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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
34/114

32 「村長たちの盗賊討伐」

長々と頑冶と話した結果、昼食をとることなく夕方を迎えてしまった。最後に朝食を食べた後か半日以上何も食べてない。それでもこの体は然程空腹を訴えてこないが長年の習慣から足は自然と食事をとるために村の中央広場、青空食堂に向かった。


するとそこには天狐やポチ、ゴブ筋と言った皆が武装して集まり、物々しい雰囲気を醸し出していた。

朝稽古の時にゴブ筋から感じるピリピリとした雰囲気と同じだ。


「おいおい……一体これから何があるってんだよ」


場所が場所(青空食堂)だけにこの時間帯は喧嘩が絶えない所ではあるけど、それにしては物々し過ぎだし何よりその手の争いに普段参加しないメンバーまで武装して物々しい雰囲気を醸し出しているのが恐い。特にミカエル。何であんなに煌々と光り輝いてるんだよ……神秘的過ぎて逆に恐ろしい。


「あ、カケル。丁度いいところに来たわ」


少し離れた場所で足を止めて1人で戦々恐々としていると小鴉と話していた天狐がこちらに顔を向けて声をかけてきた。


「小鴉が盗賊の一団と思わしき集団を発見したわ」


「………え? 」


龍源やジャック辺りが、何か天狐たちの逆鱗に触れるようなことをしたのではないかなんて仲間内の喧嘩事だと思っていたところに、全く予想もしていなかった話に俺は一瞬思考が真っ白になった。


「場所はここから徒歩で五時間かかるところにある洞窟よ。小鴉たちが上空から確認しただけでも50人以上いるわ。そしてその内20人は、手足を鎖で拘束されて首元に呪印が施されてたわ。恐らく囚われた村人よ」


「ちょ、ちょっと待って! 待って!! えっ、盗賊? 何それどういうこと? 初耳なんだけど」


口早に説明する天狐に慌てて制止ストップをかけて俺は、突然のことに混乱する思考を落ち着かせにかかる。寝耳に水とは正にこのことだ。


嘘、じゃないよな。こんな状況で天狐たちが嘘をつく必要が無い。


この村を襲った盗賊は全滅していた筈だ。それがどうしてこんなことになっているのか正直わからない。

生き残りなのか? それとも別口? 




あーダメだ。

急なことで頭が混乱して、訳が分からない。


だけど、これから起こるだろうことは予想できて俺は内心頭を抱えて蹲りたかった。


「天狐、悪いけど一から説明してくれないか? 」


取りあえずのところは、天狐の話を聞こう。

天狐たちの気持ちはもう定まってるようだけど……俺はそれからどうするか決めよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そうして天狐から説明を受けた俺は今、ポチの背に乗って闇夜の草原を疾走していた。抱くようにしてオリーも同乗している。

そのポチと並走して走っているのは龍源とゴブ筋、タマとその上に乗るアルフだ。上空には小鴉を筆頭に天狐、妖鈴、黒骸、サタンそしてミカエルが続いている。さらに、ポチの影の中には影朗と操紫がいる。

俺を含めた総勢15人、あの場に集まっていた中から選抜された討伐隊だ。


向かう先は、もちろん村から徒歩五時間の場所にある険しい山脈の麓にある盗賊団が拠点としている洞窟だ。


結局、俺も天狐たちと同じ結論になったわけだけど、今でもこれで本当に良かったのかと悩んでるところがないかと言えば嘘になる。これから凶悪な犯罪者たちの巣窟に向かうのだ。ゲームの時とは訳が違う。抵抗の出来ない人達を暇潰しに虐げる他人を傷つけることに何の躊躇いもない正真正銘の犯罪者たちだ。


