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婚約破棄された令嬢ですが、冷徹公爵様に拾われました。─えっ、溺愛ってこういう意味ですか?  作者: 雨野しずく
第三部:王宮の罪と罰――公爵夫人に牙を剥いた者たちの結末
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第2話:審問の間

王宮の東翼、玉座の間とは別の、格式をもって静寂が支配する空間――“審問の間”。


ここでは、貴族たちの不祥事や、王族に関わる内密な問題が取り扱われる。

招かれる者は少なく、そこに立つこと自体が“名誉”か“断罪”か、いずれかを意味する場所だ。


「公爵夫人アリシア・ローゼンベルク。ご入室を」


案内の声に、私は扉をくぐった。

堂々と、背筋を伸ばして。


奥の玉座には、王妃陛下が静かに座しておられた。


その隣には、王室法務官。

そして、椅子に控えるのは、王宮女官長、騎士団副長、学術局長――

全員が、この件に深く関わる立場の重鎮たち。


「お呼びに応じ、参上いたしました」


私はひざをついて丁重に頭を下げ、すぐに立ち上がる。

公爵夫人の名に恥じぬ所作を、丁寧に。


王妃陛下は、ゆっくりと視線を上げた。


「……久しいわね、アリシア。よく参られました」


「光栄に存じます」


王妃の目は、微笑んでいたが――奥に潜む感情は、明らかに怒りだった。


「リサ・アードレイン。王宮付き女官の立場を利用し、かつて公爵夫人へ冤罪の証言を行った疑い」


「エドワルド第二王子殿下。貴族社会の秩序を無視した交際、王命を盾にした圧力、舞踏会での不敬――この二名について、証言を求めます」


私は一礼し、迷いなく答えた。


「はい。公爵家として、個人として、私は彼らの行動を見過ごすことはできません」


空気が張り詰める。


私は一歩進み出て、しっかりと視線を前に向けた。


「かつて私は、婚約破棄と共に、王宮から静かに退くよう指示されました。その際、内部調査では“私の不品行”が原因と記録されておりましたが、事実は異なります」


「証拠として、リサ・アードレインによる“証言の書”と、当時の通信記録――公爵家の調査により収集したこれらを、提出いたします」


王妃の眉が、わずかに動いた。


その瞬間、隣の法務官が前に出て、証拠品を受け取る。


「公爵家が独自に調査を?」


「はい。夫であるクレイグ=シュトラウス公爵の命により、第三者機関を通じて調査いたしました。妄言は、もう通りません」


「……そう。では、内容を確認のうえ、王命による正式な聴取と処分の手配を行いましょう」


王妃の言葉に、室内の空気が大きく動いた。


そのとき――


「――ちょっと、お待ちくださいませ!!」


唐突に割って入る女の声。


開いた扉の奥から、身なりを整えた若い女が駆け込んできた。


「リサ・アードレインと申します! わ、私はそんなつもりじゃ……ただ、ちょっとした嫉妬で……!」


その背後には、青ざめた第二王子エドワルドの姿もある。


「公爵夫人の名誉を傷つけるつもりなど……」


だが――その言葉を、冷たい声がさえぎった。


「その言葉を、“宮廷舞踏会の壇上”で口にすべきだったな」


クレイグ様。


いつの間にか背後の控えの間から現れたその姿に、空気が一変する。


冷徹な双眸が、リサとエドワルド第二王子を斬るように見据える。


「公爵家への侮辱、王宮秩序の破壊、そして――“貴族社会における礼節の否定”。その責は、重い」


「公爵として、我が妻に対する一切の侮辱を、正式に追及する。……それが、俺たちの選択だ」


リサは膝から崩れ落ち、エドワルド第二王子は顔を引きつらせて何も言えなかった。


王妃は深く息を吐き、短く告げた。


「……審問は、これにて終了とします。追って、王命により正式な裁定を下しますことする」


「リサ・アードレインには、虚偽の証言および職権乱用の疑いにより拘束命令を。

エドワルド第二王子には、一時的に王位継承権の“停止”と、行動制限を命じます」


審問の間が、静かに震えた。


誰もが、これがただの“おふざけ”では済まない、王宮の決断であることを理解したからだ。


私はクレイグ様の隣に並び、小さく囁いた。


「……ありがとうございます。あなたがいてくれるから、私は怖くありませんでした」


「当然だ。君を傷つける者すべてが敵だ。……それだけだ」


私は、わずかに微笑む。


正義は、今、動き始めたばかりだ。


そして――これは、ほんの序章にすぎない。

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