謎が解けました
ずっと考えていた。
何故僕がこの世界に来たのか。
ずっと考えていた。
何故僕が猫族となったのか。
ずっと考えていた。
何故僕が猫の王なのか。
今の僕の姿は三毛猫の獣人、これはきっとあの子猫、イオリの影響だ。僕の本当の名前はハルト、暖かい人と書いて暖人。しかし今のこの可愛い姿で暖人を名乗るよりはイオリの方がしっくりきたんだ。イオリを名乗ったのは本当にそんな理由でしかなかった。
僕はケット・シーとちゃんと話をしなければならない。ケット・シーなら何か分かるはずだから。考えをまとめるのはその後で良い。
『ケット・シー、話がしたい』
『にゃんごー』
目の前に現れた城へのゲート、こんな簡単に出せるなら猫の王が不在だった時に何故現れなかったのか、それも気になってしまう。
ゲートを潜るとそこは見慣れた朽ちた城、ケット・シーは城の見た目がそのまま自分の寿命だと言っていた、こんなんで本当にあと千年生きられるのか?
心なしか城壁のヒビが増えている気さえする。
「ケット・シー、ちょっと良いかな、大事な話」
「にゃんごー」
「僕の正体について、魂が2つもあるって言ってたよね?僕の出生についても不思議がってた、あれはどういうこと?」
「んにゃーご、そもそも猫の魂は9個あるにゃんご、イオリはむしろ少ないにゃんご」
「え?」
「あと魂の大きさもおかしいにゃんご、猫よりも大きな魂が1つ、それと本来の猫の魂と同じサイズの小さいのが1つ、我輩の能力だった命令権は大きい方の魂に吸われてるにゃんごね。そして不思議な事に王の器は小さい方の魂に宿ってるように見えるにゃんご」
「それって…つまりどういうこと?」
「我輩が知りたいにゃんご、むしろイオリの事を教えて欲しいにゃんご」
僕はこの世界に来る前の事を事細かに説明した。
元の世界では人間で、普通の高校生だったこと、家の前で三毛猫を拾ったこと、そしてその猫をかばって車に轢かれたこと。気が付いたらこの姿でこの世界に居たこと。
それを静かに聞いていたケット・シーが何やら納得した顔で、いや、顔が面白可愛すぎて表情よく分かんないけども、憶測も交えて説明してくれた。
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話は前の王、正確には女王の代に遡る。前王は普通の猫だった。
前王が子供を身籠り、無事に出産をむかえる。ここまでは問題無かった。
問題だったのは生まれたばかりの仔猫のうち一匹が王の器だったこと。
その仔猫は母親から王の力を吸い取って生まれてきた、前王は王では無くなり、生まれたばかりの仔猫が王となってしまったのだ。
能力の制御も出来ないような仔猫は不幸にもとても強い力を持っていた。それはゲートを開く力。
ゲートの能力はとても稀で珍しい能力だ、それこそ三毛猫の雄が生まれるような確率。
制御出来ずに暴発したゲートはその仔猫自らをどこかへ消してしまった。
悲しみに暮れた前王の前にケット・シーが現れる。そして前王は願った。「消えてしまった仔猫の元へ私も飛ばしてください」と。
他の仔猫たちも連れて行く事にした、生まれたばかりの仔猫は母親無しでは生きられない。
飛ばされた仔猫が力を制御出来るようになったらゲートの力で戻ってくるつもりでいた。
ケット・シーは異世界へのゲートを開いたせいでエネルギーを消費し過ぎて休眠状態となる。王不在の期間に出てこれなかったのはその為だ。
そしてここからは僕の話を聞いてからの憶測となる。
異世界、僕からしたら元の世界は冬が始まろうとしていた、あまりにも寒い、そしてたった一匹で先に来ていた仔猫は凍えておりあまりにも弱々しい。
そこで見付けたのは暖かそうな家で飼われている僕の飼い猫だった。この家なら弱った仔猫だけでも看てくれるかもしれない、そう思ったのだろう。
僕はその狙い通り仔猫を拾い、面倒を見た。
イオリと名付けられた仔猫はすっかり元気になった。しかしそこで悲劇が起きてしまう。
道路に飛び出したイオリに車が迫り、僕がそれを庇って瀕死となったのだ。
イオリは僕のことをとても慕っていた。僕を死なせたく無かった。
そこでまたイオリは王の、ゲートの力を発動して異世界へと渡る。イオリは僕を道路以外の安全な場所に運びたかっただけだったのだろう。
そして今にも消えそうな僕の魂を、イオリは自分の魂で補強した。
猫の魂は小さい、人間である僕の魂を補強する事でほぼほぼ使い果たし、自分自身を僕の中へ封印して休眠した。それはケット・シーが城に自らを封印し休眠していたのと同じ力らしい。
猫の王の力は僕の魂にも溶け込み融合する。しかし猫に比べ人の魂は許容量が大きい、その大きな許容量にケット・シーの力の一部が流れ込んだのが命令権だった。
そして人と猫が混ざった後天的な猫族としてこの世界に顕現し、王となった。イオリは元々王だったのだから自然な流れだったのだ。
僕が猫の王として名乗りを上げた時、暖人では無くイオリを名乗ったのも、王はイオリだったから無意識にイオリの名を名乗ったのかもしれない。
イオリはずっと僕と一緒に居たのだ。
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「憶測含むけどだいたいこんな感じだと思うにゃんご」
「うん、なんかすごく納得した」
「で、イオリ…いや、ハルトはどうしたいにゃんご?」
急に本当の名で呼ばれハッとした。そうだ、そうだった、帰ることも出来るんだ。
「帰りたいにゃんご?」
「帰りたいと言ったら止める?」
「イオリには命令権があるにゃんご、我輩には止めれないにゃんごよ」
「…」
「ただ、こういうこと言うのはずるいかもにゃが、正直に言うと異世界へのゲートなんて開いたら我輩はもうエネルギー使い果たして消えちゃうにゃんご、我輩の力は家畜の王と違って有限なんだにゃんごよ」
「そっか…、うん、それなら…」
「でもそれを理由にするなら我輩は強制的にイオリを元の世界に帰すにゃんご」
「…え?なん…で」
「我輩がスッキリしないだけにゃんご!」
「は、はは…。猫の王が不在になっちゃうよ…」
「王の存在しない動物なんて腐るほどいるにゃんご、なるようになるにゃんご、この世界の猫たちはもうだいぶ逞しくなったにゃんご、我輩も引退を考える時が来たのかもしれないにゃんご…」
「…少し…考える時間が欲しい」
「イオリとハルトが納得出来る答えを待ってるにゃんご」
はい、こういう事でした。
そして流れから分かるかもですが、終わりが近いです。
少し短いかな?とは思いますが、自分的には書きたかったとこ一通り書けたので別に打ち切りにした訳では無いのです。
あと少し、お付き合いくだされー。




