再会の日
今日は特別な日。
レンがついに聖騎士になるのだ!
長かった、本当に長かった。わたしが十歳、レンが十二歳のときに別れて早くも五年。
わたしは十五歳、レンは十七歳になる。
いったいどんな感じに成長をしているのか。
そういえば、青年期のレンの顔をわたしは知らない。
暗黒騎士時代の彼は、常に頭部まできっちり覆われた板金鎧を纏って、素顔を隠していたのだ。
たしか彼は年齢を重ねるにつれて魔力過多となり、日常生活にも支障をきたしていたはず。魔力は多すぎると、人の体を蝕んでいくのだ。
常に着用していた漆黒の鎧は、魔力を調整する機能があったようだが。
あのときの鎧を、聖騎士用に塗装しなおしているとか?
いったいどんな姿で現れるのか、ドキドキする。
大聖堂で叙勲式を行うのだが、大聖女であるヒルディスが、一人一人に聖騎士の証を与えるのだ。
傍付きの一人であるわたしは、銀盆に置かれた証を持つ係である。
待機部屋に行くと、エマの姿があった。
彼女は修道女になっておらず、社交界デビューを控えた淑女でいるようだ。
きっとこのあとナイトの野郎に出会って、毒牙にかかってしまうわけである。
このままオプファー・ガーベ修道院行きになるのを、放っておけるわけがなかった。
幸いと言うべきか、この部屋にはエマしかいない。
こうなったら、ナイトの野郎のあることないこと、エマに吹き込んでやる。
それを聞いてナイトの野郎と関わり合いになりたいと思うのであれば、放っておけばいいだけの話なのだ。
「まあ、エマ様、お久しぶりですわね」
「ええ、そうね」
エマはちょくちょくヒルディスのお付きとして大聖堂にやってくるので、久しぶりと言っても半年ぶりくらいか。
美しく成長した彼女は、花盛りと言っても過言ではない。
「お元気でしたか?」
「まあまあよ」
「そうでしたか」
ここで会話が途切れてしまったが、いいタイミングだろうと思って話し始める。
「あの、今、修道女達の間で噂になっているのですが、ナイト殿下についてのお話をご存じでしょうか?」
「え、なんなの? 知らないけれど」
「そうでしたのね」
まだヒルディスとの婚約はお披露目になっていないのだろう。
エマはナイトの野郎を見たことがない、と話していた。
「実はあのお方、女性をとっかえひっかえしながら、恋を楽しんでいるようで」
「なっ――そんなの、ありえるの?」
「ええ。ナイト殿下は大聖堂に何度も通っておられて、敬虔な信者かと思いきや、実際は複数の修道女と関係を持っていたようで」
「さ、最悪だわ!」
そう、あの男は最低最悪な男なのだ。
この調子で、さらなる悪印象を植え付ける。
「一人の女性だけでは満足せず、複数の女性と夜を共にしないと、満足できない体だそうで」
「ふ、不潔だわ!」
エマの顔がみるみるうちに引きつっていった。
「さらに、一度関係を持ったら最後、満足して、ポイッとゴミみたいに捨てるようで」
「人間のクズよ!」
「ええ、そうなんです」
これくらいでいいだろう。
ただ、この先エマがナイトの野郎の地位と顔にくらり、と心が揺れ動く可能性がある。
それを防止するように、釘を刺すような話をしていく。
「この行為を聖教会は問題とし、ナイト殿下の出入りを禁じようとしたようですが、そこに救世主が現れました。ヒルディス様です」
「ヒルディス様は、何をされたの?」
「ナイト殿下をお救いになりました」
人は一度や二度、三度や四度、過ちを犯す。
けれども正しい道を示すことこそ、大聖女の役割なのではないか、と。
「それでヒルディス様はナイト殿下と婚約する形で、お救いになりました」
「さすが、ヒルディス様だわ……。私だったら、クズ野郎との結婚なんてごめんなのに」
ナイトの野郎の悪印象を根深く植え付けるのと同時に、彼がヒルディスの婚約者であることをエマに伝えた。
この二つの作用が働いたら、ナイトの野郎に心が揺れ動くことなんてないだろう。
「というわけで、ナイトの野郎……ではなく、ナイト殿下にはお気を付けくださいね」
「もちろんよ!」
信じてくれたようで、ホッと胸をなで下ろしたのだった。
