二年後
それからの二年間、俺はひたすらに修行に打ち込み続けた。
一人で地下迷宮や森林地帯に忍び込み、そこにうろついている魔物を倒し続けてきたのだ。
俺はいわゆる《サポート系の役割》しかできないが、あいつらに復讐するにあたっては、そんな生温いことは言っていられない。自分の命は自分で守らねばならない。
だから俺は、最低限の実力を身に着けるために。
たったひとりで、強力な魔物がうろつく危険地帯に突撃していた。
もちろんこの過程で俺が死んでしまう可能性もある。もともとレベル1ごときが敵う相手ではないからだ。
だとしても、それならそれで構わないと思った。
いまの俺に生きる希望も目的もない。生きていても良いことは一つもない。だったらここで魔物に殺されるのも、悪くない最期だと思った。クズ野郎の俺にふさわしい、最高の逝き方だ。
それでも俺が毎回無事に帰ってこられたのは、間違いなくSランク冒険者のトモダチ――ユメル・ハーウェイのおかげだった。
「心配だから」
「大事なトモダチを放っておけないから」
という訳のわからない理由を並べて、彼女は毎回俺の後ろをついてきた。
たしかに協力を申し出たのは俺だが、ここまでしてもらうつもりはなかった。あいつらに復讐する前に、魔物に喰い殺されるのも一興だと思っていたのに――。
ユメルは「それは絶対ダメ!」と言って聞かず、なかば無理やりといった形で同行してきた。彼女に気づかれないようにこっそり外出しようとしても、なぜか毎回のように先回りされているのだ。
「せいやぁぁぁあああああ‼」
だからいまも、彼女は俺の横で大きく剣を振るっていた。
さすがはSランク冒険者といったところで、俺のそれとは正直比べ物にならない。強敵とされるキノコ型の魔物――アバレドクを一撃で倒し、澄まし顔で剣を鞘に収めた。
「だ! か! ら! 言ったじゃない、アデオル!」
彼女もまた、この二年で俺に対する距離感がだいぶ縮まりつつあった。
「そんなに無理やり突撃しちゃダメ! この魔物は麻痺毒を持ってるんだよ? なにかあったらどうするの⁉」
「なにかあるのが戦場だって言ってたのはあんただろ。これはそのときに備えた練習だ」
「う~~~。ああ言えばこう言う……‼」
悔しそうに両腕を握り締め、地団駄するユメル。
そしてこの通り、俺の口調も二年間でだいぶ変わったのを自覚している。
前までは我ながら周囲に気を遣いまくっていたが、いまではそれが一切なくなった。俺は俺、他人は他人。まわりが俺をどう思っていようがどうでもいい。
――そう、ユメルが俺を嫌いになろうとも、もはや些末なこととさえ思っていた。
「ムカつくならついてくるなよ。最初から頼んでないだろ」
「駄目です! 行かせないから!」
しかしユメルの場合は、正直言って行動原理がよくわからない。
こんなにも苛つく言動を取りまくっているのに、本来ならとっくに嫌われてもおかしくないことをしているのに。
それでも彼女は、なぜか俺の傍を離れようとしないのだ。
もちろんそれは色恋の類でもない。
ただただ《トモダチだから》という意味不明な理由で、俺の近くをずっとついてくるのである。
と。
「はぁっ……!」
ふいに横から飛びかかってきた蝙蝠型の魔物に対し、俺は小さなバックステップをかます。そして突進攻撃を空ぶってつんのめっている間に、容赦のない剣撃を浴びせていく。
もちろん俺は、何年努力してもレベル1のまま成長できなかった無能者。
たかが二年努力したところでそれが変わるはずもなく、この一撃だけでは魔物を倒すには至らない。
――が。
「ギャァァァアアアッ……!」
蝙蝠は鈍い悲鳴をあげて、そのままふらふらと地面に落下する。
翼を動かす力が出せなくなったようで、地面で苦しそうに蠢いている状態だ。
補助魔法のひとつ、《麻痺》。
本来これは対象者の身体に触れないと発動しない魔法だったが、それを剣撃でも効果を発揮できるようにしたのである。
剣で直接相手を倒すことはできないが、剣の技術を学ぶことはできる。
いままでは丸腰で魔物と戦っていたから、ソロ活動でもだいぶ安定して勝てるようになってきた。
「それ」
あとは動けないままになっている蝙蝠にトドメを刺して終了。
麻痺毒も永遠に効いているわけではないので、ここで油断せずに攻撃することが肝要だ。
「どうだユメル。おまえから見て――いまのは何点だ」
「わからないよ。状態異常を使う剣士なんて初めてだから、どんな立ち回りが正解なのか……。なんとも言い難いところね」
「……そうか」
Sランク冒険者たる彼女がそんな評価を下すとなれば、やはり俺はイレギュラーな存在なのだろう。
補助魔法は補助魔法、剣士は剣士……。
それぞれ別物として考えられているものなので、それをミックスさせている人間はたしかに俺も見たことがない。
「アデオル。さっきのアバレドクも……たぶん、ほんとはいまの《麻痺》で対処できたよね」
「まあな。じろじろと様子を窺ってきてムカついたから、こっちから特攻しただけだ」
「はぁ……そんなことだろうと思ったよ……」
ユメルは呆れたようにため息をつくと、俺の目の前に回り込んで――切実なる瞳で訴えかけてきた。
「アデオル。たぶんいまのあなたは……私より強いと思う。レベルの足りなさを、剣の技術と補助魔法でうまく補ってるわ」
「…………」
「でも、だからこそ無茶なことはしないでほしい。アデオルになにかあったら、私……」
「ふん。だから余計なお世話だって言ってるだろ」
「あ、待って……‼」
ひとりでに歩き出した俺に対し、ユメルは腕を掴む形で同行するのだった。
前まではここから割と暗い展開が続きましたが、ここから面白くなります!
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