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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第二章 魔王の弟子ハンス

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第六十六話 ハンスの精霊

興味を持って頂きありがとうございます!

 冥属性の上級精霊とザンデに呼ばれた存在は勇者と瓜二つの姿だったが、一つだけ違いがある。それは、全身が紫炎で出来ていることだ。


「こいつを俺が生み出した? いや、“冥属性”ってどういうことですか?」


“君も知っての通り、この世界には、火、水、土、木、雷の五つの属性のマナがある。だが、異世界から召喚された者や救世主として選ばれたものは、この五つ以外のマナを持っている。そして、それが、固有技能ユニークスキルと呼ばれる力の源になっている”


「じゃあ、冥属性というのは!」


“そう。私達の《死霊食い(ソウルイーター)》の元となるマナを名付けるとそうなるということだ。そして、精霊魔法とは内外にある一種類のマナを精霊という仮初めの存在として統合し、操る魔法。これは、君の力と君の姉さんの力の集大成と言える”


「じゃあ、なんでよりによって勇者の姿をしているんですか!?」


“それは私には分からない。だが、この精霊が君やルツカ、ヨルクを勇者から救ったのは事実だ”


「………」


 ルツカから聞いていた話とはいえ、こうして突きつけられると戸惑いを覚える話だった。自分や姉や村の人々の人生を歪めた相手の姿を模した存在。それが自分の生み出した精霊だというのだ。


“時間はあまりないぞ、ハンス。私が消える前にそいつを倒し、自分の力とするんだ”


「はいっ!」


 言うが早いか、ハンスは《死霊食い(ソウルイーター)》で作った無数のナイフを投げつける。大道芸で何度も作ったことで、威力も速度も格段に増したそれは精霊に向かって矢のように飛ぶ。だが、それは全く同じ軌道を描くナイフによって相殺された。


(俺と同じ攻撃っ!)


 驚いたのはほんの一瞬だ。元々ナイフは目くらまし。既にハンスは《死霊食い(ソウルイーター)》で作った剣を片手に精霊に向かって突進している。死霊を取り込んで上がった身体能力に加え、クロエに師事することにより進化した彼の剣術と歩法から生み出される突撃は目にも止まらぬ速さだ。


(これで決めるっ!)


 ハンスは必殺の気合いと共に剣を振り下ろす。しかし、それはまたもや全く同じ軌跡を描く剣によって防がれた。


(同じ力に、同じ速度。キアラの時と同じか)


 ハンスがそう思った時、突然精霊の持った剣が白い炎を放ち始めた。


(やばいっ)


 反射的に後ろへ飛ぶハンス。それと同時に彼の剣の刀身が焼き切られて地面に落ち、辺りに甲高い音を立てる。すかさず、刀身を再生させるが、気持ちまでは元に戻らない。


(今のは、まさか固有技能ユニークスキル?)


 ハンスはルツカから聞いていた話を思い出す。確か、自分の生み出した精霊は勇者から受けた攻撃を模倣して使っていたと。


(ということは………)


 まるでハンスの考えを実現するかのように、精霊が一瞬で十二人に増える。そして、それらは同じ構えから別々の力を放ち始めた!


 白い炎、氷で出来た竜、黒い雷、蒼い風、紅い閃光……


 見たこともない力が視界に納めきれないほどの規模でハンスに向かって放たれる。空間を塗りつぶすように迫るその攻撃に逃げ場などあるはずがない。


「【悪城壁グレートウォール】」


 精霊の攻撃からハンスを覆い隠すように分厚い土壁が無数に現れる。二十は下らないその壁はいずれもびっしりと魔法文字ミルグラムが書かれている。ハンスは精霊の召喚と《死霊食い(ソウルイーター)》での強化を同時に行ったのだ。


 土壁に攻撃が命中した瞬間、魔法文字ミルグラムが紫の光を発して爆発する。固有技能ユニークスキルの前では土壁などないも同然だが、それの起こした爆風は魔法の威力を減衰させる。ただ、その威力は二十以上あった土壁が全て突破してもなお失われず、余波がハンスの体を宙へと投げ出した。


(まさか、これほどの威力があるなんてっ!)