怖いと思うのが正直なところだ。


自分が傷つくのは別に怖くない。怖いのはそいつらの悪意が天狐たちに牙を剥くことだ。

そして、怖いと同時に、もしそうなったらと考えただけでどうしようもない怒りが湧いてくる。


レナ達のこともある。相手がいつこちらに手を出してくるか分からないのに野放しなんて出来る筈はない。

今見て見ぬふりした結果、見逃した盗賊に村を襲われ仲間に被害が出た時、俺はその時の決断を絶対後悔することになる。

なら先にこちらが潰してしまおうというのが俺が出した結論であり、天狐達の出した結論だった。


だから俺たちはこれから盗賊の拠点に奇襲をしかける。


俺は今日、人の血で手を汚す。


「………」


「そんちょー? 」


「……あ、ごめん。苦しかったか? 」


考え事をしているうちにオリーを抱く腕に力が入っていた。


「ううん、へいきー。そんちょうこそだいじょーぶ? 」


「……うん、俺は大丈夫……大丈夫だよ」


「……ほんとに? 」


オリーは上を見上げるように顔を上げて新緑色の瞳でじっと俺の目を見て聞いてきた。


「本当だよ」


「んー……そっか! 」


俺は心配させないためにじっとオリーの見たまま笑みを作って安心させるように応えると、オリーは一瞬眉を顰めてすぐににぱっと笑った。その笑みが今の俺には有難くてオリーを抱く左腕で頭を撫でた。



そうして気持ちを紛らわしていると、並走する龍源から声があった。


「村長ぉ! 獲物の巣穴が見えて来たぞ! 」


「んー……? 見えないけどーーっと、忘れてた【暗視(ナイトアイ)】【遠視(ロングアイ)】」


真っ暗闇の視界にはそれらしいものは見えなかったけど、視覚強化を施して改めて見ると、確かに視界の遥か先に見える木々が茂る大きな山の絶壁、その下にぽっかりと空いた穴を見つけた。




あそこか。



あそこに盗賊がいるのか。


ポチの毛を掴む右手に力がはいる。

その右手は俺の気持ちを表すように小刻みに震えていた。






天狐の話だと洞窟まで徒歩で五時間と言っていたけどポチの足だと20分もかかわらず到着した。


50メートルほど離れた場所に一度集まり、茂みに身を潜んで相手の様子を伺う。

盗賊たちが拠点としている洞窟は、硬い岩で出来た絶壁に出来た洞窟でその入り口は歪な半円上で、高さは最大で3メートル程で、横幅は大体その倍の6メートルくらいか? 小鴉の報告通りなら洞窟は下へと広がっている。


洞窟の入り口の前には見張りらしき男が2人その場に蹲っている。あと、入口付近の木の上にも1人身を隠している。


見た所、3人とも俺たちに気付いた様子はない。

まぁ、今この場にいる皆は俺含めて【隠密】は会得(カンスト)してる。【隠密】がカンストまで上がっているから余程感知能力に長けた相手じゃないとまず気付かれない筈だ。


目視した上で【気配察知】の反応が鈍いことから恐らく相手も隠密系のスキルか魔法を使ってる。

流石盗賊というべきか。それなりに高い水準だ。


それに、入り口周辺に複数の罠の気配がある。分かりやすい罠に紛れて巧妙に隠蔽された罠も設置されてる。隠蔽された罠は、魔法由来のものが多いことから【罠魔法】の使い手かそれに類する妨害呪文系統の魔法による搦め手が得意な魔法使いがいそうだ。


洞窟の中にも罠が仕掛けられてると考えるべきか……



まぁ、まずは見張りの排除だ。



「妖鈴、サタン。頼むぞ」


「はい」


「おう。任せろ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



――カサ


その日、カザイルと共に夜の見張りをしていたルノフは、葉擦れの音に反応して閉じていた目を薄く開いて剣呑な視線を音のした方に向けた。手は自然と傍に立てかけていた抜身の剣の柄を握り、いつでも立ち上がって斬りかかれる体勢に入っていた。


