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裸足の人魚  作者: やわら碧水
第五部
235/296

第四章・北の国へ(その10)

 翌朝潮音が目を覚まして身支度を整えていると、一緒に身支度を整えながら優菜が口を開いた。


「今日は美瑛(びえい)や旭山動物園に行った後に札幌に泊まるけど、私服OKの日やからな。でも私服やとみんながどんなかっこしてくるか、そこで自分が浮いてへんか心配やわ」


「そうだよね。うちの学校の子っておしゃれな子が多いから」


 暁子もため息をついていたが、潮音は紫が昨日雲海テラスで着ていたワンピースを思い出して、気後れを感じずにはいられなかった。


 朝食を済ませてホテルを後にするとき、潮音はパーカーにチノパンといういでたちで集合場所に集まったが、紫の品のあるワンピース姿や、かわいらしいスカートでまとめたキャサリンのコーデ、さらにロック少女らしい快活な千夏の装いには、色とりどりの私服を着た生徒たちの中でもひときわ目をひいていた。暁子や優菜も、特に紫のファッションには気後れを感じているようだった。


 潮音たちはトマムを後にすると、その日の第一の目的地である、美瑛のラベンダー畑に向かったが、生徒たちも私服姿になるとバスの空気が多少打ち解けた感じになったように感じられた。暁子は潮音が少しその場の雰囲気に乗り切れずにいるのを感じて、そっと潮音を慰めた。


「あんたってもしかして、自分が私服だと浮いてるかもしれないとか思ってるんじゃないの? そんなの気にすることなんかないよ。だいたい修学旅行って、ファッションの見せ合いする場所じゃないでしょ。…そりゃあたしだって、服とかじゃ峰山さんにはかなわないって思うけどさ」


 それに潮音も答えた。


「そんなことくらいわかってるよ。旅行は動きやすくてかさばらない恰好が一番だって姉ちゃんも言ってたし」


 そうしているうちに、バスは美瑛のラベンダー畑に着いた。六月の下旬はまだラベンダーの盛りには少し早かったが、なだらかに起伏を描く丘一面に色とりどりの花が咲き誇り、その彼方にのどかな農村風景や山並みが広がる光景に生徒たちの目は釘付けになった。辺りに漂う花の香りも、皆の感情をいやおうなしに高ぶらせただけでなく、天候にも恵まれて北の澄みわたった青空も雄大な風景にマッチしていた。特に真桜は、花たちの色彩のハーモニーに目を奪われているようだった。


 しかし清楚なワンピースをそよ風に揺らしながら、咲きかけたラベンダーの花たちを愛でている紫の姿は、ひときわ紫の可憐さを引き立たせて見せた。潮音もどうせ私服を用意するならば、自分だって綾乃に借りてもいいからもう少しこのようなかわいらしい感じの服を用意してくれば良かったと思っていた。


――自分だってもっとおしゃれに装って、紫と一緒にここを歩くことができたら。


 潮音はやはり、自分は紫のそばに並ぶことはできないのだろうかと思っていたが、ちょうどそこで暁子と優菜が潮音を誘って、ラベンダーエキスの入ったソフトクリームを三人で味わった。


「このソフトクリームめっちゃおいしいやん。ラベンダーの香りかてええけど、やっぱり北海道産の牛乳を使っとるのかな」


 優菜はすっかりソフトクリームにご満悦のようだったが、暁子は潮音に皮肉っぽい目を向けていた。


「なんか潮音、さっきから峰山さんの方ばっかり見てない?」


「いや、紫のワンピースはよく似合っててかわいいなって…」


「あんたがこうやって女の子の服のことを気にするようになるとはね。もしかしてあんただってこんな服着たいって思ってるんじゃないの?」


「そんなことどうだっていいだろ」


 潮音はむっとして答えた。


「あんたも変に気兼ねしないで、自分の着たい服着ればいいじゃん。あんたが以前は男だったとか、そんなこと全然関係ないんだから。そりゃあたしは、あんなお嬢様っぽい服なんか服なんか似合いそうないけどさ」


「暁子こそもうちょっとかわいい服着たっていいのに。似合わないとかそんなことないんだから」


「それ言ったら今じゃ、あんたの方がずっとかわいいんだもの」


 暁子が照れくさそうにしていたので、優菜が暁子をなだめるように言った。


「アッコこそ遠慮せんと、もっと自分の着たい服着ればええやん。アッコは何着たってかわいいよ」


 そうやって潮音たち三人がおしゃべりしているうちに集合時間が来たので、潮音たちは次の目的地になっている旭山動物園に向かった。


 園内に入ると、群れをつくっているペンギンたちのかわいらしい姿に生徒たちも歓声をあげた。さらに大きな水槽の中を悠然と泳ぐホッキョクグマや、園内で飼育されている北海道の動物たちも生徒たちの注目を集めていたが、動物たちの生き生きとした姿に特に光瑠は熱心に目を向けていた。スーベニアショップに並んだかわいらしいぬいぐるみやグッズを買い求める生徒たちでレジの前には行列ができていたが、そこでも光瑠は少し遠慮したような顔をしながら動物のマスコットを買い集めていた。


 それからバスは広大な田園が広がる石狩平野を横切り、修学旅行の最後の宿泊地になっている札幌に向かった。ここ数日人口も少なく自然の豊かな北海道をずっと旅してきただけに、バスが札幌市内のホテルに着くと潮音は久しぶりに多くの人でにぎわう街に来たような気がした。

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