猫の王を選びました。
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この日、世界から猫が消えた。
野良猫も家猫も姿を消した。
現王と初代の猫の王が開いた大集会。
皆思い思いの服を着て、二本の後ろ足でワルツを踊る。
白い猫も、黒い猫も、茶色い猫も、クルクルクルクル優雅に回る。
まるでお城の舞踏会、朽ちたお城の舞踏会。
猫たちは皆、王の言葉に耳を傾ける。
「えーと、これからは猫の王の力に頼らず生きていきましょう」
沸き上がる疑問の声、事情を知るのは初代のみ。
「イオリ、やっぱり帰るにゃんご?」
「帰るよ、でもそれは当分後だ」
「我輩の力がこれ以上衰えたらもうゲートは開けないにゃんごよ?」
「ケット・シーは隠居して力使わずご意見番にでもなってよ。帰るためのゲートはイオリに開いてもらう、僕はイオリが目を覚ますまでイオリの代わりにイオリとして王をやる」
「それが答えにゃんご?休眠したままのイオリは目覚めるかどうかすら怪しいにゃんごよ」
「だから僕も猫の王の力は極力使わない、猫の王の力は有限なんだろ?力をしっかり蓄えておけばイオリが回復するかもしれないからね」
「異世界へのゲートは負担が大きいにゃんご、イオリが起きたとしても再び使えるかどうかも怪しいにゃんごよ?」
「その時は諦めてハルトとしてここに残るよ」
「…にゃひひひひ」
ケット・シーは口の端を持ち上げて愉快そうに笑う、愉快そうに笑うその顔の方が愉快で思わず僕も笑ってしまう。
そして、僕は困惑気味な猫たちに向き直る。
「猫喫茶アンズは続ける!しかしもうゲートは使わない!支店ごとに店長を決めてやれる範囲でやっていこう!僕が様子を見て廻るよ」
「んにゃー!イオリ王様は細かい事言うお人にゃー」
「難しいにゃー、もっと気楽にゴロゴロしたいにゃー」
「イオリ王様は猫っぽく無いにゃー」
やはり反感はある、しかし僕の我が儘を通すには王の力の節約と家畜の王への対処は絶対だ、それに僕は猫じゃない、猫っぽい王様にはなれない。だって…。
「黙ってたけど実は僕はイオリ王の代理の王でハルトって言うんだ」
・・・
「にゃ!にゃああああ!?」
「そんなの聞いた事無いにゃ!代理なんて今まで居なかったにゃ!」
「に、偽物だったかにゃ!?」
「ふふふふふ、猫の命令権を行使する!みんな静粛に!」
騒いでいた猫たちが一斉に黙った、そう、僕は偽物では無い、王の力を持った混ざりものなのだ。
「この通り、今は僕が猫の王だ、イオリが目を覚ますまでの間で良い、みんなの力を借りたい。僕の我が儘に付き合ってほしい。これは命令じゃない、お願いだよ」
ポフ…、ポフ、ポフポフ…。
疎らに聞こえる拍手の音、肉球を打ち合わせ間抜けな音が鳴る。
その拍手は次第に大きくなり広がっていく。猫族の拍手も混ざりだしポフポフパチパチと鳴り響く、きっとこの拍手は僕に対してでは無い、イオリに対してだろう。そう思っていた。
「ハルト王良い奴っぽいにゃ、仕方ないから付き合うにゃ」
「にゃーてそにゃむずかしーことにゃーずにおどにゃーよ、うたげはにゃーからにゃーな」
「イオリ王が目を覚ましたらハルト王はどうするのにゃ?どこか行っちゃうのは寂しいにゃーよ?」
「ハルト王の考えた喫茶店、やってて面白いにゃよ、私は好きにゃ」
「にゃーし!またたびざけにゃーよ!たるにゃ!たるにゃってにーや!」
「にゃいにゃいさー!」
マタタビ酒を持って集まる猫人たちに包囲されてしまう、あ、これダメなやつだ。
脳天を揺るがすマタタビの匂い、酒の匂いもプラスされて頭がフラフラしだす。
僕が最後に見た光景は左右にステップを踏みながら酒を撒き散らす猫人たちだった。
「おーにゃ!?」
「おーーにゃーーー!!」
……………
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…
「あ、目が覚めたニャ?」
視界がぼやける、そのぼやけた視界の先に居たのはアンズだった。
次第に視界も頭もクリアになっていき、ふと思い出す、そして笑ってしまうのだ。
「イオリ?…いやハルトのが良いニャ?何笑ってるニャ?」
「いや、最初にここ来た時と同じだなぁって思ってさ」
「おかしな事言うニャね?同じじゃ無いニャ」
「え?」
「あ、ハルトさん目が覚めたナァ?」
「おいクソ三毛!約束覚えてんだろうなぁ!?そろそろ自由にしやがれ!」
「おーにゃ、よーにゃったにゃ?よかたにゃー」
ソマリとシグレとテルが僕が起きるのを待ってくれていた。
「ね?仲間増えたニャ、帰ったら顔の怖いトカゲもいるニャ」
「はは、そうだね、じゃあ帰ろうか。喫茶店開かないとね」
「激マズコーヒー淹れるニャ」
「いやいや、不味くないから」
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皆で喫茶店に帰る、いつもの日々が始まる。
たまにサラダを食べにくる黒ヤギの獣人にももう慣れてしまった。
イオリはいつ目覚めるのか分からない、ケット・シーが言うには目覚めない可能性の方が高いほどにイオリの魂は弱々しいらしい。
それでも僕は待ち続ける、待つ為の時間も場所もあるのだから、いつまでも待てる。
・・・
…
………
「ハルト、ハルト、僕を拾ってくれてありがとう」
これにて完結です。
ここまで読んでくださった方々と応援してくださった方々に感謝!
私にしては珍しく、みんな幸せな感じに終われるハッピーエンドで締めれたと思っております。
猫は可愛いですね。おどにゃー♪




