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ダンジョン発掘物語   作者: Y.A


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第二十話

「大塚さん! レベルアップですよ!」


「ええと? どういう意味で?」


 ダンジョンが世界中に出現してから十ヶ月ほど。

 現在、俺達は日本政府の命令で全国のダンジョンに攻略助っ人として派遣されている。

 空子からの情報で、三年以内での国内全てのダンジョン攻略が国策となっていた。


 なぜなら、三年以内に百階層のボスを倒さないとそのダンジョンは消えてしまうからだ。

 ダンジョンが消えれば、そこから鉱石、魔石、ドロップアイテムなどの供給が途絶える。


 各種鉱石は、現在世界中で鉱山が消滅したので唯一の金属資源供給源であったし、魔石は効率の良いエネルギー源として発電以外にも研究が進んでいる。


 アイテムは、ポーションや快癒薬は怪我や病気の治療に使え、魔物の素材は未知の新素材として各企業や研究所から引っ張り凧であり、肉などは疲労回復とアンチエイジング効果もある高級食材として同じく人気が高かった。


 当然、それを無くすわけにはいかないので、たまに殉職者を出しながらも攻略は進んでいる。


 世界各国で見ると、現在では日本とアメリカで攻略速度を競っている情況であった。

 アメリカは、日本経由で三年以内に攻略されていないダンジョンが消える情報を得ていたので、同じく攻略に全力を注いでいたのだ。


 実は一つでもダンジョンを攻略すると、その事実が記載された文書が手に入るのでどこの国でも知る事は可能となっている。

 だが、それを他国に話すかどうかは、その国の方針によって違うのが当然だ。


 日本は、どうせアメリカならすぐに気が付くと思って話をした。

 外交的に言えば、この件で少し恩を売ったという事だ。

 

 他の国に関しては、最近ダンジョン攻略に成功したイギリス、フランス、ロシア、ドイツなどの攻略スピードが上がっているような気もするので、ようやくその事実を把握したのであろう。


 ただ、自国が資源確保で有利に立てるかどうかの瀬戸際なので、どこの国もその情報を漏らしていないようだ。


 実は、北欧諸国、シンガポール、ブルネイなどの小国は、ダンジョンの数が少ない事もあって、人的資源の集中で意外と攻略が進んでいる。

 上手くすれば、自国で資源が自給可能となって余裕分を外国に輸出できるようになるはずだ。


 逆に、中国や韓国、北朝鮮、独裁者がいるような国は攻略が進んでいない。

 理由は、成果を搾取される事がわかっているので、ダンジョンに潜った人間が攻略に力を入れないからだ。

 誰しも小銭で死にたいとは思わないし、政治犯や犯罪者では攻略に身が入らないのは当然と言えよう。


 監視の人間を付けるにしても、ダンジョン内では銃などが使えない。

 監視される側の人間と監視する側の人間が、同じ武器を持てばどうなるのか?

 結果は、魔物を倒させられてレベルが上がった監視されている側の人間が、監視している側の人間を殺してダンジョンの奥へと逃走する。

 追手を出しても返り討ちに遭い、政治犯達は魔物の肉などが獲れる階層に潜伏してしまう。


 当然、その階層に入って来る政府の犬は殺されるわけで、特に中国ではこの手を少数民族に使われ、現在ある一定の階層から下には行けないダンジョンが多数存在していた。


 結果、中国と北朝鮮は、いまだに攻略したダンジョンがゼロという有様だ。

 当然、三年以内に攻略できなかったダンジョンが消えるという情報を得ていないので、その時に泣きを見る可能性を大いに秘めていた。


 基本的に情報の管理が甘い日本でも、三年以内に攻略できなかったダンジョンが消える事実は厳重に秘匿されている。 

 ダンジョンに潜る公務員組には、高度な守秘義務が課せられ。

 そもそも、百階層まで行けるパーティーが少ないので知らない人が圧倒的なのだが。


 政府でも、総理大臣と一部閣僚や官僚の一部が知るのみだ。

 当然、民新党などの野党には一切知らせていない。


 過去の言動から考えて、中国や韓国に漏らす可能性が高かったからだ。


「レベルアップですか? 阿部さんが?」


「そうです! 一国の総理ともなれば、レベルアップが重要となるのです!」


 レベルアップとは、今さら説明するまでもない。

 ダンジョンで魔物を倒すと、身体機能やアンチエイジング効果が強化される現象だ。

 当然、最初はダンジョンに潜る官民合わせた冒険者だけに起こる現象であった。


 世間に良く知られるようになったのは、冒険者で途中リタイアした人達からであった。

 冒険者の才能は、勿論個人差がある。

 レベルが上がればある程度はカバー可能であったが、そのレベル上げも、次第に深い階層で強い魔物を倒さなければいけなくなる。


 当然下の階層ほど死亡率が上がるので、途中でリタイアする人間も多い。

 そういうレベルが上がった人が一般社会に出ると、色々と有利な面が判明してくる。


 仕事で肉体労働をすると、他の同僚など比べ物にならないほど長時間疲労無しで働ける。

 家族や友人・知人から、『最近、若く見えるようになった』などと言われるなど。


 その内、死亡率の低い一階層から五階層まででレベル上げのみを目的とした探索ツアーが組まれるようになり、企業の社員研修で組み入れられ、ここ最近ではプロ野球チームが合宿を組むようにもなっていた。


