第八十四話 開戦
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三日後、帝都の南方に広がるロスリック平原には異様な光景が広がっていた。
全身を白銀に輝く装備で固めた勇者が二千以上。それだけでも息を呑むような光景だが、もう一つ、誰もが目を離せなくなるものがある。それは、ロスリック平原の入口に停泊しているムサシだ。帆のない帆船のような乗り物が土の上にあるというのは目を疑うような光景である。
先制したのはユァリーカ達だ。ミリオンメサイアに向かって、ムサシから砲弾が放たれる。だが、それらは虹色の盾や銀色のマント、緑色の風といった様々な固有技能によって防がれた。
「やっぱりか。じゃあ、手筈通りに行くぞ!」
ユァーリカが皆に向かってそう言うと、彼に着いてきた戦士達は武器を構え、隠れていた茂みから飛び出した。鬨の声を上げながら、突進する戦士達の中で真っ先に攻撃を仕掛けたのはやはりユァーリカだ。
「【冥炎紅鳥】!」
ユァーリカの唱えた真名により、《死霊食い》で強化された紅炎鳥、【冥炎紅鳥】が姿を現す。そして、それはすぐに主の意を組み、前方へ向かって突進した。
「クソっ! ユァーリカ、格好いいじゃないか!」
ユァーリカに併走するスコットが軽口を叩く。それに釣られて、彼らに続く戦士達からも笑いがこぼれる。ユァーリカについてきた戦士達はスコットやティーゼといった上級に近い中級冒険者。この戦いで最も過酷な持ち場を志願した者達だ。
「スコットの見せ場はこれからだろ。苦労して作ったんだから、ちゃんと使ってくれよ」
「言ってくれるな、ユァーリカ! 何が苦労だ。二~三日で全員分作った癖に!」
ユァーリカとスコットが軽口を叩き合うのは自分達についてきてくれる戦士達の士気を考えてのことだ。窮地のときこそ、余裕を見せるのが、リーダーというものなのだ。
「お客さんよ、ユァーリカ!」
二人に合わせた気楽な調子でユァーリカに注意を促すティーゼ。彼女の指した方向には、此方に向かって突撃してくる勇者がいる。
だが、マナサイトでティーゼよりも早くそれに気づいていたユァーリカは既に攻撃の準備を済ませていた。
「行くぞっ! 【爪撃乱舞】!」
先行していた【冥炎紅鳥】が踵を返してユァリーカの元に戻ると、瞬時に七~八メートルの長さのある剣へと姿を変える。ユァーリカはそれを握り、力一杯振り回した!
「ぎゃっ!」「ぐほっ!」
一撃、二撃とユァーリカが攻撃する度に勇者の悲鳴が広がっていく。ユァーリカの剣は振り下ろされる度に枝のように刃が伸び、攻撃範囲が広がるからだ。縦横無尽に飛び交う斬撃はまるで神鳥が爪を振り回しているのに似ていた。
「救世主だ! 最前線に救世主がいるぞ!」
「俺は救世主なんかじゃないっ!」
辛くも攻撃から逃れていた勇者が【拡声】という生活魔法で周りに注意を喚起するのと合わせるようにユァーリカは叫ぶ。
ユァーリカは、仲間と共に自分や仲間の大切な人、大切な場所を取り返したいだけなのだ。
「【翼状終撃(フェザーフィニッシュ】)!」
ユァーリカが叫ぶ真名と共に、刀身から枝のように伸びていた刃が砲弾のように勇者のいる方へ飛んでいく。それはとんでいる間にも数を増やし、まるで横殴りの雨のように勇者達に襲いかかった。
「クソっ! これはとんでもねえな」
足を止めずにスコットはそう呟いた。一人でも一騎当千と言われている力を持つ勇者達が、一連のユァーリカの攻撃で百近い数が失われている。だが、それでもユァーリカにとっては前座なのだ。
「来るわ!」
救世主が来たという声を聞き、勇者達が続々とやって来る。ある者は残像を生みながら、またある者は黒い羽のようなものを飛ばしながら。その姿はさながら砂糖に群がる蟻のようだ。
「ここからだ! みんな、ついてこい!」
「応っ!」
スコットは仲間に檄を飛ばすと、勇者達に突っ込むユァーリカの背を追う。一見、ただの無謀な突撃に見えるが、これこそがユァーリカ達の見出した活路だった。
(こいつらは一緒に行動しているだけで仲間意識は乏しいってクロエさんが言ってたな)
剣を振り回しながら、ユァーリカはクロエの言葉を思い出す。そして、それが合図だったかのように辺りから悲鳴が上がった。
「ぐあっ!」「何っ! 後ろの奴らっ!」
「よしよし、作戦通り」
そうスコットが叫ぶ。すると、ティーゼは目の前の光景を見て、呆れたように呟いた。
「まさか、こんな馬鹿なことがあるなんて信じられない」
後衛の勇者達の放つ攻撃で目の前の勇者達が倒れていく。中~遠距離からユァーリカ達を狙っていた勇者は、前衛にいる者に被弾することを気にせずに打ち続けているのだ。
「ティーゼ、こっちだ!」
あまりに非常識な光景に反応が遅れていたティーゼの手をスコットが強く引っ張り、構えていた盾の影に隠す。次の瞬間、彼女がいた場所を青い閃光がなぎ払った。
「全部が全部外れるわけじゃないんだ。気をつけてくれよ」
「分かった。ごめん」
スコットはそう言って謝るティーゼの頭を少し撫でると、再び前を向いた。この盾はマナを込めないと力を発揮しないので、気が抜けない。
「また来たか!」
スコットの優れた動体視力が音速で迫る黒いつららを視認する。それが手にした盾に直撃する瞬間、スコットは盾に刻まれた魔法文字にマナを流し込んだ。
「いけっ! お返しだ!」
盾に書かれた魔法文字が【反射】の呪法を発動する。黒いつららは真っ直ぐ術者へと戻る道中、目の前にいた勇者を二人ほどに突き刺って消えた。
(ユァーリカに頼んだ時には、“自分が使えない魔法を魔法文字で再現するのは大変だから”と渋られたのだが、やっぱり頼んでよかった!)
その時にユァーリカから言われた代替案に一同は心底驚いたのだが、それはまた別の話だ。
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