第八十一話 乙女の思い
興味を持って頂きありがとうございます!
(流石に予想外だな)
ヨルクが【通念】を解いた後、ロビンはそう思った。
(実質一人でベルバーンを落としたようなもんだ)
ユァーリカの成長は異常だ。それは物語の主人公としても規格外といえる。何かあったのかもしれないが、その場にいなかったロビンには分からない。
だが、それは問題ではない。ロビンの目的は物語を書くことだ。分からなければ、想像すればいいのだから。
(まあ、だが、次は流石にキツいだろう。ピンチは必要だが、死んでしまっては元も子もない。何か策を考えないとな)
再び考えこむロビン。その背中に銀髪の少女が声をかけた。
「ロビン、通信は終わった?」
「済まない、エメリー。少し考え事をしてしまってな」
そう言って後ろを振り向くロビンの前には、エルと瓜二つの容姿をした少女が立っていた。彼女の名前はエメリーヌ。エルの双子の姉であり、神聖魔法が使えないという理由でエルの影武者としての生き方を強いられている少女だった。
「何を考えていたの?」
「無論、先の展開だ」
「先の展開?」
「私達の計画が成就させるための戦略のことさ」
「そう。よかった」
エメリーはそういって微笑んだ。その笑顔はエルとは似て非なるもの。何故なら、エメリーにはエルにはない感情があったからだ。
「キミはいつもオレの計画について問いただしたりはしないのだな。不安になったりはしないのか?」
「不安?」
「オレがキミに約束したことは、今の段階では絵空事だ。なのにキミはそのことに不満はないのか?」
今までエルが出席していた“勉強会”に初めてエメリーが出席した日。ロビンは彼女がエルはないことを見抜いた上で、エメリーにある約束をした。
それは、エメリーがエルの影ではなく、彼女自身として生きられるようにするという約束だった。
「今まで、私とエルを見分けた人はいなかった」
「キミ達は似ていても別人だ。違いがあって当然だろう」
「だけど、ここでは誰も気づかない。それはきっと、私達がただの道具だから」
「キミが道具だとっ!」
思わず声を荒げるロビンにエメリーは優しく微笑んだ。
「そう。あなたは違う。だから信じられる。あなたは、いえ、あなただけは私を見てくれているから」
「別に深い意味はないぞ。オレはただ、人をモノ扱いする奴らが嫌いなだけだ」
転生前のロビンが味わった苦痛はまさにこれだった。命令する者は相手に感情など無いかのように一方的に言いたい放題指示し、される側はただそれを愛想笑いをしながら聞くしかない世界。そんな世界で暮らした苦痛はロビンの中に未だに強く残っている。
だから、許せなかったのだ。見た目が似ているというだけで、二人を互いの代替品のように扱う神聖エージェス教国が転生前に自分が雇われていた会社のように見え、見逃せなくなった。それ故、ロビンは一方的にエメリーに約束したのだった。
「オレは自分勝手な人間だ。あんまり期待するな」
ほのかに涙を滲ませた瞳で見上げるエメリーに背を向けながら、ロビンは冷たく言い放つ。
ロビンは自分がかつて嫌った人間と同じようなことをしていることには気づいている。物語を書くために戦争を起こさせるなんて正気の沙汰でないことは百も承知だ。
「駄目っ!」
エメリーがロビンの背に縋りつく。
「……」
「私をわざと突き放そうとするのは駄目っ! だってあなたは私の──」
エメリーは言葉を詰まらせた。何故なら、続けるべき言葉が分からなかったからだ。エメリーにとってロビンは何なのか。それは彼女自身が一番分からないのだ。
だが、少なくとも、エメリーはロビンが悪い人間でも、自分のことを何とも思っていなくてもよかった。自分の傍にいてくれさえいれば。
「済まない。誘ったのも約束したのも私だ。オレはキミを裏切るつもりはない」
ロビンはエメリーの方を振り返り、頭の上にそっと手を置く。
「そんなことは疑っていない」
「そうだな。すまん」
といったものの、ロビンにはエメリーの心理など全く分かっていなかった。
(年齢=彼女いない歴なんだから、女の子の思考なんか分からないぞ!)
弱気なのか、強気なのかが分からないようなことを考えながら、途方にくれるロビン。だが、幸いなことに彼には分からない理由でエメリーは機嫌を直し、ロビンに微笑んだ。
「分かればいい」
何を!?
と思わず口走りそうになるが、そこは気合で踏みとどまる。いくらロビンでも、それは今、口にしてはいけない言葉だとは分かっている。
時間が来たため、ロビンに別れを告げて部屋に戻るエメリーの後ろ姿は心なしか軽い。ロビンはそれを見ながら安堵すると共に、自らの固有技能でも解決出来ない問題にそっとため息をついた。
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