第九十六話 交渉のような……
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“そうしてくれると私も嬉しい!”
ユァーリカ達の頭に突然、人の声が響く。声の主を知っているユァーリカとルツカだけだ。
「ロビンだな。これも勇者の固有技能か?」
“その声はユァーリカか。その通り! 優れた洞察力は予想外の一手を生む。やはり、キミは私の物語の主人公に相応しいな!”
「私達の居場所も筒抜けってわけ? あなたは変人だけど、覗き魔じゃないと思っていたのに」
ルツカは皆に黙るように合図しながらそう口にした。どんな固有技能かは分からないが、まずはロビンがどこまでこちらのことを知り得ているのかが問題だ。
“ルツカもいるのか。まあ、そうか。私はキミのヒロインとしての魅力も評価している。嫌われたくないから白状するが、今使っている固有技能は正真正銘会話をするためだけの力だ。だから、キミ達の居場所や周りに誰がいるかは分からない”
この言葉を聞いて、その場にいたエル・クロエ・スコット・ティーゼは互いに顔を見合わせ一つ頷いた。彼らは会話には参加しない方がいい。
“一応、説明しておくと、この固有技能の名は《異心伝信》。会ったことがある人のいる場所に向けて声を送る力だ。自分の声を一方的に送れるだけで、会話を強制したりすることは出来ないし、相手の居場所も分からない”
「それだけ? 固有技能なのに地味な力なのね」
ルツカがそう言ったのは、それ以外にも出来ることがあるのではないかと疑ったからだ。だが、ロビンは声色を変えずに話を続けた。
“通信手段が限られているこの世界での価値は計り知れないぞ。まあ、いくらキミでも情報を使った戦というものを想像するのは難しいか”
「つうしんきき? じょうほうを使った戦?」
聞き慣れない言葉にルツカが戸惑う。だが、異世界人であるクロエとザンデの知識を受け継いだユァーリカには理解可能だ。
「話は分かった。で、何を俺に伝えたいんだ?」
“ヨルクの身柄を受け取る意志があるかを教えて貰いたい”
「意味が分からない」
ユァーリカにとって、ロビンはルツカをさらい、ヨルクを連れ去った張本人で、紛れもない敵だ。ロビンもユァーリカがそう思うだろうことは予測済みなので、まるでユァーリカを宥めるような口調になった。
“まあ、聞いてくれ。この間はルツカをキミから離そうとして悪かった。だが、そもそも私がルツカをさらった訳では無いし、ヨルクにしてもそうだ。”
ロビンに言わせれば、勇者が皆、自分の言うことを聞いているわけではない。従って、ロビンがミリオンメサイアのまとめ役だからと言って、勇者の行動が全て自分の差し金だと思って貰っては困ると言いたいのだ。
“私の行動の不備は詫びる。そして、出来るならその穴埋めや修正はしたい。ヨルクの身柄を引き渡すことでそれが出来ないか、ということだ”
「よく分からないけど、何であなたはそんな回りくどい言い方をするの? 一言、ヨルクを返すと言えばいいじゃない」
ルツカの言葉はユァーリカの思いでもあった。しかし、それを聞いたロビンは困ったように短く唸った。
“ヨルクはキミ達にとってまだ仲間なのかが分からないからだ。実はこちらに来てからというものの、だんまりのままでね”
「つまり、俺達が返せと言えば返すということか」
“その通りだ。つけ加えるなら、出来れば引き取って欲しい。彼は確かにスパイだったが、私との関わりではスパイというより折衝役であり、キミ達に不利なことをしたわけではないからな”
「じゃあ、何で二人でコソコソしていたのよ」
“信頼して貰えないからだ。オレがキミ達の前へ出て、協力したいなどといって信じては貰えないだろう?”
そう言われるとユァーリカもルツカもぐうの音も出ない。だが、今現在においても信頼できない相手にそう言われたところで、だからどうしたという気がしないでもないのだが。
そうした二人の思惑を知ってか知らずか、ロビンは話を続ける。
“別にキミ達を責める訳じゃないが、オレが勇者である以上、段取りがないと会話さえまともに出来ないと思った。ヨルクにはそこを協力して貰っていたのだ”
「ヨルクは何であなたを信じたの?」
“それは彼のプライバシーに関わることだから、彼自身に聞いてくれ”
「ぷらいばしー?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるルツカにロビンは首を捻りながら言葉を足した。
“あー、つまり私が勝手に言うわけにはいかない大切なもの……約束秘密とかそう言うものに関わることだから、私が勝手に言うわけにはいかないと言うことだ”
「……まあ、そう言うことなら」
ルツカは無精無精頷く。彼女自身、誰にも話せないことは色々ある。具体的には、ユァーリカとのあれやこれやだが。
“まあ、そう言うわけだがどうだろう。ヨルクをそちらに引き渡してもいいもののだろうか?”
