第1話:白日のもとに
ご感想にてリサと第二王子へのざまぁが足りないというお話をいただきましたので、本編と矛盾が起こらないお話を第三部として執筆させていただきました。お楽しみいただければ幸いです。
ここからあらすじになります。
これは、“真実の愛”に辿り着いたその後の物語。
侯爵夫人として新たな人生を歩み始めたアリシアと、“冷徹侯爵”クレイグ。
だが、かつての陰が完全に消えたわけではなかった。
あの舞踏会で再び顔を見せた女官リサと第二王子――
ふたりが隠していた“本性”が、今、王宮の秩序を揺るがし始める。
これは、愛を選んだふたりが「過去の清算」に立ち向かう、
もうひとつの“結末”の物語――。
春の朝は、静かに屋敷を包んでいた。
光の差す中庭の噴水には、冷たい風がわずかに水面を揺らしている。
その中で、私は一通の封書を手にしていた。
王妃陛下からの親書――
(ついに、動かれるのね)
封を切る前から、心はもう決まっていた。
あの舞踏会の夜。リサと第二王子エドワルドが私に放った言葉。
それはただの侮辱ではない。公爵家と、貴族社会そのものへの挑戦だった。
足音が、後ろから近づく。
「……王宮からか?」
いつもの低い声。
振り返れば、冷徹公爵――クレイグ様が、朝の光のなかに立っていた。
「はい。王妃陛下直々の手紙です」
私は封を切り、目を通す。
“公爵夫人アリシア・ローゼンベルク殿
先日の舞踏会における発言と態度に関し、王宮として調査を進めてまいりました。
貴女の立場より、公式の意見を伺いたく存じます。非公式ながら、記録対象として処理される予定です。”
読み終えると、私は静かに手紙を閉じた。
「……陛下は、リサと殿下の言動を見過ごすつもりはなかったようです」
「当然だ。君にあのような態度を取った時点で、すでに“王族の体面”に泥を塗っている」
クレイグ様の声は冷ややかで、鋭い。
けれど、それは私を守るための刃。
「でも、告発するのは私の役目です。公爵家の名にかけて――“秩序を乱す者”には、それ相応の報いを」
「……強くなったな」
「あなたが隣にいてくれるから」
クレイグ様はわずかに微笑んで、私の手から手紙を取り上げた。
「王妃陛下に会いに行こう。君の声で、堂々と伝えるんだ。“私は公爵夫人として、あの女とあの王子を断罪する覚悟がある”と」
私は、深く頷いた。
それが“真実の妻”として、この場所に立つと決めた私の責任なのだから。
「……わかりました。冷徹公爵様。あなたの妻として、私も冷たく、美しく、正しく――行動します」
彼の眼差しが、まるで誇らしげに細められる。
「その姿が、誰よりも恐ろしく、そして美しい。さあ、王宮へ行こう。舞台は、整っている」
その一言で、風が変わったような気がした。
もう私は、あの頃の私ではない。
令嬢として追放され、婚約を破棄され、“形式の妻”になった――
そんな過去は、もうとうに終わっている。
今の私は、堂々たる公爵夫人。
冷徹公爵の隣に立つ、誇りある女。
王宮で待つ“決着”に向けて、私は歩き出す。
この手で、正義を下すために。




