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赤い部屋は好きですか?

「っざけんな!ぜってぇいかねぇぞ!」


 朝から激しい剣幕で城行きを許否するシグレ。今までにない凄みを感じる。


「第一その猫の城ってぇのは安全なんだろぉがよ!俺いらねぇだろ!」

「異例の事らしいからね、まずその安全を確認したいんだ」

「その黒猫いりゃ十分だろ!」


 僕の隣にはすでに猫人のテルがスタンバイしていた。呑気に雨合羽を着ている最中だ。


「どうしてそこまで嫌がるの?」

「てめぇにゃ関係ねぇだろ!」

「教えなさい」


 猫の王の命令権発動、猫に属する者には抗う事の出来ない僕の力。


「あ…てめ…、それだよそれ!」

「どれ?」

「猫への命令権だ!それが俺に有効な時点で俺ぁ猫疑惑かかってんだぞ!なんか猫どもが寄って来るしよぉ!」

「…く、くく、そ、それは…悪かった…ね、ぷ、ぷふ」

「笑い堪えてんじゃねぇよ!これで猫の城とやらに入る事までできたら心が折れるわ!」

「あははははは、そっか、そういう理由だったのか」

「ちっ、分かったら…」

「ついてこい」

「んな!…い…や…だ…」

「命令権を堪えた!?」


 そこまで嫌か…、ならば、更に強く言うまでだ。


「ついてこい!」

「く…分かったよちくしょう!」

「え?本当?ありがとー、助かるー」

「てめぇ…、いつか本当に殺してやる」

「ふふ」


「いおにゃ、そろそろいこみゃーにゃ」

「そうだね、ところで猫の城ってどうやって行くの?」


 思えば行きも帰りもアンズに任せっきりだった。


「城の匂い辿って行くだけニャ、なんかこう…フワッとした柔らかい懐かしい匂いニャ、猫だけが嗅ぎ取れる匂いニャ」

「ふーん…、シグレ分かる?」


「っんで俺に聞くんだよ!分かる訳ねぇだろ!俺はジャガーだ!」

「あはは、知ってる」

「このやろう…」


 シグレをからかってないでそろそろ行くとしよう。鼻に気を集中する。

 …これはコーヒーの匂い。

 …これは今朝嗅いだアンズの匂い。


 …これは、…酷い、生臭い、強烈な臭気。


「うっ、うぇ…げほ」

「いおにゃ?にゃーじょぶかにゃーや?」

「うぇー、なんかすっごく嫌な匂いがしたんだ。やっぱり僕にはまだ難しいのかも、テルが案内してくれる?」

「おにゃかせにゃーにゃ」


 テルは顔を動かし鼻を引くつかせて匂いを嗅ぎとると歩き出す。


「いおにゃ、しぐにゃ、こっちにゃーよ」

「ちっ、こうなりゃ自棄だ、いってやるよ」


 待って、そっちは…、そっちは違うよ。だってそっちは…。


「二人とも止まれ!」


「いおにゃ?」

「んだよ三毛」


「そっちからは嫌な匂いがする。絶対違う!」


 二人が歩き出した方向は、僕が嫌な匂いを嗅ぎ分けた方向だった、アンズの説明が正しければそっちであるはずが無い。


「アンズ、ソマリ。二人も嗅いでみて、テルの方向は合ってる?」


「うーん…、うん、合ってるニャ」

「合ってるナァ」


「…、僕がおかしいのかな。そっちは絶対に行っちゃいけないと思うんだけど」

「イオリが言うならイオリが正しいはずニャ、そもそもイオリが道を開いたこと前提での話だったんだからニャ、でもイオリが正しいならちょっと危険ニャね」

「え?」

「だって、猫たちは城に行こうとしちゃうニャ」

「…もうすでに行っちゃった奴もいるかもしれないってことか、行くしかないな。テルとシグレは付いてきて、アンズ、今日は店閉めてソマリと一緒にカブトの近くに居て」

「分かったニャ」



 僕は以前カブトからもらった猫の手メイスを装備し準備を整える。シグレも腰に大きな3本爪の鍵爪を2つ、両手分ぶら下げていた、格闘ゲームで見た事ある気がする。あるいは某RPGで武道家が装備するやつだ。


