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婚約破棄された令嬢ですが、冷徹公爵様に拾われました。─えっ、溺愛ってこういう意味ですか?  作者: 雨野しずく
第二部 婚約破棄された令嬢ですが、冷徹公爵様に正式に娶られました。─えっ、今度は奥様業もスパルタですか!?
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第7話:偽りの噂と、二人で立つ舞台

「――公爵夫人が仮面舞踏会で別の男と密会していたらしい」


「しかも、その相手は身分不明の青年とか」


「やっぱり、“平民女官を虐めた”って話、本当だったんじゃないの?」


朝の社交サロンで、貴婦人たちの会話が飛び交っていた。


それは、根も葉もない――しかし耳目を集める、スキャンダラスな“噂”。




「……またリサの仕業ですか?」


「違う。これは王都南部の三流ゴシップ紙の記者が“匿名の情報提供”を元に書き上げたものらしい」


クレイグは淡々と告げた。


「証拠は?」


「ない。だが、“真実か否か”は奴らにとって問題ではない。

 “面白ければいい”、それが民衆だ」


私は静かに拳を握りしめた。


せっかく前を向いて歩き出せたのに――また、過去の私が引きずられている。


だけどもう、逃げたりはしない。


「公爵様、お願いがあります」


「……何だ?」


「公式の場で、この噂に“私自身の言葉”で向き合わせてください」


「……!」


彼は少しだけ驚いたように目を見開いたが、すぐに静かに頷いた。


「分かった。だが俺も、共に立つ」



それから三日後――


場所は、王宮主催の慈善舞踏会。

王族や貴族に加え、上流市民も集まる“公的かつ最も注目を浴びる”社交の舞台。


人々がざわめく中、私は控え室でドレスの裾を整えていた。

クレイグは私の前に立ち、静かに言う。


「……本当に、やるつもりか?」


「はい。私が公爵夫人として立つなら、自分の名誉くらい、自分で守りたい」


「ふ……愚直な女だ」


「そういうところも、嫌いじゃないでしょう?」


彼は少し口元を緩めて、目を細めた。


「……いや。好きだ」


「……!」


一瞬、心臓が跳ね上がる。


けれど、もう動揺は見せない。


今は、“私の言葉”で、過去を乗り越える瞬間だから。




会場に響く、司会の声。


「シュトラウス公爵夫妻によるご挨拶を賜ります」


私たちが歩み出ると、場内の視線が一斉に集まった。


ざわざわとした空気。噂の真偽を見極めようとする視線。

でも、私は真っ直ぐ前を見て、そして言った。


「――一部の報道に関して、皆様にお伝えしたいことがございます」


声が、空気を切るように響いた。


「仮面舞踏会の夜。私が踊った相手は、紛れもなくこの方――シュトラウス公爵、私の夫です」


ざわめきが、一瞬で消える。


「また、私が“平民女官”を陥れたという過去の噂も、根拠のない作り話です。

 証拠は既に公的機関に提出済みであり、王室にも報告が上がっています」


私は深く一礼した。


「……私は、公爵様に助けられました。そして、自分の足で歩きたいと望んで、ここにいます」


その瞬間、クレイグが一歩前に出た。


「この女は、私の誇りだ。誰が何を言おうと、私はこの女を選び、隣に立たせる」


「……!」


場内が静まり返る。

誰もが、息をのんで二人を見つめていた。


しばしの沈黙――そして、どこからともなく拍手が起こった。


「まあ……あの冷酷公爵が、奥方に言葉を……!」


「素敵……なんて、強い方なの」


「まるで、物語の主人公みたい……!」


祝福の拍手と歓声が、次第に会場全体に広がっていく。




控え室に戻ったあと、私は深く息をついた。


「……終わりましたね」


「お前のほうが、“貴族”だったな」


「公爵様が背中を押してくれたおかげです」


クレイグは黙って、私の手を取った。


「もう誰にも、君を傷つけさせない」


その言葉が、胸に深く沁みた。


 


──偽りの噂に晒されても、私はもう、独りじゃない。


二人で立った舞台の上で、ようやく見つけた“居場所”を――

これからも、守っていこうと誓った夜だった。



この後はまだ書いていないので、もう少しお待ちください。

なるべく毎日更新できるようにします。

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