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ダンジョン発掘物語   作者: Y.A


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第五話

「義信は、ダンジョンでレベルアップしたからの。今日一日は、体を慣らす方が良いぞ」


「そういう物なんだ」


 白キツネの案内でダンジョンに入り、スライムを沢山倒してレベルアップし、ついでにお宝も手に入れた翌日。

 白キツネの助言通りに、今日は一日家に居る事にする。


 とは言っても、畑の手入れなどがあるので完全休養というわけではない。

 白キツネも、ダンジョンに入らないで体を動かすくらいなら大丈夫と言うので、今日は善三さんとサツマイモ畑で農作業に勤しんでいた。


 我が家の一ヘクタール分は善三さんにレンタルしているのだが、将来に備えて農作業を教わる必要があったのだ。

 去年一年間も同じ条件で善三さんから農作業を習っていたが、やはり農業は一年くらいでどうにか出来る物でもなく、転職活動も上手く行っていない以上は身を入れる必要があった。


 今日も、善三さんから細々としたアドバイスなどを受けながら、作業を黙々とこなしていく。


「義信君、大分慣れたね?」


「そうですか?」


「ああ、物凄く作業が早い」


 昨日、ダンジョンでレベルアップした影響なのであろうか?

 平成日本ではキツイ部類に入る農家のお仕事が、今日はとても軽快に出来てしまうのだ。

 何時間腰をかがめながら作業をしても、疲労感も無く、腰がダルいという事も無い。


 白キツネが言うには、地球上の世間一般の人間は死ぬまでレベル1らしい。

 驚異的な戦闘力を持つ軍人や、オリンピックに出てしまうようなトップアスリートはどうなのかと聞くと、彼らは訓練によって能力値を上昇させてはいるが、レベルは1のままなのだそうだ。


『十年の弛まぬ訓練よりも、ダンジョンで戦ってレベルアップした方が圧倒的に効率が良いのじゃ』


 白キツネは、こう言っていた。

 どこまで事実なのかは知らないが、おかげで普通に農作業を行ってもあまり疲労しない超人的な肉体を手に入れたようだ。


「いいなぁ。体力付いた?」


「かもしれない」

 

 善三さんと一緒に作業を行う理沙さんが、羨ましいそうな表情で俺を見る。

 彼女も体力はある方なのだが、さすがにレベルアップした俺には敵わないからだ。


「義信ちゃん、何かトレーニングでもしているの?」


 五歳も年下の女性にちゃん付けで呼ばれるのはどうかと思うのだが、これも童顔に生まれてしまった不幸とでも言うべきか?

 いい加減、二十四歳なのに入学したばかりの大学生などに間違われる容姿を何とかしたい気分であった。


「女子には付いて行けない荒行を」


「嘘だぁ」


 俺のジョークに、理沙さんが笑っている。

 まさかダンジョンで戦っていると言えるはずもなく、俺は冗談めいた口調で誤魔化すのであった。





「身体能力の大幅向上に、アンチエイジング効果か? テレビでやっておたっな。年を取り難くなるのじゃ」


 作業終了後、家に戻ると白キツネはお茶を啜り、海苔煎餅を食べながらテレビ通販番組を見ていた。

 随分と器用な真似をする白キツネかと思ったら、大分様子が違う。


 そう、白キツネは、なぜか巫女服姿で銀色の髪を腰まで伸ばした絶世の美少女姿で、居間の畳に寝転がりながら俺を迎えたのだ。


「おい、白キツネ」


「もう白キツネではないぞ」


「というか、なぜに巫女服?」

 