 ハンスは何とか受け身をとって着地するが、その時にはすでに精霊達は攻撃の準備を整えている。例え、次も傷を追わずに凌げたとしても、このままではジリ貧になるのは明らかだ。


(本来なら、精霊魔法に有効なのは時間稼ぎなんだけどな)


 精霊魔法では、生き物のように活動するようにマナを集めて、制御しているだけなので、精霊には命や魂と呼べるものはないし、その体さえ仮初めのものだ。したがって、創ることも維持することも難しい。リンダは平気な顔で数時間後維持していたが、そんなことは本来有り得ない。


 ただ、例え一瞬しか維持できなかったとしても、

精霊魔法には他の魔法では太刀打ち出来ない力があるのも事実なのだが。


(考えている時間はない。真っ向勝負で駄目なら……)


 精霊達が再びハンスに剣を向けたその時、彼は自分の相棒に呼びかけて植物の魔物の内の一種、フレアソーンに変化させ、あっという間に辺り一面に繁茂させた。


「!!!」


 突然、視界を防いだフレアソーンを焼き払おうと、精霊は自身の剣からそれらに向けて白炎を吹き出す。


(よしっ!)


 白炎を浴びたフレアソーンは辺りに蒸気を吹き出す。それは次々に広がり、辺り一面の火と水のマナの活動が爆発的に加速した。


「!!!」


 精霊達はここで初めて動きを止めた。蒸気に臆したわけではない。それが動きを止めたのは単にハンスを見失ったからだ。


(精霊は目がない。だから周囲のマナを感じることで周囲の様子を理解する。マナの動きがあまりに活発すぎる場所だと俺の居場所が分からなくなるはずだ)


 だが、生き物せよ物質にしろマナの流れが大きく変質することはあり得ないし、マナが活発すぎる場所──例えば煮えたぎるマグマや雷雲の中などだ──ではそもそも精霊魔法の使い手が生存出来ないので、それは本来、欠点とか盲点とか言えるようなものではない。それでも、ハンスにとっていうは数少ない活路の内の一つだった。


(蒸気が満ちたところで、【紅炎鳥フェーベ】の【陽炎波ヘイズウェーブ】を使えば、奴らを一気に倒せる威力になるはずだ)


 そう考えながら、腰にある灰を入れた袋に無意識に触れる。一般な精霊魔法使い達と同じように、ハンスは常に精霊の体の依り代となるものを身に着けている。


 フレアソーンが次々に蒸気を噴出する中で、攻撃のタイミングを見計らうハンス。だが、彼がふと様子を探ろうと精霊に目を向けた時、フルフェイスに覆われたその顔の奥に紅い目のような光が灯った。


(何っ!)


 体に走る悪寒に従い、ハンスはマントの形状にした【紅炎鳥フェーベ】を創る。それと同時に精霊達は自身が使う固有技能ユニークスキルをところ構わず放ち始めた!


 リウルが変化したフレアソーンの蒸気がハンスを傷つけることはないが、あちらこちらを蹂躙じゅうりんしている固有技能ユニークスキルが直撃すれば、いかなハンスと言えど、大きなダメージを負ってしまう。ハンスは【紅炎鳥フェーベ】のマントをはためかせながら、マナサイトを最大限に駆使し、必死に攻撃を避け続けた。


(一体、こいつに与えられた命令はなんなんだ!)


 嵐のような攻撃を紙一重で避けながら、ハンスは愚痴る。


 精霊には自我はなく、精霊の行動を決定するのはそれを生み出した者の命令だけ。故に、攻撃にしろ、防御にしろ、対象を見失うと身動きを止めるというのが本来の精霊の正しい姿なのだが……


(こいつは間違いなく俺に敵対している。だけど、俺を見失うと辺りを破壊する。まるで──)


 まるで八つ当たりのようだ


 それに思い至った時、ハンスの脳裏にザンデの言葉が蘇る。


“これが君が生み出した冥属性の上級精霊だ”


 ザンデは目の前の精霊を指してそう言った。ハンスは創った覚えはないが、ザンデがそう言うなら間違いない。


(こいつは、まさか俺の行動を真似ているんじゃないか?)


 敵と見るや切りかかる。目的を見失えば力の限り暴れ回る。それはハンスのやってきたことと同じだ。結果は悪いものばかりではない。だが、だからといって、彼が憎しみに振り回されていたという事実は変わらないのだ。


(俺はこの精霊に一体何を命じたんだ?)


 ハンスは創った覚えはない。だが、ハンスの精霊である以上、命令を与えたのは彼自身のはずだ──例え、その願いが無意識のものだとしても。


 ハンスの姿を見つけると精霊の暴走は止まり、今度は一斉に彼の方を向いた。


「一対十二かっ!」

読んで頂きありがとうございます! 次話は12時に投稿します!

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