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ダンジョン発掘物語   作者: Y.A


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第二十七話

「へっ? 選挙?」


「はいっ! 来週の日曜日は、参議院選挙の投票日! 大塚さんも、理沙さんも、善三さんも、空子さんも。国民の権利をちゃんと行使しましょう」


 パステル共和国のダンジョンをクリアーした俺達は、無事に日本の家に戻っていた。

 こう書くと、他に殉職者でも出たのかと思われてしまうのだが、実はそうではない。


 あのパステル共和国の美しく・強く・肉食な女性達に捕まって、数名が結婚をして現地で生活すると宣言したからだ。


 国家公務員という安定した生活を捨て、南の島で綺麗な若い肉食系女子とパーティーを組んでダンジョン探索で生活を送る。


 外部から見るととても羨ましい生活に見える人と、わざわざ安定した仕事を捨ててまで意味があるのかと思う人がいるはず。

 

 本人達は満足しているであろうから、何も言う事は無いのだが。


 何しろ、あの国では働かないダラシナイ男性が多いわけで、そんな中で、高レベル冒険者でもある元警察官や元消防士な方々が頑張れば頑張るほど、彼らには複数の女性が擦り寄って来るのだ。


 一種のハーレム状態なわけだが、彼らはまだ気が付いていない。

 実は、捕まったのが自分達だという事実に。


 まあ、一生気が付かないのかもしれないが。

 

 日本政府としても、現地で生活しながら定期的にダンジョンで得た物を売ってくれる人材は貴重なので、これは黙認というか、口は出せないというのが本音であった。


 彼らの抜けた穴は、現在警察も消防も増員を勧めているので何とかなるのであろう。


 それと、まだ南太平洋には二十箇所近いダンジョンが存在しているのだが、その探索を行うメンバーの女性比率が上がったというのは言うまでもない。


 女性なら、現地の逞しい女性に捕まらないであろうからだ。


 実は、自衛官・警察官・消防士出身の高レベル女性冒険者は多い。

 民間でも、スポーツ選手や格闘家で冒険者に転職した女性も多かった。

 現役を続けたいので、兼業冒険者として効率的に金を稼ぎ、レベルアップで身体機能も強化する。


 こういう人も、次第に増えていた。


 この冒険者という職種は、要は稼げれば認められる商売であり、やる気のある女性には格好の商売となっていたのだ。


「阿部さんは、今日は何の用事で?」


「はいっ! この選挙区から出馬する同党の候補者の応援のためです」


 今日も無意味に元気な阿部さんは、所謂応援演説のためにここに来たらしい。

 なら、うちに寄らないでその候補者の所に行ってやれば良いような気もするのだが、本人は俺達にちゃんと選挙に行けと言いながらケーキとお茶を楽しんでいた。


 実はそのケーキ、空子がデパ地下で新しく出来たお店で買って来た物で、取られた空子は少し拗ねていた。

 たかがケーキ如きでとも思わないでもないが、食べ物の恨みは恐ろしいのだ。


「選挙って、行った事が無いな」


「義信、それはいかんぞ」


 甘い物が苦手なので自分は煎餅を食べている善三さんは、普段は政治には興味が無いと言いつつも、ちゃんと選挙には毎回行っているそうだ。


「白票でも、ちゃんと投票してこそ政治家に文句を言う資格があると思うのだよ」


「おおっ! 善三が立派な事を言っているぞえ」


「ふふふっ、たまにはの」


 空子は、純粋に善三さんの発言に感動しているようであった。


「しかし、我はまだ未成年扱いでの」


 今まで存在しなかった空子の戸籍であったが、さすがは一国の最高権力者。

 阿部さん、朝生さん、石刃さんが準備してくれたそうだ。

 

 どんな方法でと聞くのは怖かったので、それはあえて気にしない事にするが。

 その結果、天海空子十九歳が無事に日本国民となり、ほんの少しだけ日本の少子高齢化を鈍らせるのに貢献したようだ。


「私も、投票日はまだ十九歳だ」


「それは残念ですね。でも、大塚さんと善三さんはちゃんと投票に行ってくださいね」


「そうじゃの。投票日前にまた南の島に出かけるから、期日前投票に行くとするか」


 暫くは、南の島とこの家を行ったり来たりする予定なので、選挙の投票は期日前に済ませる必要があったのだ。


「じゃあ、今から行きましょうか?」


「そうじゃの」


「行ってらっしゃい」


「お土産を頼むぞ」


「投票所は村内だ!」


 車のキーを持って善三さんと家を出ようとすると、理沙と空子が声をかけてくる。


「大塚さん、善三さん。民自党公認の薄葉影朗を宜しくお願いします」


 そして阿部さんも、そこは民自党のトップなのであろう。

 地元の候補を宣伝しつつ、再びケーキとお茶に没頭し始めるのであった。


 そういえば、応援演説は良いのであろうか?

