第九十話 連戦
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「【紫炎霊装】!」
ユァーリカは突進しながら真名を口にする。すると、紫炎が鎧のようになってユァーリカの体に纏わりついた。
(先手は譲らない!)
音すらも置き去りにする斬撃がロビンに迫る。目視さえ適わない一撃はロビンが反応する時間さえ与えずに首筋を捉えた。
が……
(何だって!?)
予想外の結果にユァーリカは驚愕する。ユァーリカの攻撃は確かにロビンに当たっていた。だが、なんと、紫炎の鎧から伸びたユァーリカの剣は皮一枚傷つけられずに止められてしまっていたのだ。
「っ!」
一瞬動きの止まったユァーリカだったが、悪寒を感じ、素早くロビンから離れる。ちらりと刃先を確認すると、霜が降りて白くなっているのが確認できた。つまり、これがユァーリカの攻撃を防いだ力なのだろう。
「《冷血地獄》の力は、生物や物体の動きを止め、制止させること。術者に近づけば近づくほどその傾向は強くなり、ゼロ距離ならキミの攻撃でさえ止まる。ちなみに、効果の代償として私は凍傷を負う冷気に襲われるはずだが、まあ、こいつと相殺という奴だ」
そういうと、ロビンは右手に持つ緑の光で出来た剣をユァーリカの前に出す。
「殺しはしない……が、多少痛い目にあって貰うぞ」
「こっちの台詞だ!」
腕の剣を電気に変え、ユァーリカは再び地面を蹴る。それを見たロビンは緑光の剣を横に振る。すると、その軌跡をなぞるように光が飛び、空間を焼きつくす。
「食らうか!」
だが、ユァーリカのマナサイトと経験則はロビンの攻撃を事前に予測している。攻撃を回避したユァーリカはそのままロビンの左側から雷を放つ。
「言ったはずだぞ、ユァーリカ! 私の前では全てが止まる!」
ユァーリカの放った雷はまるで壁でもあるかのように歩みを止め、かき消える。さらに、ロビンが左手を上げると、そこから猛烈な冷気が伸びていく。
(やばい!)
ユァーリカの背筋に悪寒が走る。ユァリーカはロビンの放った冷気を辛うじてかわすが、地面の草は凍りつき、ガラスのように脆い存在へとなり果てた。
「止める……つまり、凍らせるということか」
「ホウ、やけに理解が早いな。この世界の知識では理解できないと思ったのだが」
ロビンの指摘の通り、ユァーリカがこのことを理解出来たのはザンデの知識のおかげだ。だが、わざわざそんな話をしてやる必要性をユァーリカは感じない。返事もせずに黒い雷で剣を作ると再びロビンに斬りかかった。
(これも駄目か。じゃあ、次はっ!)
止められれば、即座に思考を切り替え、ユァーリカは再び突進する。彼は固有技能や精霊魔法を駆使しながら、手を変え品を変えて攻撃するが、一向にロビンには届かない。
だが、その状況に焦りを感じはじめたのは、ユァーリカではなく、ルツカだった。
「このままじゃハンスがっ」
そう言って先ほどと同じ魔法を使おうとするが、ルツカの意思通りにはマナが活性化しない。何度も試すうちに、ルツカは咳き込みながら倒れてこんでしまった。魔法を使う体力がない時の典型的な症状だ。
「いや待てよ、ルツカ。確かに攻撃は効いていないが、食らってもいない。今のところ、膠着しているだけだ」
尻餅をついているルツカに手を伸ばしながら、ヨルクはそう声をかける。ヨルクがいつものいい加減な発言ではなく、本音をこぼしてしまったのは、ルツカらしくない焦った顔を見て動揺したせいだ。だが、ルツカはそんなヨルクの言葉を聞いても顔を一層険しくするばかりだ。
「忘れたの、ヨルク? ハンスはずっと戦い続けているのよ」
「あっ!」
ヨルクは思わず、声を上げた。ルツカはヨルクには見えていないものが見えていたのだ。
「いくらハンスが強くても、戦い続ければ疲労するわ。それに引き替え、ロビンは今まで見ていただけ。今は互角でもすぐに不利になる!」
言うが早いか、散弾のように放たれた緑光がユァーリカの左腕に当たる。ユァーリカはそれと同時にロビンに一撃を入れるが、やはり通じない。逆に冷気による反撃を躱しきれず、右足が凍りつく。
「確かにやばいな」
ユァーリカの左腕と右足を覆っていた紫炎がダメージを肩代わりして消えたため、彼自身に傷はないようだが、窮地には変わりない。ヨルクはいよいよ使い時を迎えつつある魔道具、緊急脱出を握りしめた。
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