第七十九話 新たな道
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「流石に疲れが出たのかしら」
騒いでいる仲間達から離れ、テラスの壁に背中を預けて夜風に当たるスコットを見つけ、ティーゼは声をかけた。
「クソっ、年は取りたくないな。流石にもうボロボロだ」
「無理しなくても寝ていればよかったのに」
「そうもいかないだろ。あいつらと俺達の仲間を馴染ませるには早い方がよかったからな」
スコットは最初からここにいた訳では無い。スコットは酒宴がはじまってから、ユァーリカやヨルクを連れ、仲間達と散々騒ぎまくった後、彼らが互いの今までの戦いを話し始めた頃合を見計らって、脱出してきたのだ。
「それよりすまんな。面倒くさい交渉は全部そっちに投げちまって」
「いえ、大したことはないわ。というか、彼女は別にこちらにして欲しいことがある訳じゃないみたいだったし」
「なんじゃそりゃ。どういうことだよ」
「よく分からないけど、今、あの子は教皇として動いている訳じゃなくて、個人として帝国に捕まった友達を助けるために動いているみたい。そんなことが有り得るのかと思うけど、まあ、あっちも混乱しているからね」
ベルバーンは帝国と神聖エージェス教国の国境沿いにあるため、神聖エージェス教国の情報が手に入りやすい。したがって、すでにロビンがしでかしたことやそれにより国内が教皇派とロビン派に別れていることは伝わっていた。
「案外、教皇もあの救世主に会って変わったのかも知れないぞ」
「ふぅん」
意味ありげに相槌を打つティーゼ。スコットは一体彼女が何を言いたいのかが分からず、しばらく黙っていたが、すぐに耐えきれなくなった。
「クソっ、何がいいたいんだよ」
「別に。随分、彼のことが気に入ったんだなって思って」
「そんなんじゃないけどな」
スコットは思わずそっぽを向く。そんな彼にティーゼは今までのからかうような口調を止め、すこし改まった声を出した。
「ロマノフのことをある程度吹っ切れたのも、彼の影響があったんじゃない?」
意識が戻り、自らの敗北を悟ったロマノフは命惜しさに何もかも喋った。その中には、青竜騎士団が民衆から奪った金品の保管場所などに加え、本当はスコットやその養父母をはめたことなど覚えていないという話も含まれていた。
より正確には、似たようなことは沢山したが、その対象がスコットだったのかは覚えていないというだけで、スコットにとってロマノフが敵である可能性はある。だが、スコットはそんな話を必死でするロマノフを見ているうちに、何だか殺すのが馬鹿らしくなってしまったのだ。
「あいつに比べたら、俺はちっちゃなって思ってな」
「あいつ?」
「あいつは俺の復讐の決着に手を貸し、ベルバーンを解放した恩人だが、別にそれで俺達に恩を着せるわけじゃないらしい。あんだけのことをただで……いや、自分の思いのままにやってのけるってすげえなあって」
「そうね」
別にあなたが彼に劣るとは思わないけど
とティーゼは思ったが、口には出さなかった。ティーゼは自分の思いを伝えるよりも、スコットが感じたことを聞きたい気持ちの方が強かったからだ。
「だから、俺も……何ていうか、凄いとまでは行かなくても、格好いい方を選びたいなと思ってさ」
「格好いい?」
「ロマノフを切るよりも然るべき罰を与えた上で、新しい目標に向かった方がいいんじゃないかと。だって、敵かどうかも分からない奴を殺すなんてただの八つ当たりだしな」
「そう。確かにそうね」
ティーゼは優しくそう言うと、スコットの頬にやさしく触れた。
「で、その新しい目標って?」
「人助け、かな? まだ、あいつらの目標をちゃんと聞いてないから分からないけど」
「なるほど。あの救世主くんの救世主になるのね」
「いや、そこまで大したことは出来ねえと思うけどな」
悪戯っぼく笑ってそう言うティーゼにスコットは頭をかきながら、そう答える。
「それで、だ。ティーゼ。俺に着いてきてくれねえか? 何ていうか、俺、ここから先のことをお前なしでは考えられなくってさ」
スコットとティーゼは元々、気心が知れた仲だった。考え方も近かったし、スコットはティーゼといるとある種の安らぎを感じていた。ふらふらと町を渡り歩いていたスコットがベルバーンに長くいたのも彼女の存在が大きかったのだろう。
それでも、今まで二人の関係を仲間以上に深めて来なかったのはスコット自身、自分の過去を受け止めることが出来ていなかったからだ。簡単に言えば、養父母を自分のせいで死なせてしまい、自棄になっていたと言ってもいい。だから、彼は未来のことは考えられなかったのだ。
しかし、今は違う。
スコットはユァーリカから何かを感じ、自分の納得出来ない過去と折り合いをつけることを決意したのだ。
過去は変えられない。だから、代わりに今度はよりよい未来を選び取りたい。
それが、彼の見つけた過去との折り合いの付け方であり、ある種の贖罪とも言える決意だった。その時始めて、スコットは自分の未来について思い描くことが出来たのだった。
「スコットっ──」
ティーゼは言葉を詰まらせたまま、スコットの胸に飛び込んだ。しばらく抱擁を交わした後、スコットは小声でティーゼに囁いた。
「オッケーってことでいいかな?」
ティーゼはスコットの胸の中で小さく頷いた。
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