「ぁ――? 」


しかし、視線の先にいた存在を目にしたルノフはその体勢のまま息を呑んだ。


そこには、戦闘一辺倒のルノフですら見惚れる美女の姿があった。


身に着けた暗視の効果を持つ魔導具によって月明かりのない闇夜でも見ることのできるルノフの目には、その姿がはっきりと見えてしまった。


美女の艶めかしい肢体を強調するボンテージの艶のある黒と白磁のように白い美女の肌とのコントラストが酷く扇情的でルノフは思わず唾を呑む。



その美女から蝙蝠のような羽と尻尾が生えていることにルノフは疑問を抱かない。いや、抱けない。


美女は耳にかかった赤い髪を払って蠱惑的に微笑んでみせると、ルノフから背を向け夜の森へと姿を消す。


「………」


ルノフはその場から立ち上がる。力の抜けた手からスルリと剣が落ち、音を立てるもルノフは気付くことなくフラフラと誘蛾灯に誘われる蛾の如く消えた美女の後を追う。


ルノフだけではない。

一緒に見張りをしていたカザイルも、大きな音を立てて木から落ちてきたニコフも、陶然とした表情でフラフラと美女を後を追う。甘ったるい美女の残り香がルノフたちの鼻腔をくすぐり、得も言われぬ多幸感を抱く。その香りを漂わせる美女を求めてルノフ達は森の奥へと入っていく。


―リーン……リーン……クスクス……リーン……リーン……クスクス……


彼らの耳元では鈴を転がしたような心地いい音が鳴り響き、彼らの周囲を蝙蝠の羽を生やした掌サイズの少女たちがクスクスと笑いながら周囲を飛び回っていた。


しばらくして森にくぐもった声と鈍い肉を打つ打撃音が響く。



森の奥へと消えて行った彼らが再び戻ってくることはなかった。

代わりに、節くれだった2本の角と尻尾を持つ2メートルを超える恐ろしいサタン(悪魔)と、ルノフたちを惑わした妖鈴が姿を現す。


「ねぇ、ちょっとくらい味見してもいいじゃなぁい」


「んなこと後にしろよ。今は露払いが先だっつの」


お互いに軽口を叩きあいながら歩みを進める2人だが、その間に周囲に張り巡らされた無数の罠を尻尾で振り払い、足で踏み砕き、手から飛ばした黒い光弾によって次々と打ち砕いていく。

張り巡らした罠によってつくられた警戒網は瞬く間のうちに2人によって無残に破壊され意味を失ってしまった。



「これくらいやれば十分だろ」


サタンは後ろを振り返り無残に破壊された罠の残骸を見て得心がいったようにひとつ頷くと、徐に見張りのいなくなった洞窟の入り口へと歩みを進める。妖鈴もその後を追う。


サタンは洞窟の入口の一歩手前で立ち止まって、下へと降っていく洞窟の奥を見つめる。

その血のように紅い眼は爛々と怪しく輝き、体からはどす黒い瘴気が溢れだし、その強面の顔はこれから起きる戦いを前に心の底から楽しそうな歓喜の表情を浮かべていた。


「じゃ、始めるか」


その言葉と共に、全身から溢れるどす黒い瘴気がサタンの右腕に集束していく。赤褐色の肌は見る見るうちに黒く変色し怪しく輝く。



そして、数秒のタメを得てサタンの右拳が虚空に放たれる。



目の覚めるような轟音、そして地揺れ。それが今宵起きた掃討戦開始の号砲だった。



数分経って洞窟からワラワラと現れた剣呑な雰囲気を醸し出す盗賊たちを前にサタンは上機嫌に笑う。


「さぁやろう(戦おう)ぜ。ちょっとは俺を楽しませてくれよ盗賊ども(人間ども)




現実逃避ストック第二弾です。ああ、なんて情けない。


突然始まった闇夜の盗賊討伐です。


30話、山へと消える鴉天狗たちがフラグでした。

今まで見せれなかった天狐たちの一面を書けたらいいな。


次話は初の対人戦闘かな?



見張り達は、サキュバスクイーンである妖鈴の魅了にかかってしまう呆気なく退場。鮮やかな美人局。惑わされてフラフラとついて行った先には、こわーい強面のサタンさんがスタンばってました。

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