 大学や社会人のスポーツチームなどでも、所属選手をレベルアップさせるようになったのだ。


 ちなみに、高校野球のチームなどが参加しないのは、ダンジョンが十八歳未満侵入禁止だからである。

 当然、野球の名門校などから高野連経由で苦情が出ていたが、万が一にも高校生がダンジョンで魔物に殺されでもしたら大問題になってしまう。

 一部、彼らから陳情を受けた政治家も騒いだのだが、政府はキッパリと未成年者のダンジョン進入を禁止していた。


 なお他国では、少年兵ならぬ少年冒険者に、親から売られた子供達がダンジョンで使い潰される問題などが浮上しているようだ。

 昨日テレビを付けたら、日本人でもないのに日本○ニセフの親善大使をしているおばさんが、キーキー騒いでいた。 


「聞いてくださいよ!」


 阿部さんによると、最近与党民自党内部や閣僚達の間で空いた時間にダンジョンに潜る人が増えているのだそうだ。

 政治家とは激務であり、それを乗り切る身体能力と若さが手に入るとあって、進んでダンジョンに潜る人が増えているらしい。


「昨日の会合で、朝生副総理が自慢気に言うんですよ!」


 その席では、ダンジョンに潜るようになった政治家達が自分のレベルを自慢し合っていたらしい。

 レベルアップは、上がった瞬間に体に高揚感というか、軽くなったような感覚を覚えるのですぐにわかる。

 その回数が、自分のレベルとなるのだ。


 一階層から五階層でレベルが少し上がれば良いと考える人は、平均レベル七くらい。

 これでも、一般の人間よりは圧倒的にスペックが勝るようになる。


 もしレベル十を超えていたら、少しレベル上げに凝っている人。

 レベル二十を超えると、もう初心者冒険者は卒業。

 レベル三十を超えると中堅。

 レベル四十を超えると、一流の仲間入り。

 レベル五十を超えていれば、バランス良くメンバーを揃えれば十分に百階層を攻略可能であった。


 国家としては、如何にレベル四十以上の者を揃えるかが重要となるのだ。

 まだ世界でも、数千人ほどしか存在していないのだが。


「それで、阿部さんは……」


 俺は回復と特殊魔法の使い手なので、アナライズで阿部さんのレベルを測定してみる。

 するとレベル11で、一応俄かは卒業しているのが確認できた。


「いつの間にか、レベル上げてたんですね」


「空いている時間にコツコツと」


「問題は、朝生さんですよね?」


 朝生さんは、阿部さんと同じく元総理であった事もある、『べらんめぇ』口調が特徴の、かなり漫画やアニメが好きな政治家さんだ。

 今回の阿部内閣では、前の総理大臣経験を期待されて財務大臣兼副総理の座に就いている。


 現内閣の、重要閣僚の一人であった。


「あの人、物凄く凝り性なんですよ」


 レベルを上げるという行為に、どこか魅せられてしまったらしい。

 暇さえあればダンジョンに潜り、コツコツとレベルを上げていたそうだ。

 

「あの人、企業グループのオーナーでしょう。強力な助っ人も雇えるんです」


「でも、魔物を自分で倒さないといけませんから」


 たまに、バカな人が楽をしてレベルを上げるために強力な護衛を率いて下の階層に潜る事がある。

 ただ、この方法だとあまりレベルは上がらないのだ。

 システムが優れているというのか、強力な魔物を高レベルの人が瀕死にして低レベルの人に回したとする。


 すると、経験値の大半は瀕死にさせた人の元へと行き、止めを刺した人は一階層でスライムを倒した程度の経験値しか得られない。

 金持ちが有利なのは、ドロップする鉱石やアイテムの収集度くらいとも言える。


「えっ! でも、あの人レベル四十三ですよ!」


「ぶーーーっ!」


 俺は、思わず噴出してしまう。

 レベル四十三なんて、専業でもそこまでのレベルの人は日本に八百人もいないはずだ。

 世界で二番目に、高レベルの冒険者が多いと言われている日本でもだ。


 ちなみに一番は、当然アメリカであった。

 人口差から考えて、当たり前の結論ではあるのだが。 


「どんだけ、凝り性なんだよ……」


 しかもあの人、確か阿部さんよりも二十歳くらい年が上のはずだ。

 

「朝生さん、『次は、噂のトップチームに合流して、奥多摩ダンジョンのボス戦に参加しようかな?』とか言っているんです」


 ところが、この発言。

 意外と無謀でもない。

 臨時でもうちのチームに入り、空子の影響下に入るとレベルが上がりやすくなるので、そう遠くない内にレベル五十を超えられるはずだからだ。


 少なくとも、レベル四十を超えているのだ。

 八十階層くらいまでは、十分に対応可能であった。


「そこでです! 私も、同じレベルくらいに!」


「なぜにです?」


「サミットで、優位に立つためです!」


 日本の政治家がしている事を、海外の政治家がしていないはずもないという事らしい。

 男女平等が叫ばれて久しい時代ではあったが、やはりまだ政治の世界にはマッチョな部分も多く、当然彼らもレベルアップしている可能性があった。


「ここで、日本の総理が一番レベルが低いなんて嫌ですよ」


「そんなの、政治と何の関係も無いような……」


 今回も参加するであろう、あのロシアの大統領は別として。

 というか、あの人は最近ニュースでダンジョンに潜り巨大な猪を大斧で倒していたので、本物のマッチョとも言えた。

 

 さすがは、元KGBである。

 しかも、俺と同じ柔道経験者なので、少し親近感も沸いてくるのだ。


 あと、『レベルと、政治家としての才覚との関連性は?』と問われると厳しいのだが、その映像のせいで、ロシア大統領氏の大衆へのウケが良かった面も否定できない。

 衆愚と言われてしまえば、それまでなのだが。 


「とにかくです! 予定は取りました! 私をレベル四十以上にしてください」


「物凄い難題……」


 あんまりな要求ではあったが、俺は悲しき少市民。

 渋々阿部さんを連れ、今日もダンジョンへと潜る事になるのであった。

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