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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第三章 救世主ユァ―リカ

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第七十二話 想定外の初陣

興味を持って頂きありがとうございます!

 ユァリーカから話を聞いた後、彼らは作戦を決行する日時をベルバーン解放戦線と相談し、それは三日後の日中と決まった。本来、夜間に仕掛ける方が有利なのだが、それはいざという時に民衆が避難しにくいという理由でユァリーカが却下したのだ。


 四人で準備をしていると、約束の期日はあっという間にやってきた。必要なものは何とか最低限揃えたという感じで、正直余裕はない。だが、ムサシに乗る面々は皆、勝利を確信していた。


「約束の時間だ。浮上!」


 元々ダンジョンイーターという魔物はクジラとシャチを足して二で割ったような姿をしている。クロエはその内部に自らの居住空間をつくったのだが、ユァリーカと魔物達は比較的地面の上に出やすい背びれと背中の一部を船のような形状に改造し、そこに大砲などの攻城兵器を取り付けたのだ。


「目標確認!」  


 正面にベルバーンの誇る帝国最強の城壁が堂々と広がっているのを確認し、ヨルクはそう叫んだ。


「いつでもいけるぞ、ユァリーカ!」


 操舵を担当するクロエが楽しげに声を上げる。クロエ達がいるのは指示を出したり、操舵をするための部屋で艦橋と呼ばれる部屋だ。正直、ヨルクとエルにとっては見たことも聞いたこともない部屋で入るのさえおっかなびっくりだ。


「索敵班から連絡、敵影なし!」


 広い視野を持つ鳥類の魔物からの連絡で敵を探すための魔道具を操作しながら、ヨルクがそう叫ぶ。ヨルクとしては、得体の知らない魔道具を触るのも、魔物だらけの乗り物に乗るのもごめんだったが、これが最善となれば、拒否することなど出来ようはずもない。大体、ユァリーカが出した他の案はもっと酷かったのだ。


「ユァリーカ、そろそろ風が吹くよ」


 言うが早いか、ムサシの背後から突風が吹き始めた。これはエルが事前に準備していた魔法が発動したのだ。そして、これにより、彼らの作戦準備は全て整った。


「一番から十三番、撃てぇぇ!」


 ユァリーカはクロエから事前に習っていた台詞を伝声管に向かって叫ぶ。ちなみに、クロエは何故か袖を通していないコートを羽織り、頭には見慣れない帽子を被っている。窓のないムサシでは暑すぎる格好だが、その理由についてはこの場の誰も知らない。


 ユァリーカの指示を受け、魔物達が砲塔に装填された弾を発射する。これは、ユァリーカが《死霊食い(ソウルイーター)》で創り出したものに、魔法文字ミルグラムで《蒼風エルウインド》という固有技能ユニークスキルの力を封じ込めたものだ。


 ユァリーカが、かつて無意識に創り出し、つい先日、ようやく我がものとした冥属性の精霊【超越者ハンス】は自らが受けた固有技能ユニークスキルにより攻撃を取り込み、自分の力とする能力がある。ユァリーカは、対勇者専用とも言えるこの力を使い、ハンス達の住む世界アルディナには存在しなかった攻城兵器を作り出したのだ。


 魔物達に撃ち出された砲弾は即座に魔法文字ミルグラムに封じられていた力を解き放つ。すると、《蒼風エルウインド》の力で砲弾は空気抵抗などの物理法則を無視して目標へと飛んだ。城壁まではまだ相当な距離があったものの、エルが起こした追い風のお陰で飛距離には充分すぎる程の余裕がある。


 砲弾が凄まじい速度で飛び、鉄壁を誇る城壁へと突き刺さる。その瞬間、爆音と共に城壁に大穴が空き、砲弾は城壁深くにめり込んだ。


「マジでか」

「嘘……」


 口数の多いヨルクでさえ、何も言えなくなるのだがら、普段から少ないエルは尚更だ。彼女は夢でさえ、ベルバーンの城壁が破られる光景を見たことはなかったのだ。


 だが、これは始まりに過ぎない。


 一番上手く風に乗った初弾に引き続き、残る十二発の砲弾はまるで夕立のように次々と城壁へと降り注ぐ。ベルバーンではもはや何が起こっているのか分からないくらいの爆音が鳴り響いたことだろう。


「あ、ああっ……」


 土煙が晴れた時、ヨルクは自分の目に映ったものを見て、蛙が潰れたような声をだした。視線の先にあったのは、つい数分間前まで帝国最強を欲しいままにしていた城壁の……なれの果てだ。


