんな事いうなよブレイバス、僕らの力を買ってくれての戦力差だ、精いっぱいやろう」
二人がヒソヒソとそんなやり取りをしていると、場を仕切っている長髪の男がクレイ達を睨みつけてくる。
「何か言ったか、クレイ、ブレイバス」
「なんでもありませんジークアッド将軍」
ジークアッドから言葉がかかるや否や、即返事を返すクレイ。
ジークアッドもそれ以上追及する事なく、再び視線を前方に戻した。
「ルールの最終確認だ! クレイとブレイバスの二人に対し、イチット、ニィ、サンス、ヨンヨン、ゴエル、ロック、ナーナ、ハチリの八人による試合! 魔法も自由に使用可! 相手全員を戦闘不能にするか降参させるかしたチームの勝利とする!」
ジークアッドはそこで声を区切ると、一歩身を引く。
審判でもある彼が離れることにより、両チームが戦いやすくする配慮だろう。
「それでは……始め!!」
号令と共に、相手チームが動いた。
八人のリーダーである中心にいる男、イチットがその場で屈み手を地面につけ、叫ぶ。
「【瞬間地均】!!」
元々この広間は、無骨ながらも平坦な地形ではある。
その地形がイチットの魔法により、周囲の床が丁寧に磨いたガラスのように更に綺麗に美しく姿を変えた。
イチットの隣で短髪の女性、ニィが両手を前に突き出しながら唱える。
「【岩石召喚】」
言葉と共に、突如空中に大小様々な岩が出現した。
岩々は重力落下に従い均した平地の上に多少ばらけながらも積み重なりあっていく。
その横で、細身の男サンスが右手の手の平を自らの顔面を握る様なポーズをとりつつ声を上げた。
「【物質接着】!」
その魔法により、バラけている岩々が中心に集まりだし、更に積み重なっている岩々共々一つの物質になっていく。
更にツインテールの女性ヨンヨンが、手持ちの杖を振りかざしながら叫んだ。
「【重力調理】ッ!」
今度は集まった岩が潰れていく。
いや、ただ潰れているだけでない。見た目ではわかりにくいが、大きな岩が圧縮されより強固な物質へと昇華されていっているのだ。
その後続で、背の低い男性ゴエルが唱える。
「【魔法擬人化】!!」
すると圧縮された岩がなにやら形を成していく。
人の頭や手足のようなモノが生え始め、さほど時間を置かずに岩の塊は岩の巨人へと姿を変えた。
更に岩が巨人になるまでの間にイチット達八人はその巨人に乗り移っていく。
いや、乗り移るのではない。変身の過程で八人はその巨体の中に取り込まれていったのだ。
つまり、この巨人を破壊しない限りもう八人を直接攻撃する事は出来ない。
「おおー……」
次々と展開されていく魔法を見守るクレイとブレイバス。
そんな二人を見下ろしながらイチットは叫ぶ。
「どうだクレイ! ブレイバス! これが我がユニバール王国が誇る合体魔法! お前たちに破れるか!?」
イチットの隣で筋肉質な男性ロックが更に叫んだ。
「【超量操作】!!」
その言葉に反応するように岩巨人は動き出し、クレイとブレイバス目掛けてその剛腕を振り下ろした。
二人はそれぞれ左右に散るように回避する。回避した一瞬後、岩巨人の剛腕により広場の地面に大穴が空き、土や石が周囲に飛び散る。
「訓練にしちゃあ容赦なさすぎじゃあねーですかい!?」
ブレイバスは毒づきながらもゴーレムの足元に向かって大剣を構えて走り出した。
その途中で、ブレイバスもまた声高らかに唱える。
「【破壊魔剣】ッ!!」
するとブレイバスが持つ大剣が瞬く間に黒い氣に覆われる。
その破壊の力を纏ったまま岩巨人の足元に斬りかかろうとする。
が、
「【身体砲弾】!!」
その前にポニーテールの女性、ナーナが唱えていた。
言葉と共に岩巨人の手足からブレイバスに向かって無数の岩が発射される。
「うおおおおぉッ!?」
その多方向から迫る変則的な射撃に、ブレイバスは足を止めざるを得なかった。
大剣を盾として使い砲弾をある程度防ぐ。が、それでも何発かは身体をかすらせる。
一方、ブレイバスとは逆方向に剛腕を回避したクレイは、ゴーレムの頭目掛けて高く跳び上がっていた。
ただの跳躍では巨人の頭上までは流石に届かない、が、その跳躍中にクレイもまた叫ぶ。
「【結界飛翔】ッ!」
呪文と共に、空中のクレイの靴裏に半透明の小さな結界が生み出される。
空中で停滞するその結界を踏むことで、クレイは更に跳躍した。
「はああああああぁッ!!」
相手は全身鉱物の巨人。
しかし稼働部があれば関節部もある。クレイはその巨体の動きを観察し、結合部の一つである首に狙いを定めたのだ。
事実、そこは岩巨人の中でも比較的外部からの衝撃に弱い場所であった。
────しかし、岩巨人はクレイのその攻撃のポイントをずらすように首を動かし、結果、クレイの剣撃は弾かれる事となった。
「くっ……」
苦悶の声を漏らすクレイ。
当然クレイ達は知らない事であったが、この岩巨人の内部ではイチット達八人が手や足など様々な部分に分かれて外部を見張っている。
岩巨人を操作しているのは基本的には【超量操作】を使うロックではあるが、そのロックの隣に配置されているのは長髪の女性ハチリ。
「【状況共有】……!」
このハチリの魔法により他の六人達と魔法で意思を疎通させ、この巨体の各種状況や周囲の状況を完璧に把握していたのだ。
弾かれたクレイは、砲撃の嵐を受け後退を余儀なくされたブレイバスのすぐそばに着地する。
「合体魔法、ね……」
「確かに脅威だな、俺じゃあ近づくことも難しいし、クレイ、お前じゃあの巨体にダメージを与えづらい、か」
クレイ達の呟きを聞き、岩巨人が背筋を伸ばして胸を張る。
そしてその中からイチットの声が高らかと響いた。
「はははははッ! 臆したかクレイ! ブレイバス! 今まではお前たちに負けっぱなしだったがチームプレーなら俺達の方が上だったようだな!」
8VS2でここまで誇れるのもある種の才能であるな、とクレイは思ったが、それは口に出さずに隣のブレイバスに声を掛ける。
「仕方ない、僕らもやろうか、ブレイバス」
「おうよ」
クレイは岩巨人に向けて長剣の刀身を向け、切っ先の後ろに左手を添える。
ブレイバスはそんなクレイの背後に回り込み、クレイの両手を更に握った。
「ははははははははッ!! クレイ! ブレイバス! 一体何をしようと────」
「【破壊光刃】!」
イチットの言葉に重ねるように同時に唱える二人の言葉と共に、クレイが持つ刀身から真っ黒な刃が放たれた。
それは岩巨人の身体に炸裂すると、轟音と共に岩の巨体は爆発した。




