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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第二章 魔王の弟子ハンス

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第六十九話 代替品

興味を持って頂きありがとうございます!

 目が覚めた時、ハンスは自分がいつものベッドに寝かされていることに気がついた。そして、そんな自分の周りにはクロエやエル、少し離れたところに置かれた椅子に腰掛けたままのヨルクがいる。


(みんな、心配かけてごめん)


 ハンスは自分がどれだけ皆に心配をかけたのかを今更ながらに自覚し、謝った。


「起きたのか、ハンス」


 ハンスの気配に反応してクロエが目を覚ます。ヨルクやザンデには散々な評価を受けている彼女だが、やはり一角の武芸者なのだ。


「クロエさん、お世話をかけてすみません」

「いや、いい。それよりもう大丈夫なのか」


 心配した顔を向けるクロエの顔を見て、ハンスは改めて“姉さんに似てるな”などと思いながら、力強く頷いた。本当は謝りたい気持ちでいっぱいだったのだが、今はこうすべきだと思ったのだ。


 そして、それは正解だった。クロエはそんなハンスを見てほっと胸を撫で下ろした。


「そうか。それなら良かった。心配するな。ルツカは私が──」


「クロエさん」


 ハンスがクロエの言葉を遮る。遮られたという事実より、今までにない力と決意に満ちたハンスの表情にクロエは息を飲んだ。


「ルツカは俺が助け出します。必ず」

「あ、ああ。そうだな」


 クロエはハンスのことを青臭い少年だと思っていた。だから、自分がハンスを守り、育ててやらなければいけないと思っていたのだ。そして、それが自分がザンデから託された使命だとも思っていた。


 だが、今のハンスはもはや少年ではない。彼は痛みに耐え、成長することで一人の男になったのだった。


「だから、クロエさん、俺に力を貸して下さい。この通りです!」


 勢いよく頭を下げようとしたハンスはまるでそれを予期していたかのような──実際は予期していたのだが──クロエの腕によって止められた。


「分かってる。ルツカには恩もあるし、私にとっても大切な友人だ。喜んで力を貸すとも」


「ありがとうございます」


「私を忘れてる」


 いつの間にか目を覚まし、ふくれっ面でハンスの袖を掴むのはエルだ。そんなエルに微笑しながらハンスは彼女の頭を撫でた。


「忘れてないよ。エルも力を貸してくれるか?」

「当然!」


 エルは親指を立ててそう答えた。いつもとは違い、その声には感情がこもっている。思えば、エルはルツカにあれこれと世話を焼いてもらっていたこともあって、思い入れが強いのだろう。


「それはいいが、何か策はあるのか? 俺達四人じゃ、出来ることは限られるぞ」


 雰囲気に水を差すような一言を発したのはヨルクだ。この中ではひょっとしたらハンスに次いでルツカ救出への思いが強い彼だったが、同時に帝国を敵に回すということの意味もよく分かっているのだ。


「そうだな。確かに時間はかかる。四人で三日というところかな」


「何ぃ? 三日? 一体何をするつもりだ」


 ハンスの言葉に驚くヨルクにハンスは少し得意気な顔をした。何しろ、彼もザンデの話を聞いた時には大変驚かされたのだ。


「地面を走る船って見たことある?」



※※



 一方、その頃、キャラベルでは旅芸人の一座、“魔王と愉快な仲間たち”を迎えたドタバタが終息し、いつもの生活に戻りつつあった。


「今日から私がロビンの相手か」


 そう言うエメリーに気負いや緊張はない。何故ならエルとの記憶の同期により、体感的には既に何度も会っているに等しい状態なのだ。


「お久しぶりです、教皇殿」

「壮健そうで何よりです、聖人マシアハ殿」


 二人は席につくと、夕食を共にした後、いつものように教典を開き、その解釈について議論する。これまでと何も変わらない時間、変わらないやりとりだ。


(そう。いつも通り。違うのは相手が影になっただけ)


 内心ではそう自嘲するが、別にロビンとの時間が嫌な訳では無い。むしろ、ある種の楽しささえ覚えるが故に相手が自分をエルだと認識しているのが辛くなるのだ。


「今日も貴重な学びを得られました。感謝します」

「私もですよ、聖人マシアハ殿」


 これはロビンの決まり切った別れの挨拶だ。それを聞き、エメリーヌは後に続く取り調べにも似たやり取りがあることを思い出し、気持ちを少し落ち込ませる。


「教皇殿、時に一つお尋ねしたいのですが」


 立ち上がったエメリーヌにロビンがそう答えると、エメリーは微かに驚いた。何故ならこうしたやりとりは今まで一度もなかったからだ。


「何でしょう、聖人マシアハ殿」


「何故貴方は他人の振りをしているのですか?」


「他人の……振り?」


 エメリーヌがそう言ったのは決してとぼけた訳では無い。エメリーヌはエルの振りをするのが当たり前になっているのだ。


「貴方も教皇なのかも知れないが、私が今まで会っていた人とは違う。なのにどうしてそこまで完璧に演じられるのですか」


 無論、ロビンは教皇が既にキャラベルを出ていることは知っている。故に、ロビンはエルとエメリーヌの入れ替わりについては何も指摘するつもりはなかった。にも関わらず、こう言ったのはまるでエメリーヌがあまりにも完璧にエルになっていたからだ。


「私は……」


 何も言えないエメリーヌを見て、ロビンは怒りに肩を振るわせた。


「オレは──許さないぞ、こんなこと!」

読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の七時に投稿します!

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