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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
三章 
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97 「村長、神と会う」


 食事を終えた幼竜は、一頻り甘えてきた後に腕の中で眠りについた。それまで待ってくれていたリントン神父さんは、眦の皺を深くさせて柔らかく微笑んだ。



「どうやら、御子様はカケル殿の元で暮らすことをお望みのようですね」


 リントン神父さんは、静かに頭を下げた。


「カケル殿は、真竜を育てられた経験をお持ちとのこと。それならば、我々も安心して御子様を任せることができます。どうか御子様のことをよろしくお願いします」


「な……」


 リントン神父さんが頭を下げたことにルデリックさんが、静かに驚いていた。


 どう受け答えしたらいいのか、と言葉に迷っていると、ルミネアさんがルデリックさんを挟んで隣から何でもいいから答えておけ、とアイコンタクトを出していた。


「あ、ありがとうございます。育て親として、この子が一人で生きられるようになるまで立派に育てて見せます」


「何かお困りの際はご相談ください。出来得る限りの支援をさせていただきます」




 こうして幼竜は、パラミア神殿のお墨付きで俺たちの元で暮らすことになった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 


「あれ? マスター、お話はもう終わったの? 」


 リントン神父とのお話を終えて、別室で待ってもらっている仲間たちの迎えに行くと、ラビリンスからそんな言葉を投げかけられた。


 投げかけてきたラビリンスは、若い女性の神官さんの膝の上に乗せてもらって丸い焼き菓子を食べているところだった。


「うん、終わったよ」


「…………折角、おっぱいシスターちゃんの膝の上で甘いお菓子を食べてたのに」


 ラビリンスは、焼き菓子を口の中でもごもごとさせながら小声で零す。


 どうやらお楽しみ中のところだったらしい。


 怯えていないか少し心配だったけど、大丈夫そうでよかった。



 口の中の焼き菓子を咀嚼し終えたラビリンスは、女神官さんの膝から飛び降りてこちらへときた。



「マスター、あのちびりゅーはどうなったの? 神殿に預けるの? 」



「ううん。わたしたちと一緒に暮らすことになったよ! また仲間が増えたよ! 」


 ラビリンスの問いかけに答えたのは、俺ではなくモグだった。幼竜とこれからも一緒に暮らせることがよっぽど嬉しいのかモグは、満面の笑みを浮かべていた。


 モグは、別室で待っていた他の仲間たちにもそのことを伝えて回った。



 その微笑ましい光景に自然と笑みが零れた。






 当初の目的であった幼竜の一件が終わった俺たちは、リントン神父さんに「折角ですので、お祈りをされていかれてはどうでしょうか? 」と促されて、女神パラミアの神像が安置された礼拝堂のような場所に足を運んだ。


 空気の澄んだ荘厳な広間の奥には、5メートルはあろう白い石像の女神パラミアの神像が安置されていた。


 背中から六翼の翼を生やした長髪の女性が布で目を隠し、トガのようなゆったりとした服を着ていた。そして、胸元で両手を組んで天秤を持っていた。



 まるで生きているかのように精巧さと、石像から発される神々しい雰囲気に「ほぅ……」と自然と口から感嘆の声が零れた。




 実際に神像からはどういうわけか聖気が溢れ出してこの広間を聖気で満たしていた。


 もし、この場に悪魔であるサタンやアンデットの黒骸(コクガイ)がいたら、この清浄な空気はさぞかし息苦しい空間に感じたことだろう。



 同行してくれた神官たちやルミネアさんは、その神像の手前である水の張られた巨大な石杯の前まで進み、手で印を切った後に手を胸の前で組んで頭を深々と下げていた。


 ルデリックさんは、軽く頭を下げようとして隣のルミネアさんから脇腹に肘鉄を入れられていた。その後、しぶしぶ神官さんたちと同じようにして礼拝していた。



 一般の参拝者であれば、礼拝の仕方はそこまで厳格なものではないらしい。神に対して敬意を示せれば、それでいいという緩いもので、一般的に一礼すれば、問題はないそうだ。

 

 しかし、神官や騎士団長くらいの立場になると、ちゃんとした礼拝を行わなければいけないようだ。



 今回はちゃんとした礼拝の仕方も分からないので、神官さんに教えてもらったように一般的な礼拝で済ませることにした。


 胸の前で両手を合わせて、パラミア神の像の前で、俺は深々と頭を下げた。



 この神様には、一体何を祈ったらいいんだろう。


 そもそも宗教や宗派の違う外国人どころか、この世界の住人ですらない俺の願いを聞き届けてくれるのだろうか?