「それにしても、ヒルディス様はクズ野郎との結婚をお決めになったなんて、心が苦しいわ」
「ヒルディス様くらいのお方と結婚すれば、ナイト殿下も心を入れ替えるかもしれません」
「それもそうよね」
「ええ!」
なんて言ったものの、人間の根本はそうは変わらないだろう。
わたしも脳内にお花畑があった、王族との結婚を夢みる女だったが、火刑の炎で我に返ったのだ。
こういうのは一回痛い目に遭って死なないと治らないのだろう。
エマは真面目なところと、ヒルディスを信仰する心があるので、きっと大丈夫。
四度目の人生のような過ちは犯さないだろう。
「っていうかあんた、まだその眼鏡をかけているのね」
「ええ! エマ様が贈ってくださった品ですもの!」
五年前は顔の半分以上を占めていた眼鏡も、今は三分の一を覆うばかりとなっている。
けれども顔を隠す効果はあるようで、好意を持って近づく者や、好奇の視線を送られることはない。
今となっては手放せないアイテムとなっている。
「これからも大事にしますので」
「まあ、気に入っているんだったらいいんだけれど」
そろそろ叙勲式が始まるようで、修道女がわたし達を迎えにやってきた。
廊下に出ると、美しい聖衣に身を包んだヒルディスの姿があった。
エマは瞳を輝かせながら、ヒルディスの美しさを絶賛する。
「まあ、ヒルディス様! なんておきれいなのでしょう!」
「エマ、ありがとうございます」
ヒルディスは柔和な笑みを浮かべながら言葉を返す。
この五年で、ヒルディスも変わった。
クールな様子から、柔らかな印象がある理想的な大聖女に変化を遂げたのだ。
神のような信仰を受ける中で、このような人格を作り出したのだろうか。
その辺の事情はわからないものの、今のほうがずっといいと思った。
修道女の先導で、叙勲式を行う主聖堂へ向かう。
わたしとエマが聖騎士の証が置かれた銀盆を持ち、他の取り巻き達はヒルディスのベールを摘まんで歩いていた。
主聖堂には、すでに大勢の聖騎士達の姿があった。
前列に座っているのが、今回新たに叙勲される聖騎士だろう。
こんなに多くでは、誰がレンだかわからない。
なんて考えていたら、先頭に銀色の美しい髪が揺れているのを発見する。
五年も会っていない上に、後ろ姿なのに、それがレンだとわかったのだ。板金鎧姿ではなく、他の聖騎士達と同じようにサーコートを纏っていた。
駆けよって抱きつきたいのをぐっと我慢し、わたしは修道女としての役割をこなす。
聖騎士達より前方にやってきたものの、ステンドグラスからの光が聖騎士達に降り注ぎ、顔はよく見えない。
枢機卿ゲラルト・ツォーンが宣誓文を読み上げたあと、大聖女であるヒルディスが聖騎士達に言葉をかける。
「あなた方は本日より神にお仕えする身です。正しい道を歩み、正しい剣を振るってくださいませ」
ここからわたしやエマの出番である。
聖騎士一人一人に、ヒルディスが証をつけていくのだ。
「第一位の席次で聖騎士となる、ケレン・アイスコレッタ卿!」
「はっ!」
どうやらレンは優秀な成績で聖騎士となったらしい。
誇らしい気持ちで彼を迎える。
祭壇の前にやってきた彼を見て驚く。
銀色の美しい髪に、アメシストのような澄んだ瞳、整った目鼻立ちにすらりと長い手足――見たこともないくらいの美しい青年の姿だったのだ。
最初はエマが証を差しださないといけないのに、彼女はぼーっとレンに見とれていた。
このままではいけないと思い、エマの脇腹を肘で突くと、ハッと我に返ったようだ。
すぐに聖騎士の証はヒルディスの手に渡り、ケレンの胸に飾られた。
目が合いそうになったので、慌てて逸らす。
じっくり見ていたかったが、じろじろ見るのも失礼だろう。
無事、叙勲式を終えることができて、ホッと胸をなで下ろす。
それにしても、ケレンがあんなにかっこよくなっていたなんて。
子ども時代がかわいかったので、美青年に成長しているだろうな、とは想像できていたのだが。
このあと夜に、レンと会う約束をしている。
何を話そうか、ドキドキしてしまった。




