表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翼を持つ彼等  作者: 夢猫
とある王国と彼等の話
23/24

それから

 それからの事を少し話そう。


 リリィート王国の国王ベラントはそれから一年後に崩御した。


 一年前、双翼の剣……基、シルクーラの使いの者との詳しい話し合いの末、シルクーラは三年間リリィート王国との貿易、観光、移住、双翼の剣への依頼など、全ての関係を断絶する事を正式に決定し、世界中へとその事を報せた。

 それから国が傾くのは早かった。

 あらゆる国から依頼を請け負う最強の傭兵ギルド、双翼の剣。

 彼等が本部を置く独立国家シルクーラには、世界各国から依頼をしに人々が訪れ、大きな港にはひっきりなしに貿易船や観光船が寄港する。

 建国して間もない小さな国ではあるけれど、シルクーラは世界中から人と物と依頼が集まる貿易と観光とギルドの中心であった。


 そんな国から関係を断絶されたリリィート王国。

 近隣諸国は自分達まで巻き込まれては堪らないとばかりにリリィート王国との関係を拒絶し、極力関わらない様にとその動向を見守る事に徹した。

 みるみる傾いていく国に他国へ逃げ出す国民も少なくなかったが、シルクーラが移住すらも拒絶している中で、リリィート王国の国民を迎え入れてくれる国など殆どなく、他国に逃げる事も叶わない国民達は事の発端であるベラント国王への不満を募らせながら日々を耐え忍んでいた。

 もう一人の原因であるキャローナ王女は一騎打ちが終わり、双翼の剣の者達が帰国した次の日には既にその存在は無かった事とされており、噂話として出回った"彼女のその後"を聞いた者達は皆、その後暗黙の了解で彼女の話をする事はなかった。

 そうして、国民達の不満を一身に受ける事となったベラント国王は、自分は悪くないと喚き続け、家臣に当たり散らし、何かに脅える日々を過ごし、そうしてある日、自室で亡くなっているのを発見された。


 宰相を務めていたマーダルはある日忽然と姿を消し、ディルス王太子の腹心であったドライトが後任を任されている。

 ディルス王太子は亡きベラント王の後を継ぎ、新たな国王として妹のグリーティア王女と共に、僅か一年間で近隣諸国から見放されたかけている自国の為に尽力している。


 シルクーラへ行く事になったスウェンもまた、一連の出来事から一年後にキャローナが送られたグランダラ王国へと足を運んだ。


 一面白の壁紙に、格子のはめられた小さな窓。簡易的なベッドとトイレ、洗面台があるだけの部屋。そんな部屋が幾つも並ぶ建物。

 そんな建物内の一室に彼女は居た。

 白い室内着を身に纏い、ボウっと窓の外を眺めるその瞳に精気はなく、長かった髪はざんばらに切られており、ただでさえ白かった肌は青白いと言える程に白く、スウェンの記憶にあるよりも痩せこけていた。


「いやぁ、この前までは五体満足だったんだけどねぇ。一昨日やった実験で右手と右足失くしちゃってねぇ」


 あははぁ、とのんびり笑って言ったのは"実験道具"の管理をしている男だった。

 その男曰く、今まで"実験道具"は調達していたのだけれど今回の様に調達するのが困難になる場合に備えて、自分達で()()する事にしたそうだ。キャローナはその"一人目"に選ばれたのだと言う。

 近々適当な相手を見繕うのだとまで聞いたところで、スウェンは思わず嫌悪に顔を歪めた。

 キャローナの血を継ぐ者は、奇跡でも起きない限り子々孫々、人間ではない"道具"として扱われる事が決まってしまったという事だ。

 子に罪はないだろうにとは思うが、それでもスウェンは何もせず、ただ全てをディルス国王へと報告した。


 哀れだとは思うが、だからといってキャローナを逃がしてやろうとも、これから産まれてくるであろう子供達を救ってやろうとも思わない。

 ただただ、肉食獣に襲われる草食獣を見ている様な感覚で、可哀想だ、と思うだけだ。

 もしここに一年以上前の自分が居たならば、その考えも、そして行動も、今とは全く違っていたのだろうけれど、残念ながら今ここに居るのは、一年間双翼の剣の者達と行動を共にし、彼等の思考にすっかり染まってしまったスウェンだ。

 だから彼は、キャローナとこれから産まれてくるであろう子供達を哀れみ、同情し、何もせずにその場を後にした。


 そうして三年後、ディルス国王とグリーティア王女を中心とした者達によって何とか"国"という在り方を保ち続けたリリィート王国は、視察に来たシルクーラの者達にも認めてもらい、長かった関係断絶の撤廃に成功した。


 以降、リリィート王国とシルクーラは良好な関係を築いていった。


 なお、リリィート王国の歴史から突如として名前が消えた"キャローナ王女"については、スウェン・オーブナーからディルス国王へ届けられた"報告書"を最後に二度とその名が上がる事は無かったという。



『とある王国と彼等の話』終。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