 俺は、ただそれだけが心配であった。




「考えてみると、碌に候補者の事を知らなかった件について」


「そういえば、ワシもそうじゃった……」


 同じ村内でも、投票所へと至る道筋は険しかった。

 さすがは、過疎化が深刻な農村と言った感じではあったが、それでも期日前投票が行われている公民館には、それなりの人が来て国民の権利を行使していた。


 さて自分達もと中に入ると、一室に投票箱が置かれ、監視の人員なども居て、静かに不在者投票が行われているようであった。

 家に来たハガキを受付で渡して投票用紙を貰い、記入用の衝立があるスペースへと移動するのだが、実はまだ誰に入れるのかを全く考えていなかった。

 

 参議院議員選挙なので、選挙区の個人と比例の個人名が政党名の記載なのだが、そういえばここの所、テレビの話題はダンジョン関連ばかりであり、えらく選挙関連のニュースが少なかったような気がする。

 

「(前に、不要論まで言われた参議院議員選挙だからか?)」


 それでも、白票は勿体無いと思って記入スペースの前を見る。

 この地区の候補者は五名。

 

 阿部さんが応援に来ている、民自党の薄葉影朗うすばかげお氏。

 名前がアレなのだが、彼は確か引退した民自党候補の後継者であったはず。


 前に、そんな事を善三さんが言っていたような気がする。

 

 あとは、某宗教団体が支持母体である孔明党も推薦をしていたはずだ。


 次に、民新党推薦の若手現役議員。

 そういえば、今回の選挙は民新党からすれば先の衆議院選挙で惨敗した雪辱の機会であったはず。

 

 ただ、また実現不可能そうなお花畑公約に、可哀想にダンジョン関連であまりテレビで紹介される機会もなく、完全に埋没しているようであった。


 他には、同じく某宗教団体が支持母体の『幸せかなえる党』に、同じく埋没気味の『全員の党』に、とりあえず独自の候補者は出す共産党にと。


 こう言うと失礼かもしれないが、いまいち選び甲斐も無いので、一応世話になっている阿部さん推薦の薄葉候補の名前を書いておく。


 政党も、民自党にしておいた。


 下手に民新党が勝利して、彼らからおかしな要求でもされると生活に支障を来たすからだ。


「今回は、投票率が低そうじゃの」


 投票が終って一緒に車で帰る途中、善三さんは今回の選挙についてこう感想を述べていた。


「みんな、ダンジョン関連に注目していますからね」


「民自党の対立機軸の駄目さに、白けたという考えもあるがの」


 そんな話をしている内に、俺が運転する車は自宅前へと到着する。

 車を停めて家に入ると、そこにはまだケーキを食べている阿部さんの姿があった。


「阿部さん、そのケーキ幾つ目です?」


「大丈夫、まだ三つ目ですから」


「いや、糖尿病になるから」


 などとそんなやり取りをしているのだが、俺は何か違和感というか薄い気配のような物を感じていた。

 

 そう、目には入らないが誰かもう一人。

 俺と、理沙と、空子と、善三さんと、阿部さん以外にもう一人誰かの気配が。


 などと考えていると、その答えを空子が口にしていた。


「義信、後ろじゃ」


「はい?」


 空子に指摘されて後ろを振り返ると、そこには三十歳前後くらいの男性の姿があった。

 

 たた、こう何と言ったら良いのか?

 背丈や体格は中肉中背で、顔も良くも無ければ悪くも無い。

 それなりに品のある人なのだが、どこか華が無いというか目立たないような気がするのだ。


「大塚さん、紹介しますね。この度、この選挙区から立候補した薄葉影朗さんです」


「始めまして。薄葉影朗うすばかげおです。知り合いには、良くウスバカゲロウと呼ばれています」


「なるほど、その影の薄さに良く似合って」


「空子!」


「気にしないでください。もう居るのか居ないのかわからないと言われ続けて三十年ですから」


「あはは、そうなんですか……」


 俺は乾いた笑いを浮かべつつ、こんな影の薄い人が議員になっても大丈夫なのかと真剣に考え込んでしまうのであった。

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