 一発一発が城壁の広範囲に深刻なダメージを与えたせいで、原型を留めている場所はない。もはや穴が空いたというよりも、廃墟になってしまったという感じだ。


「よしっ! やったな!」


 空気を読まずに小躍りするのはクロエだ。ザンデが考案したムサシの装備が予想以上の性能を出したことが嬉しいのだろう。しかし──


「クロエ、これは不味いだろ。誰もここまでしろだなんて言ってないぞ。精々、穴を一つ二つ開ければ充分だったんだよ」


 こんな常識外れの攻撃があった後では、援軍があやしみ、ベルバーンに入って来られない。援軍がベルバーンに入らなくては、数に劣るユァリーカ達に勝ち目はない。


「何でだ? 邪魔なものなら根こそぎなくなった方がいいだろう?」


「そーじゃなくて!」


 何とかニュアンスを伝えようとあたふたするヨルクの肩に、ふとユァリーカが手を置いた。分別顔なのがやや腹が腹が立つものの、藁にもすがる思いのヨルクにとっては些末なことだ。


「いや、あれじゃ駄目だよ、クロエさん。ヨルクの言うとおり今回は失敗だ」


「そうか?」


 今一つ納得出来ない様子のクロエにユァリーカは訳知り顔でこう呟く。


「つまり、ヨルクはこう言いたいんだ。まだ、下の方が残ってるんじゃないかと」


「違うわっ!」


 確かに、かつて城壁だった部分の下部が残ってはいるが、ヨルクが言いたいのは勿論、そんな話ではない。だが、更に信じられないことに何故かクロエはそれに納得してしまった。


「なるほど。じゃあ、ユァリーカ、あれも使うか?」

「あれって……?」


 あまり感情を表に出さず、普段は周囲に達観した印象さえ与えるエルだが、この時ばかりはクロエとユァリーカにジト目を向ける。だが、残念なことに二人はそのことに気づいた様子が全くない。


「いや、この距離なら必要ないです。もっと簡単に済ませて次に移りましょう」


「次か。うん、まあ、確かにな!」


「おい、何の話か分からないが、もう無茶は止め──」


 勝手に盛り上がるユァリーカとクロエにいやな予感しかしない二人。だが、ヨルクはそれでも一応釘を指そうと恐る恐る声を上げるが、時既に遅し。ユァリーカが真名まなを唱えると、白い光に包まれた女剣士が現れた。顔の下半分に仮面のようなマスク、肩には純白の翼、全身には鎧を纏った勇ましい姿だ。


「これが!」

「ええ、《白炎ヘブンフレイム》属性の中級精霊です」


 固有技能ユニークスキルとはこの世界にある五つのマナ以外のマナを宿した人間の扱う魔法を指す言葉だ。そして、ザンデやユァリーカの《死霊食い(ソウルイーター)》の元になる冥属性のマナで精霊が創れるのと同様、ユァリーカが取り込んだ他の固有技能ユニークスキルのマナを使った精霊を創ることも可能なのだ。


(……と考えてはいたけど、詠唱なしで成功するなんてな)


 我ながら無茶苦茶だとは思ったが、嬉しい誤算だ。次は数を揃えるつもりだったので、ユァリーカは静かに詠唱した。


「“奇蹟を生む白きかいなの御使いよ。我が祈りに応え、神秘の御業を起こしたまえ、【戦乙女ワルキューレ】”」


 まるで空から降りてきたかのような白い光が辺りに満ちると先ほどと同じ翼を持つ女剣士が姿を現した。その数は実に十二体。それらはユァリーカに一つ頷くと、最初の翼を持つ女剣士と共に飛び上がった。


 呆気に取られる三人を現実に引き戻すように、精霊達が天井にぶつかり、砕いて外に出る音が響く。それと同時に突風が室内に荒れ狂った。


「あっ!」


 バランスを崩したエルが悲鳴を上げると共に、ユァリーカが彼女を支える。ヨルクやクロエは彼女のように姿勢を崩すことはなかったものの、身動きは取りづらい状態だ。


「へ、もっとエレガントに御出立されるのかと思ったぜ」


 ヨルクはやせ我慢をして軽口を叩くが、その顔色に余裕はない。そんな事情を知ってか知らずか、ユァリーカは彼に返答した。


「大丈夫だ」


 意味が分からず首を傾げるヨルクとクロエだったが、その意味は直ぐに分かった。何と精霊が砕いた天井が自然と元に戻り始めたのだ。


「これは《白炎ヘブンフレイム》の固有技能ユニークスキルの力なのか」


 砕かれたことが嘘のように元に戻った天井を見て、クロエが呟く。破壊と再生、それが《白炎ヘブンフレイム》という固有技能ユニークスキルの持つ力らしい。


 ユァリーカの生み出した精霊達はムサシから離れると矢のような速度でベルバーンへと向かった。

読んで頂きありがとうございました! 次話は12時に投稿します!

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