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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第三章 救世主ユァ―リカ

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第七十三話 戦乙女

興味を持って頂きありがとうございます!

 一瞬で城壁が消えさったことで、ベルバーン解放戦線は大混乱に陥っていた。だが、何も知らない民衆や青竜騎士団の混乱はさらに大きく、もはやパニック状態だった。


「おいっ! 出て来い。検閲だ!」


 青竜騎士団は家や店に立てこもり、身の安全を確保しようとする民衆を建物から引きずり出し、犯人捜しを始めていた。それは、今、更なる混乱を引き起こしてまですべきかどうかということは今の彼らの頭にはない。


「止めろ、止めてくれ!」


 業を煮やした騎士達は扉を蹴破り、中にいた人々を無理矢理引きずりだす。そして、まるで無関係な彼らが首謀者かのように責め、ちょっとでも逆らえば鋼の手甲に包まれた拳で容赦なく打ち据えた。


「おい、見ているだけでいいのかよ!」


 ベルバーン解放戦線に属する冒険者達は青竜騎士団の暴挙を歯を食いしばりながら、見ているしかなかった。数の少ない彼らが今出て行けば、あっという間に数の暴力の前にたたき伏せられてしまい、せっかくの作戦も水の泡だ。


「くそっ! 皆、合図を待つんだ」


 必死で皆を抑えるリーダーのスコットは三十二歳の重戦士。どんな時も仲間を裏切らない彼はベルバーンの冒険者達の信頼が厚い。ベルバーン解放戦線が組織された時にも、満場一致でリーダーに指名された程だ。


 だが今、スコットは弱りに弱っていた。青竜騎士団の振る舞いは到底許せないが、今出て行けば今までの苦労が水の泡だ。


(今出ていくべきでないのは分かってる。だが、いくら未来のためとは言え、あいつらが好き勝手するのを見ていていいのか?)


 そんなスコットの前で、思い通りに行かない民衆に業を煮やした一人の騎士が腰の剣を抜き、一人の男を切りつけた。血と悲鳴に大人しくしていた民達も一斉に騒ぎ出す。すると、他の騎士達もバラバラと剣を抜き始めた。


(止めろ、止めてくれ!)


 その光景はスコットにある記憶を呼び起こす。それはまだスコットが冒険者ではなく、山奥の村の木こりの養子だった頃のこと。生意気三昧なスコットに手を焼きながらも世話をし続けてくれていた養父母の元に、ある日、騎士達が大勢押しかけてきたのだ。


 覚えのない罪を着せられ、捕らえられそうになったスコットを逃がしてくれたのは養父母だ。結果、彼らは命を失い、家は跡形もなく焼かれてしまった。


(それから俺は冒険者になって、町から町へ渡り歩いた。このベルバーンに来るまでは)

 

 スコットがベルバーンに腰を落ちつけた理由は分からない。


 だが、長くいるため、ある種の愛着があるのは事実だ。そんな場所が今、再び騎士達(権力)によって踏みにじられようとしている。それはスコットにとって、決して許せないことだった。


“弱いもの苛めしか出来ない騎士共なんてやっちまえ!”


 そう怒鳴りそうになったその時、辺りに空から白い光が舞い降りた。


「なっ……」


 翼を持つ女剣士の姿をした白い光を見て、声を漏らしたのは彼のパーティーの一人で呪法使いの女性、ティーゼだ。密かにスコットを思慕する彼女は呪法に加え、その豊富な知識と思慮深さでスコットを補佐する存在となっていル。そんな彼女が息を飲む場面は、付き合いの長いスコットでさえ、数えるほどしか知らなかった。


「何だ、一体?」


 普通の存在でないことは一目で分かる。だが、彼女の驚きはその正体に察しがついている故のものだ。


「精霊……魔法。しかも──」

「精霊魔法!?」


 スコットがそう口にした時には既に【戦乙女ワルキューレ】は騎士達に向けて左手を上げた。


「ぐわっ!」「うわっ!」


 精霊の指先から騎士達に向けて白い炎がほとばしり、辺りは騎士達の悲鳴が上がった。


 スコット達同様、騎士達も【戦乙女ワルキューレ】が登場した時には呆気にとられていたのが、既に態勢は整え、油断なく警戒している。だが、それでも彼らは精霊の攻撃に対して何の反応も出来なかった。最も出来たとしても意味はなかったかも知れなかったが。


「待て、まだ近くに住民がっ!」


 スコットがそう言ったときには既に遅く、白い炎は傷を負った男やその家族を飲み込んだ。


 待てっ!


 その叫びが喉から出るより早く、《白炎ヘブンフレイム》が辺りを蹂躙じゅうりんする。それは騎士達は勿論、彼らが小突いていた民衆共々燃え広がった。


「くそっ、こいつらっ!」


 スコットは無意識の内に剣を抜いていた。勝算は既に考えていない。ただ、許せないから切る。それだけだ。


「待って、スコット」


 そういってティーゼが指さす先には人影が見える。幾つも見えるそれらは《白炎ヘブンフレイム》に包まれながらも何の傷も負っていないことを訝しむようにゆっくりと立ち上がる。その奇蹟のような光景を見て、スコットは一つの事実に気がついた。


「これは、彼らの傷が!?」


「そう。精霊によって治癒されているのよ。そして、騎士達の武具は溶かされ、意識は奪われている。こんな魔法は見たことがない」


 彼らがそんな会話をしている内に、【戦乙女ワルキューレ】は地を蹴り、宙に舞う。そして、争うものがいないことを確認するように辺りを見回すと、急に踵を返し、飛び立った。


「あれは一体誰が……」


 まるで熱に浮かされたように呟くティーゼ。奇蹟を目の当たりにした他の仲間達も似たような心境だったが、スコットだけは違った。


「何をぼけっとしてる! さっさと騎士共を拘束しろ!」


 スコットのげきに冒険者達が正気を取り戻し、慌てて作業に入る。それが終わるか終わらないかのタイミングで、彼は次の指示を出した。


「いまから作戦を決行する! 数人を残してついてこい!」


 スコットは仲間を連れ、【戦乙女ワルキューレ】を追うように駆けだした。

読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の七時に投稿します!

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