第3話:断罪の勅命
王宮・第一審問室。
高い天窓から差し込む光が、荘厳な静けさを照らしている。正面には、王妃陛下。左右には審問官と法務官、そして騎士団長、学術局長、王族監察長が並ぶ。
その場に私は、公爵夫人として出席していた。隣には、クレイグ様――冷徹公爵として知られる夫が、毅然とした姿で座している。
一方、中央の被審台には二人の姿。
リサ・アードレイン。そして、第二王子・エドワルド殿下。
「証拠および証言により、リサ・アードレインの罪状は明白となりました」
重々しい声で、法務官が読み上げる。
「一、公爵夫人に対する虚偽証言と誹謗中傷。
一、王宮職権を悪用した情報操作。
一、王宮舞踏会を利用した王室威信の毀損未遂。
これらの行為は、王都法第九条、ならびに貴族名誉保持法に基づき、厳罰に処す」
リサは椅子の上で震えながらも、なお悔しそうな表情を崩さない。
「……私は、ただ……愛されたいと思っただけで……」
「そのために、いくつの嘘を塗り重ねた?」
静かに言い放ったのは、王妃陛下だった。
「公爵夫人を貶め、王宮の信用を落とし、王子を盾に私欲を貫こうとした。――これが、“愛”の形ですか!」
リサは、言葉を失った。
「よって、リサ・アードレインには『王宮官職の剝奪』『貴族社会への立ち入り禁止』を命じ、さらに虚偽証言の罪により、三年の懲役と強制労働を科すことにします」
場内に、緊張が走る。
平民から貴族としての未来を絶たれ、なおかつ平民としての自由さえも奪われる――それが、王宮の正式な“断罪”だった。
騎士がリサの腕を取り、静かに連行していく。
その背中を、私はただ冷静に見つめていた。
(これが、過去の報い)
だが、これで終わりではない。
「次に、第二王子・エドワルドについて」
王妃陛下が、ゆっくりと立ち上がる。
「国の王子としての自覚を持たず、私情を優先し、公爵家に対し無礼を働いた件。加えて、公的権力を背景に他者を庇おうとした行為は、王族として許されません」
エドワルド第二王子は、唇を噛み締め、下を向いた。
「よって、本日をもって『第二王子の称号を保留』とし、王位継承権を一時停止とする」
「また、己の責任と向き合うため、来月より王都北方騎士団への“研修配属”を命ず。身分を隠し、兵士として一から鍛錬を積みなさい」
「そこでは、第二王子としての甘えは通用しません。王族である以前に、“人としての基礎”を学びなさい」
「……はい。……申し訳、ありません……」
震える声で、エドワルドは頭を垂れた。
静寂のなか、こうして審問は終わりを告げた。
私は、静かにクレイグ様の手を取った。
「……ありがとうございます。公爵様」
「礼を言う相手が違う。君が、逃げずに立ったからこそだ」
「それでも……この場に並ぶ覚悟をくれたのは、あなたです」
クレイグは少しだけ視線を落とし、ふっと息をついた。
「……侯爵夫人。君は、今や“王都の盾”だ。堂々としていろ」
私は、笑みを浮かべて頷いた。
過去に囚われない自分を、この瞬間、ようやく誇ることができた。
――こうして、私たちの“正義”はひとつ、形となったのだった。