 実在し、神託どころか降臨さえもするこの世界の神様と地球で語られる神様を同じ概念として扱っていいのかもよくわからない。



 ……あれ?



 ふと思ったけど、この世界の住人ではない俺たちは、神様たちにはどう映っているんだ?


 路傍の石のように欠片も関心を向けられてないのなら、まだいい。


 もし、異物として、外部から侵入してきた病原菌のような害悪として認識されていたらどうしよう。



 そんな考えが一瞬脳裏を過ぎり、心臓が跳ねた。



 頭を下げたまま自分の顔が強張っていくのを自覚する。



 そんな時だった。


 


 頭の中で女性の声が響いた。



『異界からの来訪者よ。ようこそこの世に。私はあなたを歓迎しましょう』



「!? 」


 頭に直接響いてきたその声に驚いて、バッと頭をあげると、周りの景色は荘厳な雰囲気の広場から一転して、何もない白い空間へと様変わりしていた。



 どこだここは!?


 あの一瞬のうちにまさか転移でも……いや、これは幻術の類か?


『ここは、精神世界です。珍しい渡り人と話がしたいと思い、あなたをここに招きました』


 頭の中で女性の声がする。しかし、見渡すばかり白い世界に自分以外の存在は見当たらない。

 


 


 いや、いる。




 聖気よりも清浄で、神々しい神気ともいうべき気配に満たされたこの空間の中で、一層その気配が濃い場所があった。


『おや、なかなか勘が鋭いようですね』


 頭の中に響く女性の声が少し感心した様子を見せた。



『招いておきながら姿を見せないのは、よくありませんでしたね』


 すると、その場の神々しい気配の神気が一層強くなり、真っ白な空間を塗りつぶすような閃光がそこから生まれた。


 

 生み出された閃光は、体を突き抜けて魂すら白く塗りつぶしてしまいそうな程、強烈だった。


 ホワイトアウトした視界に引きずられて、危うく意識すらもホワイトアウトしてしまうところだった。



『少し加減を間違えました』


 目、というよりも意識がチカチカする中、そこに意識を向けると、さっきよりも明確にその存在が感じられた。



 その姿は、さっき目にしたパラミア神の石像と瓜二つであった。



『あれは、私が下界に降りた際に作成されたものです。よくできていたでしょう? 』


 そう言って、パラミア様は緩く笑みを浮かべた。


 頭の中で今まで響いていた声と同じ声が、さほど大きな音でもないのに耳朶を打った。



 


 なるほど。これが神様なのか。





 どうしてこうなった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 幼竜の一件が片付き、リントン神父さんの勧めで神殿が奉っているパラミア様にお祈りをしたら、パラミア様に精神世界なんていう白い空間に連れてこられた。


 お祈りしながら、もし神様が俺のこと快く思っていなかったらどうしようと不安に駆られた直後だっただけに、懸念が現実になったのかと戦々恐々ともした。


 しかし、パラミア様は、俺たちのことにそれなりに興味を持っていたが、あまり関心はないようだった。



 その興味も、自分がこの世界とは別の世界から来た存在ということと自分の眷属である真竜の系譜に連なる子の親となったことが大きいようだ。


 幼竜のことをしっかり育てるようにパラミア様から直々に頼まれた。



 神様に頼まれる……もしかして、これって神託にあたるのではないだろうか?


『そう捉えてもらっても構いませんよ』



 ……今更な話だけど、自分の考えていることはどうやら相手に筒抜けみたいだ。



 ここが精神世界だからなのか、神様相手だからなのかはわからないけど



『どちらも、と応えておきましょう。不快に感じるのかもしれませんが、そういうものだと理解してください』


 わかりました。……神様の前では、あまり変なことは考えない方がいいようだ。





『そろそろ時間のようですね。最後になりますが、最近、この街で戻りつつある秩序をまた乱そうとする者たちがいます。気を付けなさい』

 

 ひとしきり話終えたところで、パラミア様はそう告げた。


 その言葉に俺が疑問を投げかけるよりも早く、俺の意識は現実世界へと帰った。
















難産でした……。


神様をどういう風にしようかでとても悩み、今の人間味があり、丁寧な口調で、人に対する理解や関心がそれなりに深い。という感じに落ち着きました。


神様とカケルの問答は、今後書き直すことがあるかもしれないです。


遅れた分、次回の更新頑張ります。

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