 元々、銀河系の中心部から偵察に地球に資源調査に来た謎の生物なのだ。

 いや、生物かどうかすら不明なのだが。


「我は、魔力素子で構成された魔導人工生物とでも言うべき存在なのじゃ」


 簡単に言うと、魔法で人工的に作られた生物で、科学で言うとナノマシンのような物で構成された生体ロボットの一種であるらしい。


 白キツネをここに寄越した星間国家は魔力を是としていたので、科学的な物は一切使用されていないそうだが。


「幸いにして、この星には魔力の元となるマナが多いでの。我の生存には好条件な星であるの」


 魔法使いなんて昔でも胡散臭く、今ではその存在を信じている人すらほとんどいない。

 当然使える人もいないので、魔力の元であるマナがこの世界には満ち溢れているらしい。


 いや、日本の陰陽師とか、中世ヨーロッパで魔女狩りの犠牲になった魔女とかは、実は本当に不思議な力が使えたのかもしれなかった。


 今となっては確認のしようも無いのだが。


「魔法は、便利なのにの」


「使い方がわからねえよ」


「レベルアップして、あの巻物を見れば良いのじゃ」


「随分と簡単な方法だな」


 簡単だが、適性があるので使える魔法には制限があるらしい。

 たまに何でも使える天才的な人もいるが、そういう人は歴史に名を刻む魔法使いになれるそうだ。


「魔法、子供の頃からの夢が現実に」


 RPGゲームで遊んでいたので、子供の頃にはゲームの魔法が使えたらなと普通の思っていた口であった。


「では、早速」


 昨日、ダンジョンでボスを倒してから手に入れた初級魔法専門の巻物を開けてみる。


 すると、十数種類の魔法が記載されていた。


「火の玉を飛ばすファイア、カマイタチを飛ばすエアエッジ、土を弾丸状に固めてから飛ばすクレイアロー、軽度の怪我の治療を行うキュア、病気を治すメディカル……」


 火、土、水、風。

 この四つの系統が基本で、他にも水と風を合わせると雪になって氷弾を飛ばすアイスエッジなど。

 応用魔法などが存在するようだ。


「どうやったら適性が解るんだ?」


「魔法名の書かれている箇所を触ってみるのじゃ」


「随分と簡単なんだな」


 白キツネに促され、まずは巻物のファイアの部分を触ってみる。

 しかし、何の反応も無かった。


「適性無しじゃの」


 適性があると、魔法名の部分が光を発するらしい。

 それで、使える魔法の有無がわかるのだそうだ。


「気を取り直して……」


 次々と巻物に書かれた魔法名の部分に触ってみるが、一向に文字は発光しなかった。


「えっ、魔法適性無し!」


「おかしいの? どんな奴でも、最低一つは使えるのに」


「マジで? 助かったぁ」


 威力が低くて実用性が無くても、人間は最低一つは魔法が使える物なのだそうだ。

 安心して使える魔法を探していると、遂にキュアとメディカルで文字が光を発していた。


「治癒特化かの?」


「珍しいのか?」


 一系統の攻撃魔法を使える人間千人に対し、治癒魔法の使い手は一人ほど。

 このくらいの割合なのだそうだ。


「治療はドロップアイテムでも行えるのじゃが、治癒魔法の方が使い勝手は良い。攻撃魔法が使えないのは残念だがの」


 ここは、治癒魔法が使えるようになったのだから良しと考え、更に巻物を開いていく。

 すると、特殊な魔法一覧という記述が見え始めていた。


「相手の動きを数秒だけ止めるストップ。一定時間、かけた人の身体能力を底上げするプラス。逆に、身体能力を下げるマイナス。武器に魔力を添加して攻撃力を上げるエンチャット。そして、最後が……」


 一番レアな魔法で、空間魔法と称されるらしい。

 良くネット小説などで、自分の持ち物を大量に仕舞っておける袋や魔法などが良く出て来るが、特に違いも無くその魔法その物なのだそうだ。

 

 人間では認知できない異次元に好きなだけ物を収容可能で、自在に引き出す事が出来る。

 ただ、この魔法が使える人間は、治癒魔法など比べ物にならないほどレアらしい。


「一千万人に一人、いるかいないかじゃの」


 現在地球は妙な魔法が発動し、資源を手に入れるにはダンジョンで魔物を倒すしかない。

 では、その獲得した資源をどう持ち帰るのか?


 実際、昨日も大半の鉱石を置いて来てしまっていた。

 最弱のスライムでも、拳大の鉱石を落す。

 しかもこの鉱石、鉱山で採掘される鉱石とは含有比率が全然違っているのだ。

 

 鉄が九十%以上も含まれた拳大の鉱石を数百個を、いくらレベルアップで身体能力で上がったとはいえ、リュックに全部入れて地上に戻れるはずもなく。


 白キツネに言われて、魔石だけ持って帰っていたのだから。


「輸送チームが必要だよな?」


 しかも、ダンジョン内では科学的な品物の大半が使えない。

 ヘッドライトは大丈夫だったが、軍隊の装備で使えたのはコンバットナイフとか、第一次世界大戦よろしくスコップが大活躍したらしい。


 銃や携帯ミサイルなどは、スライム相手でも花火以下の効き目になってしまうようだ。 

 それと、ダンジョン内で運用しようとした車両類も、そもそも入り口にすら入れられなかったらしい。


 となると、馬車やリアカーの運用を模索する必要がありそうであった。


「収納魔法なら、いくらでも運べるからの」


「使えれば、素晴らしい未来図だな。国家公務員も夢では無いとかな」


 まさか、こんなレアな魔法が使えるはずが。

 そう思いながら、収納魔法インアウトの文字に触れる。

 すると、文字が今までにない光を発していた。


「やはりの」


「えっ! わかってたのか?」


「当たり前じゃ」


 白キツネは、魔法は全ての種類が使えるらしい。

 純粋な収納魔法は使えなかったが、社のダンジョンの出入りを司っているのは、あのダンジョンが白キツネの収納魔法の一種によって別の次元で管理されているからなのだそうだ。


「同じ系統の魔法が使える者同士は魅かれ合う。我が長い眠りから目を醒ましたのは、義信がこの家に来ると勘で知らされたから。そうとは考えられないかの?」


 ここで、白キツネからの衝撃の事実が告白される。

 白キツネが俺の前に姿を現したのは、その空間魔法の才能によってだという事をだ。


「お前、ここ数百年はお稲荷さんをしていたと言っていなかったか?」


「あくまでも、勘に基づく知らせなのでな。多少のタイムラグはある」


 数百年も、ただ俺が来るのを待っていた。

 まるで恋愛小説のフレーズに聞こえなくもないが、如何せん目の前の元白キツネは俺の前で海苔煎餅をバリバリと食べ続けている。

 色気など皆無で、まさに百年の恋も冷める光景だ。


「そんなわけなので、義信は我をちゃんと養うように」


「押し掛け扶養家族かよ……」


 俺は、新たに増えた居候を養うべく、早急に手に職を付ける必要に迫られるのであった。

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