第九十四話 本音
ここからもパワー全開で行きます!
「何も口にしないと聞いたのだが?」
ドアを開けるなり、ロビンは中にいた虜囚にそう話しかける。だが、室内に座り込んでいた男はロビンに視線を向けるどころか、反応さえ返さなかった。
「別に毒が盛ってあるわけじゃない。殺す気ならさっさとやっている。そう思うだろ、ヨルク」
「………」
ロビンに囚われている男、ヨルクは顔を上げた。
「食べるも食べないもキミの自由……と言いたいところだが、キミが食べないとエメリーが辛そうな顔をする。多分、キミの世話をするのを自分の果たすべき役割だと思い込んでいるんだ。エメリーに頼んだのはオレだということもあってな、実は心苦しい」
「……」
ヨルクは相変わらずだんまりだ。だが、ロビンは嫌な顔一つ見せずに話し続けた。
「もしかして、私がキミとの約束を反故にするとでも思ってるのか? ことが終われば必ずキミの弟は生き返らせるとも」
この言葉は流石に予想外だったらしく、ヨルクは思わずロビンに詰め寄る。が、すぐに座り直した。
「それはもういいと言ったはずだ、ロビン」
ヨルクがそう言うと、ロビンは興味深そうに顔を近づけた。
「そこなんだ、ヨルク。何故キミがそう思ったのかが知りたい。後、オレを悪だと思う理由も」
「そんなこと知ってどうする?」
「別にどうも。オレは知りたいだけだ」
ヨルクはロビンの言葉にあまり納得した様子はない。ロビンは仕方なく別の話をすることにした。
「別にオレはキミに腹を立ててるわけでも恨んでるわけでもない。むしろ感謝しているくらいだ」
「感謝だと?」
ヨルクが困惑した声を上げると、ロビンは大きく頷いた。
「あの時、我を忘れてユァリーカから無理やりルツカを奪っていれば、ユァリーカは帝国じゃなくオレを標的にした可能性が高い。ヨルク、キミのおかげで首の皮一枚繋がっている」
「すでに決裂してるんじゃないか? ユァリーカはお前に怒ってるぞ」
「だろうな。だが、キミを帰すと言えば、話くらいは聞いてくれるだろう? 無論、口だけじゃなく、本当に帰すつもりだが」
「……」
少なくとも嘘を言っているとは思わなかったのだろう。ヨルクもすぐにそれを否定するような言葉は言わなかった。だが、再びヨルクが口を開いた時、出てきたのはやはりロビンに対し好意的とは言えないものだった。
「あんたは人が自分の思うとおりに動くように仕向けることばかり考えてるな」
「“ばかり”と言われると心外だが、否定はしない」
「それじゃあんた自身の言葉にならない。自分の言葉で喋らない奴は誰からも信頼されない」
「なるほどな」
ヨルクの手厳しい指摘にもロビンはあまり動じた様子はない。むしろ、どこか何かに納得しているようにさえ見えた。
「つまり、耳障りのいいことばかり言うのではなく、腹の底を見せろ、と言ったところか」
「……」
「そして、ユァリーカの周りに人が集まるのもそれが理由……どんな状況でも自分を貫き通す姿に皆が感化されるということか」
「……」
「なるほどなあ。いくらオレが言葉をつくしてもユァリーカとよい関係を作れないわけだ。確かにオレはまだ自分の目的も話してないしな」
ロビンの話を聞き、ヨルクの記憶の片隅にあった会話が思い出される。ヨルクは半信半疑と言った様子で思い出されたそれを口にした。
「そう言えば、あんた、物語が書きたいとか言ってたな」
「そうだ。まあ、今はそれ以外にも目的があるがな」
「それ以外?」
「………ああそうか!」
「?」
突然大きな声を上げたロビンにヨルクは驚くが、彼はそれを気にした様子はなく独り言を呟き続けた。
「普通はこういう話からするよな。それをすっ飛ばして会話をするからいけないのか。確かに……確かにな」
「おい、あんた何を言ってるんだ?」
「社畜時代の悪い癖だな。しかし、今から直して何とかなるものなのか……」
「おい!」
「だが、やって見るしかないか。とりあえず俺の手札を見せて、オレが何をしようとしているかを話す。その上で助力を請う。これだな!」
「おいってば!」
「!」
ロビンはヨルクの声に弾かれたように顔を上げると、ようやく彼を意識したようだ。
「ああ、済まない。独り言が出やすい性質でな」
「いや、そこじゃねーよ。人の性格にけちをつけないのが俺のポリシーだ」
「寛容なんだな」
「だが、好き嫌いはあるぞ」
「まあ、そうか」
ヨルクはだんだん話が脱線していくことに疲れを感じたが、幸いにもそれはロビンにも伝わった。
「オレの反省会は後にして、話を戻そうか。これからキミにオレの目的を話す。それから信用するかどうかを決めてくれ」
「分かった」
ヨルクは静かにそう答え、ロビンの次の言葉を待つ。
「少し想像しにくい部分もあるが、聞いてくれ。オレの目的は──」
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