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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第三章 救世主ユァ―リカ

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第八十三話 多分三日以内に

興味を持って下さりありがとうございます!

(ハンス、早く助けてっ!)


 ルツカは心の中でそう叫びながら、頭上から降る燭台を避けた。それは先程、ロビンを狙った勇者が放った魔法で切り落とされたものだ。


「いい反射神経だ、ルツカ!」


 ロビンは片手で燭台を受け止めながらそう言った。どうも、ルツカが避けるまでもなく、ロビンが庇おうとしていたみたいだが、それが事前に分かっていてもルツカの行動は変わらなかっただろう。


「全っ然嬉しくないっ!」

「だろうな!」


 今度は眼前に迫る土つぶてを避けようと身をよじりながら、悲鳴のような声でそう叫ぶが、ロビンは顔色一つ変えずにルツカに迫った土つぶてを剣でなぎ払った。


 剣が直接触れていないにも関わらず、土つぶてが吹き飛んでいるところを見ると、何かの固有技能ユニークスキルなのだろうが、初めて見るルツカにはそれがどんな力なのかは分からない。


「今度はこちらから行くぞ! “引用する”」


 ロビンの詠唱と共に目には見えない剣が飛ぶ。


(この感じ……《霊剣アンドゥリル》!)


 ルツカには目に見えないものを見る力はない。だが、壁や床に突然現れる斬撃の後が何を意味するかは既に知っている。


 今、襲われているのはルツカとロビン、そしてエメリーだ。正確には、ルツカとエメリーが二人で食事をとっていたところに、三人の勇者が突然乱入。すると、まるでそれを待っていたかのようなタイミングでロビンが現れ、応戦を開始したのだった。


「ぐほっ」「痛っ!」「くっ!」


 《霊剣アンドゥリル》は、ロビンの意志通りに襲撃者の手足を射抜く。肉体的な損傷はなくとも、魂が癒えるまでは思うようには動かせない。ロビンの完璧な勝利だった。


「ああ、そうか。これはもう使えないのか。やっと使い勝手が分かってきたんだけどな」


 ロビンは残念そうな顔をしてそう呟くと、手際よく勇者を縛り、呼び鈴を鳴らした。


 その音を聞いて数人の男が現れる。ロビンが彼らに勇者達を指し示すと、男達は無言で勇者を抱え、部屋を出た。


「食事中に済まなかった。代わりを持たせたいが……食べてくれるかな?」


 すっかり冷めた食事を前に気遣うような口調でロビンがそういうが、ルツカはきっぱりと断った。


「これを頂くわ。冷めたくらい、何でもないもの」


 そういうと、ルツカはまるで今までの騒動を気にしていないかのように食事に手をつける。そんなルツカを見て、ロビンは感心したように短く唸った。


「キミはなかなかしっかりしてるな。普通の女の子なら失神していまいそうな体験なんだがな」


「……それは褒めているのか、けなしているのか分からないわ。というか、あなたには言われたくないけど」


「?」


 ルツカはまるで心当たりがないかのようなリアクションをするロビンを一瞬睨みつける。だが、まるで痛痒つうようを感じた様子がないロビンを見て、ため息をついた。


「私達を囮にしたんでしょ。自分に従わない部下をあぶり出すために」


「凄い! 流石ルツカ!」


 エメリーが手を叩く。本来ならエメリーにも文句を言いたいところだが、それは我慢し、ルツカはロビンの返答を待った。


「キミは凄いな。まさかそこまで分かっているとは! あ、いや、済まない。だが、身の安全は私が保証するから我慢してくれ」


 予想外にロビンが正直な答えを言ったことに毒気を抜かれながらもルツカは気を緩めない。だが、続くロビンの言葉には思わず息を飲んだ。


「しかし、惜しいな。半分正解といったところか」

「半分?」


 訝しむルツカにロビンは頷いたが、彼はそれ以上は何も言わなかった。


 ロビンの固有技能ユニークスキル、《オデッセイ》は物語を引用し、自らの力とする能力だ。したがって、神聖エージェス教の経典に記された聖者の生涯を物語だと思えば、聖者が行使した奇蹟を再現できるし、この世界での勇者達の活動の記録を物語として見ることで、他の勇者の固有技能ユニークスキルを使うことが出来る。


 だが、ロビンの《オデッセイ》が定義する物語とは、始まりと終わりがあること。したがって、未完で終わった物語やロビンが結末を知らない物語の力を借りることは出来ない。そのため、まだ生きている勇者の力を使うことは出来ないのだ。


「まあ、キミをユァーリカの元に戻すためにオレもあれこれと策を練っている。不本意かもしれないが、協力してくれ」


「それはまあ……」


 ルツカは口ではそういうが、あまり納得していない顔をしている。だが、それも無理はないとロビンは思う。何せ、ロビンの話は全てが真実という訳ではないのだから、


「そういえば、ユァーリカってハンスのことでしょ? 私がいない間に一体何があったの?」


 ルツカは、キアラが彼女をロビンのいるキャラベルまで連れて来てから今まで、ずっと教皇庁の最上階のフロアで生活していた。ただし、その行動範囲は極めて制限されているため、ユァーリカ達の情報はおろか、建物の外で何が起こっているかも分からなかった。


「オレも全て分かっているわけじゃない。だが、ユァーリカは何らかの決意を固めたんだろうとは思う」


「……」


 ルツカは拳をきつく握ることでもどかしい思いに耐える。しかし、そのつらい時間はロビンの言葉によって、唐突に終わりを告げた。


「だから、キミはユァーリカに直接聞けばいい。彼とはすぐに会えるさ。多分、三日以内に」


「本当!?」


「ああ、本当だ。とは言っても危険はあるがな」


 そう言うと、ロビンは自分の計画をルツカに話し始めた。ルツカを救うためにロビンの固有技能ユニークスキルを使って、帝都近郊のロスリック平原に移動して、帝都に向かっているユァーリカ達に合流するというものだ。


 ちなみに、追いかけるのではなく、わざわざ先回りするのは、ユァーリカ達が確実に通るだろう道の中でロビンが移動できるのがくだんのロスリック平原しかないということだった。


(なんか、回りくどい気もする。けど、いくら固有技能ユニークスキルといっても無制限に移動できる訳もないか)


 ルツカはロビンの説明を聞きながらそう考えた。ちなみに、ロビンのいう危険とは、帝都からユァーリカ達に軍隊が差し向けられており、それと鉢合わせる可能性があるということだった。


「だが、ユァーリカが近くにいるんだ。彼のところまでキミを連れていくくらい、オレにも出来るさ」


 謙遜けんそん混じりの言葉は、ロビンが信用できる人間であれば随分頼もしく感じられただろうが、今のルツカにとっては期待半分、不安半分といったところだ。それでも、ルツカはそんな自分の心情を悟られまいと明るい声を出した。


「なら安心ね! なーんだ、色々と心配して損しちゃった!」


 明るくエメリーと歓談しながら、ルツカは心の奥底で強く自分の恋人のことを思った。

読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の七時に投稿します!

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