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大きなガラガラドン

 戦闘態勢に入った僕達をキョトンと見つめるガラガラドン。


「戦うの?叩くの?殴るの?切るの?私は中くらいのガラガラドン、非力なヤギ、か弱い草食獣。メェェー、メェェー。痛いのは嫌だなぁ、嫌なの」


「君がみんなを解放して僕の事も諦めてくれたら戦わなくても良いんだけどね」


「私は中くらいのガラガラドン、もう少し待ってくれたら私より大きな…、あ、あ、あああああ、んふふふふふふ」


 急に屈んで小刻みに震えながら笑いだすガラガラドン。心なしか角が大きくなってる気がする、いや、確かに大きくなっていた。それは角だけでは無い、脚が太くなり、髪も急激に伸び腰までの長さになっていた。


「んふふふふふふ!部屋が狭いねぇ!少し大きく広げようか!」


 小屋の様だった赤い部屋は縦、横、奥行きが広がっていき、学校の体育館を2つ繋げた様な大きさになってしまった。部屋全体が赤一色だからかそれは違和感無く広がっていく。


「ごめんなさいねぇ、殺風景でぇ、複雑なのは難しくてねぇ」


 ガラガラドンの声が上から聞こえてくる。そう、見上げないと顔が見えない程にガラガラドン本人も大きくなっていたのだ。

 体全体も浅黒い毛で覆われ、顔もヤギのソレになってしまっている。そして孤を描く巨大な角は捻れ、芸術的な造形をかもし出す。


「私は大きなガラガラドン、さぁ、いらっしゃい」


 常談では無い、何がか弱い草食獣だ。これでは怪獣だ、悪魔だ、バフォメットだ。いや、羽は無いしメスだからバフォメットは違うか。


「言われなくても行ってやらぁ!」


 シグレが爪を構えて前傾姿勢を取る、普通であれば前に転んでしまいそうな姿勢だが尻尾で器用にバランスを取っているようだ。

 そして地面を音も無く強く蹴り、一瞬でガラガラドンの懐に飛び込むと爪を突き立てた。


 しかしガラガラドンは巨大なヒヅメで床を掴み、びくとも動かない。それどころか刺さった爪をシグレごと掴むと人形でも投げ捨てるかの様に放り投げてしまった。

 ガラガラドンの体からは一滴の血すら出ていない。


「シグレ!」

「けほっ、大丈夫だ三毛、敵に集中してろ」


 強がってはいるがシグレの足がふらついているのが見てとれる。


「あらあらあらあらその程度?」

「ちにゃーよ!」

「あら?」


 余裕を見せるガラガラドンの真上に移動していたテル、シグレが注意を下に向けさせた隙にテルが頭上をとっていた。

 テルのガラスの剣は、わざと砕き相手にガラス片をぶちまける嫌がらせ攻撃、上から浴びせるのが最も効果的だ。


 しかしそこはガラガラドンにとって、ヤギにとっては死角でもなんでも無い、首を振る、たったそれだけの動作で巨大な角がテルの体にめり込み、くの字に曲がったテルの体が豪快に宙を舞う。