「少し時間が欲しいわ。そうね、明日の同じ時間にまた連絡して」
“なるほど。確かに即答は出来ないよな。ユァーリカもそれでいいか?”
「構わない」
“分かった。では、そうしよう”
それを最後にロビンの声が消える。そして、しばらくするとユァーリカが取り込んだ固有技能を使って幾つかの壁を作り出し、彼らのいる部屋を覆い始めた。
「ハンス、これでロビンの《異心伝信》は防げるの?」
そう言いながら、ルツカは周りを見まわした。彼らのいた室内は虹色の盾、銀色のマントなど様々な力で囲われている。それらにどんな力が秘められているのかは、ユァーリカ以外の誰にも分からないが。
「正直分からない。だけど、展開している壁の中には普通の攻撃だけじゃなくて……その、精神への攻撃を防ぐものもあるんだ」
「せいしんへの……攻撃?」
先ほどから乱発されている耳慣れない言葉に流石のルツカも理解を諦めつつある。だが、ユァーリカにせよ、ザンデから引き継いだ知識で何となく理解しているに過ぎないので、それ以上の説明は出来なかった。
「分かってる。確かにロビンの《異心伝信》はテレパシーとか洗脳に近いものである可能性が高いからな。次回の連絡前にも同じ壁を張ってみて、本当に防げるかどうか確かめてみよう」
「よく分からないけど、その“せいしんへのこうげき”とかはクロエさんや勇者のいる世界では当たり前のことなのかしら? 勇者は凄い世界から来ているのね」
そろそろオーバヒートしてきたルツカに代わり、ティーゼがそう言って話を纏める。クロエもその意図が分かったので、詳しい説明はせず、“当たり前ってほどじゃないが”と言うに留めた。
「とりあえず、ロビンの盗聴はユァーリカのおかげで防げる、と。で、ヨルクの身柄は受け取るってことで良いんだよな?」
「勿論。だけど、罠かもしれないから気をつけないと」
スコットの質問にユァーリカは即答したものの、苦い顔をする。
「分かってる。確かに警戒は必要だが、罠というよりは丸め込もうとしている感じだな」
「丸め込む……クソっ! 俺達を利用しようってか。帝国の奴らはいつもこうだ!」
クロエの言葉を聞いて苛立つスコットをティーゼが宥める。
「今更だけど、ロビンの目的は?」
それまで黙っていたエルがぼそりと呟く。その言葉にハッとしたのはユァーリカだ。
「確かに……俺は今までロビンも勇者、つまり帝国側だから俺と戦ってるんだと思っていたけど、冷静に考えたら何か変だな」
「私もロビンは帝国の手先だと思ってた。だけど……」
「帝国がユァーリカを敵視しているにも関わらず、ロビンがユァーリカに擦り寄ってくるのは確かにおかしいわね」
エルが言語化出来ずに口ごもったことをティーゼが引き取り、言語化すると、エルは腕組みをしながら深く頷いた。本人は大真面目だが、ちょっと外見には似つかわしくない様子だ。
「確か、ロビンは物語がどうとか言っていたような。後、ハンスと私は帝都で会った方がどうとかも言ってたけ」
「物語……ってどう言うことだ?」
スコットは意味が分からず、ユァーリカとルツカにそう尋ねるが、二人は揃って首を捻った。
「クロエさんはどう思います?」
ルツカがクロエに話を振ったのは、彼女がロビンの使う言葉に一番詳しいからだ。
「ロビンは転生前は創作系だったのかもしれないな……つまり、武闘派ではないと言うことだが」
「確かに思い返してみれば、近接戦闘よりも固有技能だのみの中~遠距離での戦いが中心だったような」
ユァーリカは今までのロビンとの戦いを振り返ってそう呟いた。これはこれで貴重な情報だが、ロビンの目的を探る役には立たない。
「とにかく、明日それも含めて聞いてみるしかない……か。クソっ! 何か奴の思い通りという気がして仕方ないな!」
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