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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
一章 村長と村民は異世界に
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13 「村長と生き残りの子供たち」

「村長」


「影朗どうした? 」


安置所の近くで操紫と雑談していると、傍に立っていた木の陰から影朗が現れた。

影朗が来た、ということに俺は身構えながらも尋ねた。


「部屋から出た。子供たちに会いたがってる」


子供たちに会いたがってる……間違いなく彼女(レナ)のことだ。


「………わかった。すぐ行く。悪い操紫、用事が出来た。ゴーレムの話はまた後で話そう」


「はい、それで構いません。村長はすぐに行ってあげてください」


「ああ、そうする。ありがと」


操紫の気遣いに俺は、礼を言ってレナたちのいる家に向かおうと地面を力強く蹴って走り出そうとした。


「村長、走るよりもこっちが早い」


しかし、一、二歩走ったところで足下から影朗の声が聞こえたかと思うと、俺の足は自分の影に吸い込まれた。


「えっ、おい。ちょっとまっ――!? 」


影朗に抗議する間もなく俺は影の中に引きずり込まれた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



影朗の持つ固有スキル【影渡り】は、文字通り人や物に出来た影を出入り口(転移ポータル代わり)にして影から影へと瞬間移動するスキルだ。


MP消費が少なく、連続使用が可能で便利な反面、ゲームの時は一緒に移動することが出来ないという制限がかかっていた。


だから、俺は影の中に入るという経験を今までしたことがなかったのだが、異世界に来たことで俺は唐突にだが経験することになった。


どうやら異世界に来たことで変化があったらしく影朗と手を繋ぐなどして接触している状態でなら【影渡り】で俺も一緒に影の中に潜れるようになっていた。


何の説明もなしに俺を影の中に連れ込んだことに言いたいことはあったが、確かに走るよりも遥かに移動が早かった。


影の中は、視界が黒一色に染まるほど真っ暗な場所で、地に足がついている感触がなく全身に何かが纏わりついているような……簡単に言えば、真っ暗闇の水中にいるような感じだった。


影の中から外の様子を見ることが出来て、イメージとしては真っ暗な部屋の中でスクリーンに映像を映し出すようなのが一番近い気がする。外の様子が見える部分は、その影の形や大きさで変わるらしく、位置も地面に出来た影なら真上、天井なら真下に、というように上下左右あべこべに現れるようになっていた。




そんなわけで影から影へと移動していき1分と立たずにあっという間に俺と影朗はレナの人影の中にまで移動した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「白……」


真上に映し出されたレナの姿を見て頭が真っ白になった俺は、見たままのことを呟いた。


「いやいやいや、そうじゃないだろ」


彼女に聞こえてなかったのが幸いだった。


俺は慌てて上から視線を逸らして、黒一色の周囲のある一点を睨んだ。

姿は全く見えないが、影朗は多分そこにいた。


「影朗、よりにもよってどうしてここにしたんだよ」


「人の影は見分けやすい」


「すぐ別の場所に移動してくれ。流石にここからは出れない。というか出たくない」


「わかった」


影朗と繋いでいた右手がくんっと軽く引っ張られたかと思うと、水の中を進んでいくような感覚と共に俺と影朗は、別の場所に移動した。


次に移動した場所は、木造の壁に出来た影だった。

多分ここはレナたちを寝かせた家の一階の廊下だ。


「ここでいい」


俺がそう言うと、影朗と一緒に俺の体はぬるりと影から抜け出して外に出た。


「影朗、知らせてくれてありがとな。あとここまで連れてきてくれて助かった」


俺の言葉に影朗は、コクンと一つ頷いて、スーッと影の中に吸い込まれるように消えた。

影朗が消えた後、足の先で床隅に自分の影をちょんちょんと突いてみたりしたのは、仕方ないと思う。



「しっかし、スキルまで異世界に来たことで変化したのか」


影の中に入るというのは、初めての体験だった。


今回は、制限が緩くなってさらに便利なったという形での変化だったが、その逆の変化が起きたスキルもあるかもしれない。……そう言えば、今更だが、天狐の【狐火】もゲームの時よりも随分と応用が利くようになってた。操紫の死化粧だって、こっちに来たことで出来るようになった応用だと考えれば納得も行く。


「……これは一度調べた方がいいかもな」


「あっ……」


そんなことを考えていると、近くで女性の声がした。

振り返ってみると、ちょうど中庭から戻ってきたレナと目があった。


「あっと……」


俺はレナに声をかけようとして、操紫と話した村人の葬儀のことが頭を過った。


彼女(レナ)に何て声をかけたらいいんだろう?


その自問に答えが出せず、言葉が詰まった。

レナも、何かを言い出だそうとしたのか口を開いたが、躊躇ったのか結局何も言わずに口を閉じてしまった。


そんな俺とレナはお互いに何も言い出せずにしばし見つめ合うことになった。



最初に切り出したのは俺ではなくレナだった。


「あのっカケルさん! ケティに、皆に会わせてください! お願いします! 無事を確認するだけでいいのです。一目だけでも合わせてください。お願いします! お願いします!! 」


予想していた言葉だった。そして予想していた以上にレナは、切羽詰まった様子で俺に懇願してきた。


「あ、うん。そ、そろそろ言ってくるだろうと思ってた。案内するよ」


俺は、そんなレナの勢いに押されて何度もコクコクと頷きながら応えた。


「ありがとうございます。ありがとうございます! 」


俺が案内すると言った途端、レナは、一瞬驚いた表情を見せた後、パァァっと嬉しそうに顔を輝かせて何度も礼を言ってきた。


「う、うん。そんなに気にしないでいいよ。じゃあ俺についてきて」


「は、はい」


レナが、パタパタと小走りで俺の傍まで駆け寄ってきて、背を向けた俺の後ろにしっかりついてきた。



ああ……今思うと、彼女の笑顔を見たのはこれが初めてだった気がする。


彼女を子供たちを寝かしている部屋に案内しながら俺はそんなことを思った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「よかったぁ生きてる。生きてる。リンダ、ローナよかった、よかった……! 」


レナは、ベッドの上で眠る茶髪の少女と金髪の少女に抱き着き、しきりに「生きてる」「よかった」と言いながらポロポロと涙を零していた。


俺は部屋の前でその光景から背を向けていた。

見ていたらもらい泣きをしてしまいそうだったし、思わず唇を噛んでしまうほど後ろ暗くも感じた。


操紫には、ああ言ったが未だに俺の中ではレナに葬儀のことを告げる気持ちの整理がついていなかった。


そんな時、背中越しにレナから聞かれた。


「リンダとローナは、いつ目を覚ますんですか? 」


「………体に溜った瘴気はもう残ってないから数日のうちに目を覚ますはずだよ」


「そうですか……よかった」


レナは、安心したのかほっと安堵のため息をついていた。



「………」


レナのその様子に安心する自分がいる中、レナにとって辛いことを聞かなければいけないことを考え俺の気持ちは、より一層重苦しいものになった。




俺は一体どうしたらいいんだ。


誰に向けるでもなく心中で呟きながら俺は、腹に手を当てて本当にストレスで胃に穴が空くのかなぁ……と思った。



優先していた作品に区切りがついたので、今後はこの作品の更新を区切りのいいところまで優先して執筆していきます。


感想待ってます。気軽にしてください。

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