「どうしましょう、どうしましょう、びっくりして猫ちゃんを傷つけてしまったわ。どうしましょう。ねぇねぇ、どうするの?猫の王はどうするの?うふふふふ」



 猫人であるテルに被害が及んだ、その事実は猫の王の力を呼び覚ます。力が心の奥底から溢れてくる。猫を、猫を守らねば。


 猫の手の形をしたメイスを振り上げ、力の限り床を叩く。

 大音量の衝撃波が赤い部屋を埋めつくし床が震える、これには流石のガラガラドンも面喰らって驚きの声をあげた。


「わ!、…はははは、あははははははは。すごいねぇ!小さいのにすごいねぇ!…あら?」


 ガラガラドンが僕を探している、そう、今のは猫だまし。

 ガラガラドンの注意を引き付けた隙にテルを回収しシグレの隣に寝かせた。

 体の頑丈なシグレと違いテルは猫人だ、早くちゃんとした所で診てもらわないと不味い。


「シグレ、テルを頼む」

「お、おお」



「すごいねぇ!一瞬でそこまで移動してたの?すごいすごい!」


女性の顔だったときならいざ知らず、今のガラガラドンの顔はほぼヤギだ、ヤギの顔がニタニタと動き不気味さしか無い。


「ガラガラドン、君は何がしたいんだ」

「言わなかったかしら、欲しいものがある、あげたいものがある。それは目、綺麗な綺麗な猫の瞳。ガラス玉の様な、まあるい宝石。代わりにヤギの目をあげる。気味悪がられる異質な悪魔の瞳」

「…断る」

「あら残念。んふ、んふふふふ」



 前傾姿勢、シグレの真似をする。戦い方なんて知らない、見たまま真似をする。

 手が床に付く程の姿勢、尻尾でバランスを取る、シグレの様に格好よくは行かない、それはまるで陸上競技のクラウチングスタート。

 強く、強く地面を蹴る。シグレの様な戦う為の熟練した走行術では無い。元の世界で培った陸上部の走行術、ただ体を前に出す為の走行術。


 それが猫の王の力というブースターを得て信じられない程の走力を生んだ。


 瞬きのような刹那の瞬間にガラガラドンの足元まで駆け抜ける。

 そしてその勢いのままガラガラドンの足にメイスを叩き付けた。



 大きく響き渡る乾いた音。



 ガラガラドンの足が折れた?いや違う。折れたのはメイスの方だった。



「んふ、んふんふふふふ。今のはビックリしちゃったわぁぁぁ、凄く痛かったぁ」

「そん…な…」



「三毛!早く離れろ!」


 聞こえてきたシグレの言葉にハッとする、呆けている時間は無い。地面を蹴って後ろに飛ぶ。さっきまで僕が居た場所にガラガラドンの拳が降ってきていた。


「三毛!こっちだ!俺の武器使え!」


 シグレが自分の持ってる鍵爪を僕に投げようとしたその時だった。事態は急変する。




『んにゃっは、そこまでにゃんご。こっちにゃこっち』


 気の抜ける様な大きな声、そしてふんわりと香るどこか懐しさを感じる匂い。

 声のする方向を見ると赤い部屋に大きな穴が空いていた、その先に見える草原、そしてその更に奥に見える朽ちた城跡。


「猫の城だ!シグレ!その穴に飛び込め!」

「お?お、おお!」


 シグレはテルを抱えて穴の中へと消えて行った。


「じゃあね、ガラガラドン」


 僕も穴へと走っていく、もちろんガラガラドンに妨害されるが小回りの利く猫にとっては避けながら走るのは容易い事だ。




 穴を抜けるとやはりそこは猫の聖域、猫の城があった。ガラガラドンは入ってこれない。穴が静かに閉じていく。



『みんな無事にゃーご、悪かったにゃんご、君たちもおいでーにゃ』


 声は城から聞こえてくるようだ。


「おう三毛、無事だったか」

「あ、シグレ!良かった、シグレも入れたんだね」

「逃げれたのは嬉しぃんだがなぁ、正直ふくざ…つ…、ん?三毛、なんかでかくなったか?目線が同じ…、んん?んんんんん?」


 そこに居たのは間違いなくシグレだった、サイズ以外は。


「シグレが縮んだみたいだね。なるほど、小さくすれば猫っていう判定になったのか」

「あー!?なんじゃこりゃあ!!」

「とりあえず今はテルを連れて行こう、心配だ」

「あ!?あー、…ちっ!そうだな!くっそぅ…」


次は猫の城となります。

聞こえてきた謎の声の主はいったい誰なんでしょうね!

正解は次の更新で!…あ、はい、なるべく急ぎます。

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