本当の俺
優しいおっさんに酒を渡し、俺たちは居酒屋を後にすることにした。
飲みかけのきったねぇ酒だったが、おっさんはまた親指を突き出して受け取ってくれた。俺たちの事情を察してくれたのか、もしくは何も考えていないかのどっちかだろう。
そして俺たちが居酒屋を後にした理由はひとつ。
ベルフレドを追うためだ。
ユメルは「ユーラス町を助けないと!」と息巻いているが、もちろん、俺の目的はそんなしょうもないところにはない。
あれから二年経ち、以前よりはるかに力をつけたいま。
戦闘のどさくさに紛れて、あのクソ野郎――ベルフレド・ガーランドを殺してやるつもりだ。
曲がりなりにもあいつはSランク冒険者なので、たぶん正面から殴りかかっても勝てない。だが入り乱れている戦線で、あいつに《麻痺》のひとつでもかけてやれば――さすがに無事では済まないはずだ。
久々にあいつに煽られたことで、無事に殺意も湧いてきたしな。
ここいらで一発、あのクソ野郎に復讐を果たしておきたいところだった。
だから俺とユメルはいま、辻馬車に向かい合わせで座っていた。
乗合馬車だと時間的に間に合わない可能性があったからな。なけなしの金を叩き、二人だけの馬車を借り入れた形である。
「……おまえ、どうしてそんなに嬉しそうなんだ」
そして、馬車に揺られること数分。
なぜか嬉しそうに俺を見つめているユメルに、俺は疑問を禁じえなかった。
「だって、昔のアデオルに戻ってくれたと思って」
「は?」
「昔話したじゃん。なんでアデオルは冒険者をやっていたのか……っていう話」
「…………」
数秒だけ考え込み、俺は該当の記憶を掘り起こすことに成功した。
「おまえ……あんな昔のこと覚えてたのか」
「当たり前じゃん♪ 私にとって大切なことだよ」
ユメルのいう《昔話したこと》というのは、いまから二年前――。
ちょうどベルフレドに陥れられ、冒険者ギルドを追放されたときだったか。
大事なトモダチのことを知りたいという理由から、ユメルに俺のことを根掘り葉掘り聞かれたのを覚えている。
――アデオル君はどんな食べ物が好きなの?
――アデオル君はどんな女の子がタイプなの?
――アデオル君はなんで冒険者になったの?
この最後の問いかけに対し、俺は「困っている人を救いたいから」と答えた覚えがある。
クソしょうもない回答だが、それが当時の俺の答えだった。自分がレベルの上がらない無能なのはわかっていても、それでも誰かの役に立ちたかったのだ。
……本当に下らない話だけどな。
「あんな昔の話を掘り起こすな。いまの俺はもう……前とは違うんだよ」
「うん、わかってるけどね。でもやっぱり、嬉しかったんだ」
そうか。
そういうことか。
ユメルはたぶん、俺が人助けのためにユーラス町に向かっていると思っているんだろう。だから事件現場に駆けつけようとしている俺を見て、《昔のアデオルに戻った》と喜んでいるんだ。
とはいえ……あえて訂正する必要もないだろう。
本当の目的を伝えたらなにを言われるかわかったもんじゃないからな。
俺の目的はあくまでベルフレド。
あいつを殺しさえすれば、少しは日頃の鬱憤が晴れていくだろう。
そんな思索を巡らせながら、俺は頬杖をつき、しばしの仮眠につくのだった。
★
若手冒険者の言っていた通り、ユーラス町は大惨事に陥っていた。
普段はレンガ調の町並みが広がり、等間隔に木々や花々が植え付けられ。
一言でいえば《オシャレな町》となるだろうか。
町の中央には噴水広場があって、昼間になると老人や子どもたちで賑わっていると聞くが――いつも穏やかな町には、あちこちで火の手が広がっていた。
その原因は考えるまでもなく魔物。
町のあちこちでカマキロスやスカルナイトなど、強敵として知られる怪物どもが暴れまわっている。
本来はユーラス町にいないはずの魔物ではあるが……いまはその理由について考えている場合ではないだろう。
そして。
「おるぁぁぁぁあああああああああ!」
その魔物たちを一方的に蹂躙していたのが、元幼馴染のベルフレド・ガーランド。
自慢の剣を縦横無尽に振り回し、次から次へと魔物たちを倒し続けている。カマキロスもスカルナイトも決して弱い魔物ではないが、さすがにSランク冒険者の相手ではないか。
「ベルフレド様――っ!」
「どうか私たちを守ってください!」
その脇では、町人と思われる人々がベルフレドに声援を送っていた。
本来であれば、危険なので安全な場所に避難させたほうがいいはずだけどな。ベルフレドがその指示を出さないのは、声援を受けるのが気持ち良いからか。
それからもうひとつ。
一見すると大活躍しているベルフレドだが、さらに見逃せないポイントがあった。
「ベルフレド様‼ こちらにもご慈悲を……!」
「ここにも魔物がいます、ベルフレド様ぁ……!」
そう。
ベルフレドが戦闘を繰り広げている場所は、町長の家付近だけ。
会合かなにかを行っていたのか、その近辺には身分の高そうな人間が沢山集まっており――ベルフレドが守っているのは、彼らだけだった。
他の町人に対しては見向きもしていない。
あまりにもあからさまな、ある意味でベルフレドらしい動きだった。
「大変……! 早くみんなを助けないと!」
ユメルが腰から剣を抜き、さっそく戦闘の構えを取る。
彼女はお偉いさんだけでなく、純粋に人助けをしたがっているそうだな。
その心意気は立派だが――生憎、俺の目的はそこにはない。
「アデオル、いつもみたいに協力して魔物を倒しましょう! 二人で力を合わせればきっと……って、アデオル‼」
ユメルが言い終える前に、俺はベルフレドに向けて突進していた。
あの男は現在、魔物に取り囲まれて乱闘中だ。
あいつに《麻痺》をかけるなら今しかない。
場合によっては俺の企みを町人たちに勘付かれる可能性もあるが、別にそれはどうだっていい。ベルフレドを殺した後、俺自身にどれだけ悪評が広まろうとも――もはや、そんなことは些末な問題だった。
そのとき。
「た、助けて……!」
脇から飛び込んできたその声に、俺は顔をしかめる。
視線をそちらに向けると、少女がひとり、地面に這いつくばっているところだった。
その背後には骸骨型の魔物――スカルナイトが一匹。
逆手に剣を持ち、少女に最期の一撃を浴びせようとしているところだった。
考えなくてもわかる。
少女はいま、命の危機に瀕していた。
「し、死にたくないです……! お願いします、助けて……!」
その懇願に対し、俺は最初無視しようと思った。
俺はただ、ベルフレドに復讐しにきただけ。自分の利害を捨ててまで、困っている人を救うなんて……馬鹿げている。
――ねえ、教えて。アデオル君はなんで冒険者になったの?――
――う~ん、難しいな。レベル1の僕が言うなんて馬鹿げているかもしれないけど……自分の手で、誰かを助けることができるなら。そう思ってたんだ――
――すごい! アデオル君なら絶対なれるよ! 応援してるね!――
「ちっ……!」
突如にして脳裏に浮かんできた、昔の会話。
俺は大きく舌打ちをかますと、気づいたときには大きく方向転換していた。
「おおおおおおおおおっ‼」
――カキン、と。
少女に向けて振り下ろされていたスカルナイトの剣を、自身の刀身でもって受け止めていたのだ。
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