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謎の展開

「ふぅ……」


 王都への道すがら。


 乗合馬車の振動に揺らされながら、僕は背中を丸め込み、両目を閉じる。


 今日一日だけでいろんなことがあった。


 ……いや、ありすぎた。


 ずっと一緒に過ごしてきたベルフレドに裏切られ、一人でデビルキメラを倒して、猛毒を受けたミスリアをなんとか救助した……。


 一年分の出来事をまとめて体験したと思えるほど、濃密な一日だった。


「…………」


 さっきまでは治療のタイムリミットもあって、がむしゃらに動き続けてきたけれど。それが一段落したいま、疲労がぐっと押し寄せてくるのは必然だった。


「すや……すや……」


 同じく疲れがピークに達しているのか、ユメルも僕の隣で寝息を立てている。


 Sランク冒険者として有名な彼女と、そしてどう見ても頼りなさそうな僕。このアンバランスな二人組に視線が集まるのはご愛敬だが、翻せば、王都に着きさえすれば日常に戻ることができる。


 ユメルの住まいも王都にあるらしいので、いまはなし崩し的に同じ馬車に乗っているだけ。彼女とはもう、今後二度と関わることもないだろう。ベルフレドたちにパーティーを追い出された以上、ギルドに顔を出すのも気まずいしな。


「これから、どうしようか……」


 漠然と将来への不安が脳裏に蘇る。

 貯蓄がないわけではないので、いますぐに生活が困窮することはない。


 とはいえ、これまでずっとベルフレドたちと多くの依頼をこなしていたからな。そのパーティーを追い出された以上、明日からはなにもすることがないのだ。


「まあいいや。それはゆっくり休んだら考えよう……」


 誰に言うでもなく呟き、僕もしばらくその微睡に身を任せるのだった。




「到着ー! 王都ヴァルディオ、王都ヴァルディオ‼」


 御者のアナウンスで目が覚めた。

 慌てて馬車を出ると、輝かしい朝陽が僕たちを出迎えてくれた。


 いつのまに朝になっていたようだな。馬車で仮眠を取っていたのはせいぜい一時間くらいだから、ぐっすり眠れたわけではない。完全に昼夜逆転してしまっているが、さっさと家に帰って休息を取りたいところだ。


「それじゃ……ユメル。これでお別れだね」


「そうね。今日はたっぷり休んで、また明日……ギルドで落ち合お」


「うん、それではお疲れ……って、え?」


 僕の言った《お別れ》という言葉を、ユメルは違った意味で解釈したらしい。


 もう金輪際会わないのではなく、ひとまず今日のところは解散……といったふうに捉えられてしまったそうだな。


 いつもならそれを突っ込んでいるところだが、しかし眠気が限界だ。


 ひとまず今日のところは早く帰って、とっとと寝よう。

 そう判断した僕は、ひとまず家に帰るのだった。




  ★




「はぁ~! よく寝た……!」


 翌日の朝。

 ほぼ丸一日を休息に費やした僕は、すっかり元気を取り戻していた。


 たっぷり眠って、美味しいものを食べて、そしたらすぐに眠って……。

 我ながら贅沢な時間の使い方ではあったが、いまの僕はどこのパーティーにも所属していないからな。こんなふうに“なにもしない一日”を作ったとしても、なんの問題もない。


「それで、たしかユメルさんが待ってるんだったか……」


 昨日の別れ際、ギルドで落ち合おうと提案されたことが思い起こされる。


 いったい、こんな僕と会ってなにをしようというのか……。

 疑問が尽きることはないものの、約束(?)してしまった手前すっぽかすわけにもいかない。だから僕は身支度を整えると、朝一でギルドに向かうことにした。


 ……が、どうしたことだろう。


「ねぇ、あの人が噂の……」

「しっ、目合わせちゃダメ! なにされるかわからないわよ‼」


 心なしか、道行く人の視線が冷たい。


 僕を見てヒソヒソ話しているように感じられるのは――気のせいだろうか。


 朝の王都は職場へ向かう人で溢れ返っているはずなのに、なぜか僕の周囲だけ謎の空間ができている。歩きやすいっちゃ歩きやすいんだが、どことなく嫌な予感が湧き起こってきてしまう。


「ベルフレド様のおかげでAランクになっているというのに、よくのこのこと……」

「あんな奴がいるから、正しい実力を持っている冒険者が評価されないんだ」


 なんだ、なんだ、なんだ。

 いったいなにが起こっているんだ……⁉


 僕は知らず知らずのうちに、ギルドへ向かうスピードを上げていた。




 ところがギルドについてもなお、その不安が薄まることはなかった。


 いやむしろ、ここのほうが白い目線を向けられているような……。

 すべての冒険者たちが、僕を軽蔑しているような……。


「よぉカス。なんだよ、なにしにきた」


 ふいに話しかけてきたのは、同じくギルドに在籍する冒険者。


 この《上から目線の態度》も、今まであまり経験のないことだった。


 ベルフレドのパーティーにいったこともあってか、いままでは割と尊敬の眼差しを向けられていたんだよな。

 なのにこの手のひら返しは……いったいなんなんだ。


「なにって、人に会いに……」


「かっ! 聞いたかおまえら! 不正者・・・が誰かと待ち合わせしてるんだとよ‼ 相手もきっと、とんでもねえロクでなしなんだろうな!」


「「ぎゃはははははははははは‼」」


「ふ、不正者……⁉」


 聞き慣れない言葉に、僕は思わず目を丸くする。


 なんだ。

 いったい僕の知らないところで、どんな噂が広まっているんだ……⁉

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