第七十話 救世主ユァリーカ
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三日かけてクロエのダンジョンイーターの改修が行われたが、それは決して四人で行われたわけではない。むしろ、ハンス以外の三人がしたことはごく単純なことばかりで、ほとんどの作業はハンスことユァリーカが創り出した魔物達がおこなっていた。
彼とユリウスが計画していた改修計画は大きく二つだ。
一つ目はダンジョンイーター内部に生態系を作り、魔物を繁殖させることで労働力と戦闘力を確保することだ。今までのようにひっそりと隠れている分には必要がないことだったがこれから行われる戦いではむしろ必須と言える。
二つ目は防衛設備の増築である。ザンデが考案したのは、魔法文字を使ってクロエの世界の兵器を再現する計画だ。ユァリーカはザンデから受け継いだ魔法文字の知識と技術を用いて彼の計画通りに大砲などの兵器を作り、ムサシに備えつけた。それらは帝都に向かうまでに立ちはだかる城や砦といった防衛施設の攻略には欠かせない装備だ。
ユァリーカは三人に完成した装備を披露する。クロエは自分の世界の兵器が再現されていることに感心していたが、よりシビアは目を持つヨルクの採点は辛かった。
(こんな急ごしらえの武器で何とかなるのか)
表面は歓声を上げつつも、ヨルクは内心不安を隠しきれなかった。確かに仕上がりは見事だったが、所詮は付け焼き刃。実戦でどれくらい役に立ってくれるのかは未知数なのだ。
(しかも、最初に突破しなきゃいけないのは、よりにもよって、ベルバーンだ)
今いるのはキャラベルの郊外。そこから帝国へ向かおうとすると、どうしても通らなければ埋けない難関がある。それが、帝国の誇る大要塞、ベルバーンだった。
ベルバーンは元々神聖エージェス教国に攻め入るための前線基地として建造されたもので、その城壁は教皇の神聖魔法でさえ突破は困難だ。
さらに問題なのは、中に詰めている騎士団だった。ミリオンメサイアが発動される前には、帝国最強の名前を欲しいままにしていた青竜騎士団が駐屯していたのだ。
(青竜騎士団はプライドが高いが、実力は確かだ。加えて数も多い……)
ユァリーカ達には話していないのだが、ヨルクは以前この青竜騎士団に所属していた。スパイになったのはレオルの死についての濡れ衣を着せられ、追放されてからだ。
(要塞戦ということならミリオンメサイアよりも専門の訓練を受けている青竜騎士団の方が厄介だぞ)
無論、これはたまたまではない。いくらロビンが勇者王として幅をきかせているとは言え、帝国の上層部は彼が確実に神聖エージェス教国という強敵に勝てるなどとは考えない。したがって、ロビンが敗れ、敗走したとしてもここで食い止められるように強力な駒を置いていたのだ。
(エルがいるせいで俺達は神聖エージェス教国の教皇派の象徴みたいに思われている。万が一、青龍騎士団に負ければ、教皇派は求心力を失い、ロビン派が調子づく)
ユァーリカ達の戦いは差し詰め、教皇派と帝国の前哨戦なのだ。勝てば帝国に対する抵抗勢力は勢いづくし、負ければその逆だ。
(帝国と神聖エージェス教国、二大国から追われたらいくらなんでもどうしようもなくなる。そうならないためにも、この戦いは勝つしかない)
とすると、前面の敵に集中したいところなのだが、後ろは後ろで不安しかなかった。
(ロビンがいつまで部下を押さえておけるかは分からない。大体、本気で抑える気があるのかさえ怪しいんだ)
彼らの背後にあるキャラベルにはロビンと彼に率いられているミリオンメサイアがいる。ロビンからは、彼らを押さえておくとの話がもたらされているが、どこまで信用できるのか分かったものではない。したがって、この難関を速やかに突破することが彼らには求められていたのだった。
(俺達は四人。俺以外は並外れた力を持っているとはいえ、所詮は四人。本当にここを突破できるのか?)
ヨルクの心中の不安には誰も気づかないまま、彼らはベルバーンへと向かった。
※※
一方、ベルバーンでは人々が不安な日々を送っていた。駐屯する青竜騎士団は日頃の鬱憤を晴らすように住民から奪い、傷つけていたのだ。
実は、ミリオンメサイアのせいで帝国内の彼らの存在感は急激に薄れており、青竜騎士団の面々は不満を溜め込んでいた。そんな中での出兵が勇者達の後詰めということに彼らの苛立ちはこの上もなく高まっていたのだ。
「おいっ! 今、俺から視線を逸らしただろう!」
「ひっ!」
竜をかたどった飾りがついた兜を身につけた騎士が目についた通行人に難癖をつける。こうなっては、何を言っても駄目だ。周りにいた民衆は蜘蛛の子を散らすように走り去り、その場にはニヤニヤと笑う数名の騎士と難癖をつけられた男だけが残された。
「貴様、誰が魔物や外国の鬼畜からお前らを守ってるんだ? ああんっ?」
まるでゴロツキのような物言いをする兵士に口答えすることなく、男は手持ちの金品を差しだしながら、平伏する。だが、騎士達は増長する一方だった。
「どうやら、卑しい平民には体に教えてやらんと分からんようだなっ!」
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