平穏な日々
家族からの好意を望まず、宛がわれた教師が導くままに「公爵家の長女」としてのあるべき姿を保っていれば、生活は平穏だった。朝晩、家族の食卓で、家族の団欒を静かに微笑んで見守る。時には父から勉強の進み具合をきかれることさえあった。兄のように、妹のように、両親に認められたいと望みさえしなければ、「公爵家の長女」として義務を果たせば私は家族の食卓に座ることを許される。
その頃から、母と共に他家のお茶会に参加することができるようになった。妹はまだ年齢が足りず、母と二人での外出だったけれど、私はもう勘違いはしない。私は「愛娘」ではない、同行が許されるのは「公爵家の長女」。きちんと振舞って、“さすが、ディケンズ公爵家のご令嬢ですね”という誉め言葉を引き出さなければいけない。格下の家では手に入りにくいお茶やお香のような、公爵家の権威を示すための役割だ。それでも、私は嬉しかった。家では評価を得られない私でも、他家にはわかってくれる人もいる。私の努力を認めてくれる人もいるのだ、と。
今ならわかる。彼女たちは公爵夫人が公爵令嬢を連れてきたから、当たり障りなく褒めた。いわゆる社交辞令だけれど、建前でも褒めてくれる他人と接することで、私は少し救われた。努力の意味を見つけられたと思えた、平穏だった日々。




