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珍客が来店しました


 ◇ ◇ ◇



「ごはん食べる時はいただきます!だにゃん☆」


「いただきますっていうのは食材に感謝する言葉なんだにゃあ♪」


「あ、残ってるよ!残ってる!残しちゃ嫌なんだにゃあ~」


「美味しい?ねぇねぇ美味しい?」


「にゃあ~、おにくくいにゃあなぁ、うまにゃーうみゃーておどにゃんや」


「にゃーて?毛はいってににゃ?にゃーてねさげさせてもらにゃーよ」


「みゃあぁ」


「んなぁ~」


……………

……





 猫喫茶アンズはジャコウ家の後押しも有り急速に拡大していった。正直ここまで上手くいくとは思っていなかった。

 そう、上手く行き過ぎた、その結果がまさかの珍客、これは凶なのか、それとも吉なのか。とりあえずいきなり仕掛けてくる様子は感じない。


「おい三毛、あれどうすんだ?」


 シグレがテーブルに座った珍客を指差して苦い顔をする。僕だって同じ気持ちだ。



 猫喫茶アンズ本店、そのテーブルに座ったのは浅黒い子ヤギ獣人の女の子、そう、あいつだ。小さなガラガラドン。小さいという事はケット・シーが言ってた通り省エネモードという事だろうか。



 チリン! チリンチリン!


 テーブルの呼び鈴を鳴らしながらこっちを見つめるガラガラドン、その顔からは毒気が抜けており敵意が無い事を物語る。

 シグレを後ろに控えさせ慎重にガラガラドンに近付いていく。



「お待たせしました、…で、何の用?まさか食事に来たって事は無いでしょう?」

「7品目の季節のサラダ」

「え?」

「…サラダを注文しているのよ、…メニューに載っていたのだけれど?」

「え、あ、ええ!?」

「覚えれないのならメモしなさいよ、7品目の季節のサラダよ」

「違う!そういう事じゃない!……本当に食事しに来たのか?」

「あら、あらあらあらあら?客に随分と横柄な態度じゃないかしら?」


 ガラガラドンは机に金貨を置いてこちらに滑らせる。


「足りるかしら?チップも欲しい?」

「な!…多すぎる、受け取れない」

「あらあら、真面目ね、真面目だわ。でも貰っておきなさいよ」

「何が目的なんだ?」

「サラダを食べに来たって言ってると思うのだけど?」

「んん………少々お待ちください」



 シグレにガラガラドンを見張っておくように言って僕は厨房へ移動する。


「オーダー、7品目の季節のサラダ」


「はいはーい、おまかせにゃん♪」

「にゃってにゃにゃー、すぐつくるにゃやー」


 厨房にはたくさんの料理人、思えば随分と大きな店に発展したものだ。






「お待たせしました、サラダです」

「美味しそうだわ、とっても美味しそう。…毒は入って無さそうね、懸命な判断だわ、入ってても私には効かないけれど。…いただくわね」

「…ごゆっくり」



 席から離れようとしたところで体に僅かな抵抗を感じた、服を掴まれている。ガラガラドンの小さな手が僕の服を摘まんでいた。


「ここに居なさいよ、お話したいわ。『いただきます』から『ごちそうさま』まで付き合ってくれるのがここの流儀なのでしょう?私には適用されないのかしら?悲しいわ」


 この家畜の王は何を考えているのかさっぱり掴めない、しかし不思議とガラガラドンからは以前のような気味悪さは無くなっていた。

 僕は同じテーブルに着くとサラダをほお張るガラガラドンをただ見つめた。



「美味しいわ、ドレッシングの味は薄めなのね」

「野菜の鮮度が良いからね、本来の味は生かしたいんだ」

「良い心がけだわ、美味しい、美味しいわ」

「…そいつはどうも」


「ケット・シーには会ったかしら?私のこと聞いたのでしょう?」

「…知り合いらしいね」

「知り合い…ね。まぁそれで良いわ」

「?」



「一つ、質問に答えてあげる」

「そう?じゃあ一つだけ、…僕のやったことはガラガラドンにとって意味のある事だった?」

「そんな質問で良いのね?…私がここに来て、穏やかに食事してるのが答えよ」

「満足した?」

「いえいえ、全体で見ればほんの僅かな意識改善に過ぎないわ」

「でも、意味はあったんだね」

「ええ、だから…、だから良い事を教えてあげる、これは家畜の王すら救おうと思った愚かな猫の王へのサービスよ」


 サラダを食べ終わったガラガラドンがフォークを置いた。


「あなた、別の世界から来たのでしょう?」

「うん、それは前に話したね」

「その世界にも、猫居るわね?」

「え?うん」

「ケット・シーのゲートは猫の居る場所なら繋ぐ事が出来るわよ」

「………ん?…え、つまり」

「帰れるわ」

「そんな…ことが…」


 帰れる?元の世界に?そう思ってしまったらもう家族の顔が見たくて仕方ない、母親の、父親の、妹の、家で飼っていた猫たちの…、もう会えないと思っていた人達の顔が。

 僕は元の世界では死んだ事になっているのだろうか、帰れたとしても姿はこのままなのだろうか。けっきょく猫のイオリはどうなったのだろうか。


「でもケット・シーは惚けるでしょうね、きっとゲートを開いてくれない」

「え、どうして…」

「理由は二つ、まずはケット・シーの衰え、流石に世界の移動はエネルギーの消費が激しいわ。ケット・シーの寿命は一気に減るでしょうね」

「…もう一つは?」

「分かるでしょう?せっかく現れた王様が帰ってしまったら猫たちがどうなるか」

「それは、ケット・シー居るんだし、なんとかなるんじゃ」

「なるならとっくにしてたはずでしょう?あの男は自分の寿命が減る事は気にしないでしょうね、でも猫の王が不在になるのは良しとは思わない」

「…そっか、ありがとう。後は自分で考えるよ」

「ええ、そうね。よく考えることね」


 そう言うとガラガラドンは席を立ち普通にドアから外へ出る。


「ああ、良い忘れてたわ。…ごちそうさま」



次は最初の謎へと進んでいきます。

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