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婚約破棄された令嬢ですが、冷徹公爵様に拾われました。─えっ、溺愛ってこういう意味ですか?  作者: 雨野しずく
第三部:王宮の罪と罰――公爵夫人に牙を剥いた者たちの結末
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最終話:愛と誓いの戴冠式

それは、春の終わりを告げる風が吹く朝のことだった。


王宮の大広間には、歴代の重臣と王族、そして各地から集まった貴族たちが整列していた。

舞踏会とは違う、厳粛な空気。

それは――“戴冠式”。


けれど今日、冠を授かるのは王ではない。

一人の女性。

すなわち――私、アリシア・アルディネだった。


(信じられない……)


あの日、泣きながら婚約破棄を受け入れた少女が、今は公爵夫人として王宮の中心に立っている。


「――アリシア・アルディネ。貴女のこれまでの功績と、その高潔なる品位を讃え」


王妃陛下が、声高らかに宣言する。


「王命により、ここに“王室相談役”、および“王都統治補佐官”の任を授けます」


「貴女は、王都と地方を結ぶ橋となり、新時代の象徴として、その名を記していくことでしょう」


広間がどよめく。


これは単なる“栄誉”ではない。

王妃の名代として、実質的に王都の運営に関わる要職。

公爵夫人でありながら、王政に名を連ねる女性は、史上初だった。


王妃がそっと、金の冠飾りを手に取り、私の額に触れる。


「これは、あなたが貫いた“声”への敬意。これからも、人々の導となってください」


「……はい。喜んで、お受けいたします」


その瞬間、会場中に拍手が広がる。


クレイグ様が、静かに私のもとへ歩み寄ってきた。


「……おめでとう、アリシア」


「ありがとう、クレイグ様。……いえ、あなたが、いてくれたから」


「私が君を導いたのではない。君が私を変えたんだ」


彼は、私の手を取る。


そして、静かにひざをついた。


「アリシア・アルディネ。改めて――私は、君と人生を共にしたい。名声も、責任もすべて分かち合っていこう」


「……はい。私も、あなたとなら、どこまでも行ける気がします」


その場に、花のような祝福の空気が咲いた。


まるでこの戴冠式は――“二人の結婚式”のようだった。


夕刻。


公爵邸のバルコニーにて。

私は、王都の光を見下ろしながら、そっと深呼吸する。


「……いろんなことがありましたね」


「これが、一区切りだと思うか?」


「いいえ。これは始まりです。私たちの、真の意味での“共同統治”の始まり」


「ならば、次の一歩も君と共に」


「ええ。堂々と、手を取り合って」


クレイグ様と私は、ゆっくりと指を重ねた。


風が、二人の髪をなびかせる。


それは、かつて“契約”から始まった関係。

けれど今――そのどこにも、仮面も形式もない。


ただ、愛と誓いに満ちた“本物の絆”だけが、そこにあった。


《第三部 完》

ここまで『王宮の罪と罰――侯爵夫人に牙を剥いた者たちの結末』をお読みいただき、本当にありがとうございました。


この物語は、“契約結婚”という形式の中で始まった二人が、互いの心に触れ、真実の絆を築いていく過程を描いたものです。

アリシアが過去の傷を乗り越え、自らの声で未来を切り開いていく姿を、少しでも読者の皆さまに届けばと願いながら執筆しました。


公爵夫人としての立場、そして一人の女性としての誇り。

たとえ陰口を叩かれ、理不尽に傷つけられたとしても、正しさと愛を信じ続けたアリシアの歩みは、決して一人では成し得なかったものです。


彼女を支えた人々。

時に厳しく、時に温かく見守ってきたクレイグ。

失敗を重ねながらも向き合おうとした者たち。

そして何より、どんなときも信じてくださった“あなた”の存在が、この物語を最後まで導いてくれました。


物語は完結しましたが、アリシアたちの人生はきっとこの先も続いていくでしょう。

晴れの日も、曇りの日も。

それでも、彼女は今日も胸を張って、堂々と生きていくはずです。


最後まで読んでくださったすべての方に、心からの感謝を込めて。


――ありがとうございました。


続編も気になる、という読者の方がいらっしゃれば


「お気に入り」や「感想」を残していただければ嬉しいです!

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