第4話:裁きの朝と、新たな誓い
王宮での断罪から一夜明けた朝。
公爵邸の屋敷は、異様なまでの静けさに包まれていた。
だがその静けさは、嵐の後の穏やかな静寂――それが終わったのだと、ようやく実感できる時でもあった。
「……おはようございます、公爵様、公爵夫人様」
朝食の席に現れた執事長は、恭しく一礼しながら、一枚の紙を差し出した。
「王都三大新聞、今朝の一面でございます。“王妃の断罪”、そして“公爵夫人の毅然たる証言”。いずれも、非常に好意的な論調です」
「……大ごとになってますね」
私はその紙面をそっと受け取り、目を通す。
『第二王子、称号保留と王位継承権停止』『平民出の元女官、懲役および労働刑――虚偽の罪が明らかに』
見出しには、堂々とした文字が並び、その下に、仮面舞踏会での事件のあらましと、王妃陛下の裁定内容が詳細に記されていた。
「“冷徹公爵の隣に立つに相応しい女”――だそうですわ、私」
「当然だ」
隣に座るクレイグ様は、パンにバターを塗りながら、平然と告げる。
「君がこれまで耐え、戦ってきた結果だ。“正しさ”は、時に痛みを伴うが、必ず報われる」
「……ありがとう、ございます」
私は、思わずナイフとフォークを置き、彼の顔をじっと見つめた。
「この立場にいることは、まだ少し怖いです。でも……今は、それ以上に誇りに思えるんです。私が選ばれた“意味”を、ようやく理解できた気がして」
「なら、もう迷うな」
クレイグ様は、そっと私の手を握りしめる。
「君は公爵家の“誇り”だ。名ばかりではない、“力”がある。だからこれからは……」
彼の瞳が、強く私を見据えた。
「私の代わりに、“社交界”をまとめろ」
「え……?」
「次代の社交界は、君のような者に導かれるべきだ。偽りを許さず、誠実さで周囲を照らす者に」
「……それは、命令ですか?」
「願いだ。そして、信頼の証明でもある」
私はその手を、ぎゅっと握り返した。
「……わかりました。アリシア・アルディネ、公爵家の名に恥じぬよう、誠実に務めを果たします」
二人の手のひらが、しっかりと重なる。
それは――
ただの契約妻ではなく、ただの“愛する者”でもない、
“共に未来を築く”パートナーとしての誓いだった。




