社会的な抹殺
「グォ……?」
自身の攻撃を防がれたことに驚いたか、スカルナイトが鈍い声をあげる。
当然だ。こいつは強い。
冒険者ランクで換算すればB程度の力があるため、純粋な力だけでいえば、俺では敵わない。
――が、それは単純に殴り合った場合の話。
《補助魔法》の《猛毒》を使った場合には、その限りではない。
「ガガガガガガガ……‼」
全身に猛毒が巡りだしたか、スカルナイトが鈍い悲鳴をあげた。
こいつは攻撃力や俊敏力は高いものの、その見た目通り、耐久面に劣る部分がある。俺が必死に鍛え上げてきた《猛毒》にかかれば、ものの数秒で命を奪うことができるのだ。
「ガガガガ……ガ」
果たしてスカルナイトは膝から崩れ落ち、完全に動かなくなった。
紛うことなき、俺の勝利である。
「ふぅ……」
一呼吸おいて視線を巡らせてみるも、ベルフレドの姿はもう見えなくなっていた。
考えるまでもなく、別の戦線に移っていったんだろう。もしかしたら近くにいるのかもわからないが、多くの魔物と冒険者が入り混じっている戦況では、特定の人物の見つけるのは容易ではない。
あいつを殺すという復讐計画は――完全に失敗だ。
「あ、あの……」
恐る恐るといった様子で、助けた少女が声をかけてきた。
「ありがとうございます……。た、助けてくれて」
よくよく見てみると、彼女も俺と同い年くらいだった。
美しい銀髪がなんとも特徴的で、それが腰のあたりまで伸びている。スタイルも抜群に良いので、以前までのベルフレドなら真っ先に助けにいったはずだけどな。Sランク冒険者になったことで、そっち方面も遊びまくっているのかもしれない。
「はぁ……」
どうして人助けなんかするために、わざわざ大事な機会を手放してしまったのか。
いまだ自分の行動に納得できないが、ひとまず俺は少女にポーションを手渡した。
「飲めよ。傷だらけだぞ」
「そ、そんな……。いいんですか? 助けてくれただけじゃなくて、ポーションまで……」
「いいから飲め! 本当は欲しいんだろうが‼」
「は、はひぃ‼」
妙な声とともにポーションを受け取り、少女はそれをごくごくと飲み干す。途端、身体のあちこちにあった切り傷たちが、一瞬にして癒えていった。
「アデオル!」
と。
遅れて到着したユメルが、慌てた様子で俺に声をかけてくる。
ここにくるまで少し時間がかかったのは、やはり彼女も魔物と戦っていたためらしいな。
「あ、ありがとうアデオル! あんなに速く走っていったのは、その子を助けるためだったのね……!」
「はぁ……?」
どうしてそうなる。
俺がそんな人助けをする性分じゃないのはわかってるはずなのにな。
「ほんとに凄かったです! 一目散に魔物を倒しただけじゃなく、私に強引にポーションを飲ませようとするその男らしさ……! 惚れ惚れしてしまいますわ!」
銀髪の少女は両頬に手をあて、顔を真っ赤にした様子で何事かをブツブツ呟いている。
こいつもこいつで、なんだか妙な性格をしているっぽいぞ。
「あ、あははは……」
ユメルも片頬を掻き、ちょっと呆れた様子で少女の発言を聞き流していた。
「と、ところでお嬢さん。名前を教えてもらっても?」
「カーナ・リュシアです。街中を歩いている最中に、そこのイケメンさんに助けてもらいましたわ!」
「そ、そう。この魔物たちがどこから湧いてるかってわかる?」
「う~ん、それがですね……」
そこでカーナは右頬と右手を重ね合わせ、考え事をするような仕草をしてみせた。
「実はこの襲撃があるちょっと前、町のはずれで不審な人を見かけまして。それを冒険者ギルドに報告しにいこうとする道中で、さっきの怪物に襲われてしまいました」
「…………」
魔物が襲撃してくる直前に現れた、不審な人物……。
もしかしなくてもそれ、かなり重要な情報なんじゃないか?
ユメルも同じことを考えたのか、さっきよりも幾分、真剣味を増した表情で訊ね返した。
「覚えてる範囲でいいわ。その不審人物はなにをしてたのか、どんな格好をしてたのか……できる限りでいいから教えて」
「そうですね……。コソコソ動きまわっていましたから、なにをしてたかまではわかりませんが。黒いマントに黒い仮面を覆っていて、怪しい人物なのには間違いありません」
「…………」
カーナからその言葉を聞いた途端、俺とユメルは思わず顔を見合わせた。
――黒いマントに、黒い仮面。
忘れもしない。
幻影の森にて《ピムラ草》を採取した帰り道、突如にして襲い掛かってきた男たちと特徴がぴたり一致している。
詳しいことは結局わからずじまいだったが、襲撃してきたタイミングを考えるに、ベルフレドが雇った可能性が高い。たしか連中を気絶させた後、冒険者ギルドに引き渡されたはずだが……。
俺が視線でそれを問いかけると、ユメルは首を横に振って答えた。
「残念だけど、二年前の男たちの正体は判明していないわ。ギルドマスターがすぐに王国軍に引き渡しちゃったみたいで……」
「そうか……」
それは明らかにきな臭いな。
俺が冒険者パーティーを追放されてから、ベルフレドたちは着実に成果を挙げていった。
今回のように魔物の大量発生する地域に赴き、そして身分の高い人々を救い続ける。
このような功績の数々が認められ、Sランク冒険者になった後も、かなりの信頼を積み続けていると聞いている。
しかしその魔物襲撃の裏に、あの時のハゲの仲間がつるんでいるんだとしたら……?
もしベルフレドが、自身の名声を高めるために裏社会の連中を取り入れているんだとしたら……?
「ふふふ……」
俺は思わずニヤリと笑みを浮かべていた。
当初は物理的にあいつを泣かせてやろうと思っていたが、気が変わった。
ベルフレドから社会的な功績をなにもかも奪ってやれば、死よりも恐ろしい、生き地獄をあいつに提供することができる。
復讐として、これほどうまいネタはあるまい。
「こうしちゃいられんな。その不審人物が襲撃の元凶かもわからない。いますぐそいつらを仕留めにいこう」
「あ、でも待ってください」
やる気の炎を燃やしている俺に対し、しかしカーナが止めにかかる。
「見たところ、あの不審人物たちはただ者ではありません。いったんは体勢を整え直してから行ったほうが……」
「必要ない。この大事な機会を、見失うわけにはいかないんだよ」
「ア、アデオル様……。なんて男らしい……」
両手を重ね合わせ、なぜか目をキラキラさせるカーナ。
この絶好の機会を逃しては、またさっきみたいに復讐のチャンスを損なう恐れがあるからな。なんで目をキラキラさせているかわからないが、このカーナという少女、やはり頭のネジが何本か外れているに違いあるまい。
「アデオル、本当に昔に戻ったみたいね……」
ユメルもなぜかちょっぴり嬉しそうにしていたが、もはや面倒なので構っていられない。
その後、不審人物が向かったという場所をカーナに聞き出してから、俺とユメルはその方角に向かうのだった。
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