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婚約破棄された令嬢ですが、冷徹公爵様に拾われました。─えっ、溺愛ってこういう意味ですか?  作者: 雨野しずく
第三部:王宮の罪と罰――公爵夫人に牙を剥いた者たちの結末
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第9話:貴族連合、動く

王宮の空は、いつもより低く感じられた。


朝靄の残る中、私は書簡の束を抱え、執務室へと急いでいた。


その大半は――反発の声だった。


「公爵夫人の改革案には、我が家としては断固反対である」

「貴族としての伝統と矜持を踏みにじる内容には到底賛同しかねる」

「これ以上の強行があれば、貴族議会として抗議を提出する用意がある」


(予想していた……でも、ここまで早く団結するとは)


書簡の差出人たち――それは、いずれも旧名門家の当主。

しかも、貴族議会の実権を握る面々ばかりだった。


私は書簡をそっと机に置き、深く息をついた。


すると、執務室の扉が静かに開く。


「……情勢は悪化しているな」


クレイグ様だった。


「貴族連合が、動き出しました。名目は“伝統保全”ですが、実態は――私の排除です」


「君を排除するためなら、王妃すら巻き込むだろう。油断はするな」


「はい……」


ほんの少し、弱音が漏れそうになる。


だが、今さら退く気などなかった。


その時、控えの侍女が慌ただしく飛び込んでくる。


「公爵様、公爵夫人様! 大変です――王都中央商会が、本日より“貴族改革反対”を掲げて活動を開始したと……!」


「……商会まで連動したか」


クレイグ様が静かに呟いた。


王都中央商会――商業貴族の集まりであり、王都経済を握る組織。

彼らが名門派と連携を取れば、王宮の流通すら止めかねない。


「これは“政治の戦”ではありません。生活そのものを、人質に取るつもりだわ」


私は拳を握りしめた。


「王妃陛下に、すぐ報告を」


「いや、陛下は動かない」


クレイグ様が制した。


「今は“王妃が改革を扇動している”と思わせておくべきだ。敵が本性を現すまで、君が矢面に立て」


「……それは、私に“囮”をやれという意味ですか?」


「いいや、“盾”だ」


クレイグ様の目が、真っ直ぐに私を見据えた。


「王宮にとって、君は希望でもあるが――最も狙われる的でもある。だが、逃げれば民は失望し、王妃の信頼も揺らぐ」


「……分かっています」


「君には、その覚悟があると――信じている」


私は一つだけ頷いた。


その日、私は王宮広報室を通じて、改革案への“市民向け説明会”の開催を発表した。


貴族ではなく、民へ向けて直接、意義を語る。


王都広場にて、三日後。


民の前で、私は“言葉”で、未来を示すと決めた。


夜。


私室にて、クレイグ様と紅茶を囲んでいたときだった。


「……本当にやるつもりか」


「はい。背中を押してくれたのは、公爵様ですから」


「……そうか」


彼は少しだけ目を伏せ、静かに紅茶を口にした。


「君は、あの“契約解除の覚書”を手にした日よりも――今のほうがずっと強いな」


私は微笑んで答えた。


「あなたの隣で生きることを選んだからです。

 もう、“形式”ではなく、“真実”を語れる私でいたいんです」


「ならば、必ず勝て」


その一言が、何よりも温かく、そして強い支えだった。

まだ執筆が終わっていないので、後は明日以降更新します。

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