第九十三話 美少女
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ムサシに乗り込むや否や倒れてしまったユァーリカを休ませたり、ルツカがクロエやエルとの再会を果たしたりしている間、スコットとティーゼは事後処理に追われていた。勇者は逃げたか、ロビンが倒してしまっていたのだが、彼らをサポートする輜重隊に従事する兵士達が残っていたのだ。
といっても彼らは職業軍人ではなく、付近の住民から寄せ集められた農民がほとんど。ミリオンメサイアを敗れたことを知ると、進んで投降してきたため、彼らの仕事は捕虜についての情報整理だった。
「あ~、肩こった!」
ものの五分と持たずにスコットは適当な言い訳をして作業をしていた部屋から離れる。中にはティーゼを始めとして、元ベルバーン解放戦線の隊員が作業を続けていたが、誰もスコットを止めようとはしない。そもそも、彼には不向きな仕事だと分かっているのだ。
一息ついてから捕虜の尋問でも手伝うかと考え、スコットが炊事場へ向かおうとすると、見慣れない少女と目が合った。
(っ!)
いや、少女ではない。美少女だ。加えて、快活そうな茶色の瞳には理性的な輝きが満ちており、頭の切れる娘だと一目で分かる。
「あの、初めまして。スコットさんですよね?」
「あ、ああ」
スコットの返答がいささか間の抜けたものだったのは、ルツカに見とれてしまった訳では無い。いや、それもあるのだが、見たことがない顔だと思って戸惑ったのだ。
(人の出入りは多いにしても、目端の利きそうな奴は見て憶えていたはず……)
そんなスコットの思惑を知ってか知らずか、スコットの目の前の美少女は話を続けた。
「急にすみません。私、ルツカって言います。助けていただき、ありがとうございました」
そう言うと、ルツカはスコットに頭を下げる。疑問が霧散したスコットは手を振りながら、ルツカを制止した。
「やめてくれ。俺らはユァーリカには借りっぱなしなんだ。しかも帝国や勇者は俺達にとっても敵だ。感謝してもらう必要はないぜ」
「そんなことはないと思いますけど……じゃあ、“これからよろしくお願いします”に訂正します」
ルツカは悪戯っぽくそう言いながら、手を差しだした。ユーモアのきいた言い方に好感を持ちつつ、スコットはルツカの手をそっと握った
「けど、もう少し休んでおいた方がいいんじゃないか? 多分ユァーリカが起きたら一気にことが進むと思うぞ」
「いえ、むしろそのために出来ることをしておきたいんです。捕虜になった人を精査しないと」
スコットはルツカの目の付け所に感心した。確かに、捕虜の中に間者を混ぜるのは常套手段。特に今回のような勝ち戦の時ほど、注意が必要なのだ。
「食料プラントが先かと思ったんですけど、クロエさんが先にこちらにと。確かに食料はミリオンメサイアが豊富に持っていましたしね」
先ほどからの言動に加え、一部で鬼教官と呼ばれている(ただし、同事にその美貌から女神のように敬愛されている)クロエのお墨付きとなれば、何の文句もない。スコットはさっき閉じたばかりの扉を再び開き、ルツカを招き入れた。
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