⑳ 急展開
ジークとキアーラの婚約発表が行われた夜会も終わりしばらくたった週末。
私はマックスとほぼ同時に訓練場の地面に転がされた。
「前よりはよくなったけど、まだまだだね。レオノーラ姫はもっと積極的に前に出ていいんだよ。マックスはちゃんとそれをカバーできるはずだからね。マックスは、姫を守ることだけじゃなくて他のことも気を配らないとダメだ。姫だって自分のことは自分で守れるんだから」
私たちはとっくに汗と土にまみれているというのに、サリオ師は涼しい顔で息すら乱れていない。
相変わらず化け物かってくらい強い。
ジークたちが訓練をするというので、私とキアーラもそれに加わることになったのだ。
今日はエリオットとキアーラも剣を握っている。
ついでに、カイル兄様もいる。
カイル兄様はエストラへの調査隊に参加した時の縁でサリオ師と仲良くなり、親子くらい歳が離れているのに妙に気が合ったらしく、今では一緒に下町の酒場に飲みに行くくらいの仲になっているのだそうだ。
キアーラはタウンハウスからたくさんの料理を、私はサリオ師の大好物となった例のラムレーズンもどきのパウンドケーキとナッツを混ぜこんだクッキーを量産して運んできていて、以前によくこうしていたようにみんなで賑やかに昼食となった。
もう正式に婚約が発表されたので、ジークとキアーラは堂々と隣に座って仲睦まじくしている。
二人が幸せそうでなによりだ。
元々優秀なキアーラの王太子妃教育と結婚式の準備は順調なのだそうだ。
私も学園で家政科と一般教養の一部を担当することが決まり、今はその準備中だ。
ジークがくれたタウンハウスもおば様が選んだ内装業者が既に入っており、現在改装が進められている。
それぞれの未来に向けて動き出していたそんな時、その全てをぶち壊しにする知らせが飛び込んできた。
「王太子殿下!陛下がお呼びです。今すぐおいでください!」
食後のお茶をゆっくりと飲んで、さあそろそろまた訓練に戻ろううかとしていた時、青い顔をした侍従が息を切らせて走ってきた。
「今すぐ?」
「皆さまも、おいでください。サリオ師もです。そのままの恰好で構いませんので」
「僕も行くの?なにがあったの?」
「それは私の口からは……と、とにかく、行けばわかりますので。カイル・シストレイン様もお願いします。お急ぎください!」
その尋常ではない様子に何事かあったのだと悟った私たちは、騎士服や訓練服のままで侍従の示した部屋へと向かった。
「失礼します。父上、参りました。なにがあったのですか?」
ジークを先頭に入った室内は、痛いほど張りつめた空気に満ちていた。
中にいたのは、国王夫妻とその側近と。
陛下の前で両腕を後ろで縛られ膝を床について座らされている赤い髪の青年。
青白い顔で、随分と憔悴しているようだけど、あの人って……
「兄上?」
マックスが呟いた。
そうだ、あの人は一度会ったことがあるマックスのお兄さんだ。
「マックス。あの者は其方の兄で間違いないか?」
「はい。私の兄、アルディス・ハインツです」
「キルシュからの正式な使者なのだそうだぞ」
陛下がそう言うと、宰相がエリオットに書状を手渡した。
エリオットが代表で声に出して読んだその内容は、心臓が止まりそうなほど驚愕するものだった。
これにて三章完結です
近日中に四章を投稿する予定です




