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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第三章 救世主ユァ―リカ

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第八十二話 決意

興味を持って頂きありがとうございます!

 次の日、ロビンからの連絡を受けたユァーリカ達は早速作戦会議を行ったが、大した成果は出なかった。ユァーリカ、ヨルク、クロエ、エルに加え、スコットとティーゼも加わり、知恵を絞ったが、二~三千の勇者を倒す策など簡単に思いつくわけがない。


 加えて、厄介だったのがユァーリカだ。彼は自分が一人で戦うといって聞かなかったのだ。その理由は、自分以外が戦えば仲間が死ぬ可能性があるからだった。当たり前の話なのだが、ユァーリカにはどうしても納得できないらしく、会議は結局、何も決まらずに終わってしまったのだった。


「全く、どうしたもんかな~ こういう時は時間を置くのが俺のポリシーなんだが、そうも言ってられないよな~」


 ヨルクは会議に使った部屋に残っていたスコットとティーゼを前にそうこぼす。口調は気楽そうだが、内心はユァーリカに対する罵詈雑言に満ちていた。


(少しは成長したかと思えばこの様だ! 一体いつになったら、甘ちゃんを卒業するんだよ、あいつは!)


 そんなヨルクの内心を知ってか知らずか、スコットが肩をすくめる。


「俺は逆に感心したけどな。惚れた女のために一人で挑むだなんて、クソッ!、格好良すぎるじゃないか」


 この楽観主義者がっ!


 と思わないでもなかったが、口には出せない。したがって、ヨルクはスコットの発言に対し、無関心そうに頷くに留めた。


「そう言ってもこれは問題よ。私達がいたところで何が出来るかは分からないけど、ユァーリカが私達の参戦に納得してくれなきゃ、作戦も何もないんだから」


 ティーゼはそう言ってスコットをたしなめる。


「まあ、救世主様にはあれくらいのことを言って貰わないとな。その後は俺達の仕事だろ?」


 ティーゼはそういうスコットに溜息をつく。が、スコットがそう言うなら、彼女のすることは決まっている。


「ねえ、ヨルクさん。ユァーリカの力についてあなたが知っていることを教えてくれないかしら。ユァーリカが鍵なんだから、彼のことを知らなきゃ作戦も何もあったもんじゃないわ」


「いいけど、俺も大したことは知らないぞ」


 といいながら、ヨルクは肝心なら部分をぼやかしつつも、必要な情報をティーゼに話した。ヨルク自身、勇者達相手にどう戦ったら良いかが分からず、困っていたのだ。


「ユァーリカの力の本質は分からないけど、常識外れな力であることだけは確かね」


 ヨルクの話を聞いて、ティーゼはこめかみを押さえながら、そう言った。


「まあ、力だけじゃなく、あいつ自身も常識ないけどな」


 混ぜっかえすようにヨルクが言うと、ティーゼは一瞬彼をにらむ。それに怯える演技をしながら、ヨルクは肩をすくめた。


「とにかく、あいつを説得することと、勝つための作戦を考えること、その二つをしなきゃいけないってことだな」


「じゃあ、あなたの担当は彼の説得ね」


 どこか他人事のようなヨルクの口調にティーゼが釘を刺す。ヨルクは再び首をすくめながら言い訳をした。


「まあ、そっちはもっと向いている奴らがいるからな」



※※



「どうしたんだ?」


 夜風に当たるために甲板に出ていたユァーリカにクロエは声をかける。


「ちょっと考えごとを」


 気配を感知していたのか、ユァーリカは驚いた様子を見せずにそう答えた。


 実のところ、ユァーリカは揺れていた。ルツカへの思いと仲間を失いたくない思い。その二つは今もユァーリカをかき立てている。


 無論、ユァーリカも一人で二千を超える勇者に勝てるとは思っていない。だからこそ、単身飛びだすようなことをしないのだが、ロビンの情報はユァーリカの理性を吹き飛ばしかねない力を持っていた。


(帝国め…… ルツカを処刑だとっ!)


 腸が煮えくりかえるとはまさにこの事。だが、同時に、ユァーリカはこれが罠だとも分かっている。勝算なく動けば、自分だけでなく、ルツカも死んでしまうことが分かっているからこそ、動かないのだ──少なくとも、今は。


「何を考えてるんだ? 戦略か? それとも私達を巻きこみたくないとか思ってるのか?」


 責めるような言葉の割にクロエの口調は柔らかだ。そのせいか、眼差しの違いがあまり気にならなくなり、彼女の顔が何故かリンダの面影と重なる。


「いえ、巻き込む巻き込まないというのは既に手遅れでしょう。それに、これからの戦いで誰も死なないなんて思っていません……死んで欲しくはないですけど」


 最後の方は小声になりながらそう答えると共に、ユァーリカは内心首を傾げた。


(なんか、最近、クロエさんと姉さんがダブる時があるな)


 ユァーリカの姉、リンダとクロエは瓜二つと言っていい容姿をしている。それでも、ついこの前まで、ユァーリカはクロエを“姉に似た人”としか認知していなかったはずなのだ。


(なのに、なんで……)


 ユァーリカが答えを見いだす前にクロエは会話を続けた。


「別に責めているわけじゃない。というより、実は感心している」


「感心?」


「分かってる。確かにユァーリカが自分で思う通り、誰にも死んで欲しくないというのはあまりにも現実離れした考えだ。だが、それほど仲間を大切に思っているということは美徳だ」


「いや、その……」


 クロエの発言はユァーリカの思いから外れてはいない。とはえ、全てでもない。だが、幸いにも欠けた部分を補う声が加わった。


「圧倒的な力の前にユァーリカは恐怖している。仲間を失う可能性が高いから」


 抑揚に乏しいエルの声はまるで神のお告げのようだ。


「……そうだ」


 初めから分かっていたこととはいえ、人の口から言われるとまるで冷や水を浴びたような感覚に襲われる。だが、ユァーリカなエルの言葉を否定せず、自らの思いを語った。


「この戦い、勝てたとしても、生き残れるのはごく限られた人数だろう。それが分かってるのに連れていくなんて」


 死ぬと分かっている戦場に繰り出すことは死を命じているのと同じだと、ユァーリカは思うのだ。だが、そんな言葉に出来ない思いも含めて、クロエは否定した。


「違うぞ、ユァーリカ。命をかけるかどうかは君が決めることじゃない。ここにいる皆がそれぞれ決めることだ」


「あ、いや、それはそうなんですが」


 揚げ足取りにも近い話だが、正論ではある。だが、話はここからが本番らしい。クロエは続く言葉をよどみなく口にした。


「君は皆を集めた責任を感じているのかもしれないが、それは的外れな考えだ。ここにいる皆は自分が居たいからここにいる。だから、居たくないと思えば去る。それだけだ。だから、ミリオンメサイアと戦うことを迷う必要は無い」


「っ!」


 ユァーリカはまるで驚策きょうさくで肩を叩かれたような思いがした。今まで、彼は自分が皆の命を預かっていると思っていた。だが、それはおごりだったのかもしれない。他人の命の使い方にとやかくいう権利を持つ者などいるはずがないのだから。


「みんな、ユァーリカが好きだからついてきている。だから、みんなの願いはあなたはあなたであること」


「分かったよ、エル。クロエさんもありがとうございます。俺、おかげで迷いが晴れました。明日、みんなに自分の考えを伝えます」


 エルとクロエは満足げに頷く。そんな彼女達を背に、ユァーリカはルツカがいるはずの方角に向いた。


(ルツカ、俺は必ず君を救い出してみせる!)

読んで頂きありがとうございました! 次話は12時に投稿します!

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