「じゃあ、行ってくるよ」

「…気を付けてニャ」




 僕とテルとシグレ、3人は猫の城があると思われる方向へと向かう、僕にとっては嫌な匂いがする行きたく無い方向へ。


 前と一緒でまっすぐ町を出るような事はしない、路地を行ったり来たり、わざわざ柱の間を通ったり、横着しようとしたシグレにやり直しさせたり。

 町を出て森に入るとまた木々の間を行ったり来たり、最後は藪の中を潜ることになる。


「ここにゃーよ、にゃーからここくぐにゃー」


 体の大きなシグレもぎりぎりではあったがなんとか潜る、そう、潜ってしまった。その先にあったのは前に見た城では無い、僕はここを知っている。

 出口も窓も無い、家具さえ無い真っ赤な部屋。生臭い匂いが鼻を突く。


「うっ…、そんな…」

「あんだぁ!?猫の城ってなぁこんな場所なのかぁ?気味悪いなぁ」




「あははは、また掛かった、また掛かった。面白いわね、面白い」


 突然聞こえてくる女性の声、部屋の中を反響してどこにいるのか分からない。


「ここよ、可愛い猫ちゃん、私はここ」


 ふいに背中を指で撫でられるような感覚がして飛び退いて振り返る、そこに居たのは元の世界であれば高校生くらいの見た目の若い女性、口の端を持ち上げニタニタと笑って立っていた。

 足は浅黒い毛で覆われ、足の先はヒヅメとなっている。浅黒い髪は肩まで伸び、頭には孤を描く角。そしてその目は…。


「ヤギの目…、ここは君のせいなのか?」

「あらあら不思議、あら不思議。あなたはあまり驚かない」

「ここはどこだ!?」

「怖い顔しないで、私はか弱い草食獣。怖い怖い、ああ、怖い」

「答えになってない!」

「猫たち見てたらみんなここを通ってどこかに消えた、ならここに私のお家を建てましょう、そうしましょう。可愛い猫ちゃんご招待」


 つまり猫の城は本当に解放されていた、こいつはそれを利用して罠を…。


「猫の城の前にコレを設置したのか…、何人捕まえた!どこにいる!」

「みんなここ、ここに居る、数分前のこの場所に、時間を変えたら新しいお部屋の出来上り」

「四次元…」

「あら詳しい、あなたは変わってる、ええ、変わってる。そんな概念この世界の人達は知らない、あなたはだあれ?いえ分かる、なんとなく、あなたが王様?」


 前に会った小さなガラガラドンと名乗るヤギ獣人の女の子の関係者に違いない。僕が目当てなら名乗り出るしか無いだろう。他の猫たちに被害を広げる訳にはいかない。


「そうだ。猫の王、イオリだ」

「ああああああ!あなたが!あなたが王様!あああああ可愛いねぇ、やっぱり可愛い」

「僕に用があったなら他の猫は解放してくれ」

「めんどくさい、時間の移動はめんどくさいの。でも安心、指一本触れてない、みんな無事、何日無事かは知らないけれど、明日は流石にまだ生きてるかな?明後日は?一週間後はどうだろう?見てみないと分からないねぇ。可愛い可愛いシュレディンガー」

「!…君は、何者だ?」


 シュレディンガーの猫、猫を入れた箱に薬物を入れ50%の確率で猫が死ぬようにセッティングする実験。確認するまでは猫は生きてもいるし死んでもいる、という頭の良い人が考えた頭の悪い思考実験。

 この世界の人が何故シュレディンガーの猫なんて知っているのか、そういえばガラガラドンという言葉にも覚えがある。子供の頃に読んだヤギの絵本。

 ガラガラドンやシュレディンガーは明らかにあっちの世界の固有名詞だ。


「んふふ、私は中くらいのガラガラドン」

「君も、元の世界の記憶があるのか?」

「私はヤギ、黒いヤギ。狂気を産む黒山羊。知っているかしら?黒い山羊の目には別の世界の景色も見えている、あなたはそっちから来たのね。んふふふふふ」



「おい!話がなげぇぞぉ、三毛、そいつはなんだ?敵って事で良いのか?」


 シグレが両手に鍵爪をはめて擦り合わせる。


「ああ、敵だ。でも殺さない程度で頼むよ、猫たちの救出と僕達の脱出方法が分からない」


「オーケーだ三毛、行くぞ黒猫、捕縛はてめぇの得意分野だろ?」

「にゃーでもしぐにゃにゃいわれにゃーでもやってやんにゃー」

「はは、何言ってるかわっかんね!」



いきなりラスボス感溢れる人登場。

黒い仔山羊とか、狂気産む黒山羊、まぁ、クトゥルフのあの人ですよね。

正確にはガラガラドンとか悪魔と山羊の関係も混ぜてる感じですが。


次はやっとちゃんとしたバトル、かな?違ってたらごめんなさい。

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