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俺は救世主なんかじゃない!~転生勇者に最愛の姉を殺されたシスコン救世主の復讐劇~  作者: 赤羽ロビン
第二章 魔王の弟子ハンス

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第六十一話 相性

興味を持って頂きありがとうございます!

「ああっ!」


 まるで目を焼くような痛みにキアラが悶絶する。


「ううぅ、一体私に何をしたのよ? こんな技をまだ隠していたなんて」


「攻撃じゃない。これは修業だ」


 目を押さえながら呻くキアラに、ハンスはそう答えた。


「マナサイトはマナの流れを見る視界だ。だから、周りのマナが増えたり、活動が活発になれば負担が増す。それに慣れるためには、痛みに耐え続けるしかない」


 ハンスが生み出したのは、かつてリンダが灯り代わりに使っていた低級の精霊。ただ、その数は膨大だ。そのせいでマナサイトに多くの情報が入り、負荷が痛みとしてキアラを襲っているのだ。


「痛い、痛い、痛い! この私に何てことを」


「これは初期の修業。俺もやり遂げた」


「何ですって?」


「死霊達はもっと辛い苦痛に耐えている。その痛みを抱えられない者に死霊達の言葉は届かないんだ」


 ハンスの言葉と共に、精霊達があちらこちらへと動き始める。それに従い、キアラの悲鳴も大きくなっていく。


「《死霊食い(ソウルイーター)》が凄いんじゃない。ましてや、《死霊食い(ソウルイーター)》を使う人間が凄いはずもないんだ」


「………っ!」


 キアラはもはや苦痛で返事をすることさえ出来ない。だが、ハンスは手を緩めない。それは恨みでも怒りでもない。一言で言えば、義務だった。


“共に痛み、それを受け止めるのだ。そうすれば、誰かに想いが繋がっていく。それが死霊達の願いであり、私達がこの力を持った意味でもある”


 この修業を終えた後、ザンデはハンスにこう言った。それは、ハンスの道標となった言葉であり、同時に迷いを払う言葉でもあったのだ。


「覚悟だ、キアラ。それが無い奴に《死霊食い(ソウルイーター)》を使う資格はない。だから、あんたがこの力を使うっていうなら、この痛みに耐えて見せろ!」


 もはや、キアラの耳には何も届いてはいなかった。キアラが意識を失う。《変容メタモルフォーゼ》の効果は切れていないが、マナサイトのリスクを知った今、キアラは再びハンスの力を使おうとは思わないだろう。


 憎むべきかたきである勇者の一人、キアラ。意識を失った彼女の命を奪うことは容易い。しかし、ハンスはそんなことは微塵も考えなかった。代わりに胸を占めていたのは別のことだ。


「みんなのところに戻らないと!」


 この瞬間、ハンスは勇者に対する憎しみを克服していた。



※※

 


 ハンスがクロエやルツカ達と離れて暫くすると、クロエはおもむろに立ち上がった。


「トイレか?」


 ふざけた調子でそう言うヨルクは、ルツカの鋭い眼差しを受けて一瞬で黙る。そんな二人に軽く手を振るクロエは木陰に入る。と、その瞬間、自分の背後に剣を走らせた。


 火花と共にクロエの剣が甲高い音を立てる。クロエの剣は彼女の背後にいた黒いフードを被った男が手にした二本のナイフに受け止められていたのだ。


「随分、杜撰ずさんな奇襲だな」


 剣を引き、青眼に構えて相対しながら、クロエは言う。この瞬間から、クロエの固有技能ユニークスキル、《未来予想図アカシックレポート》は発動する。これで目の前の相手の数秒先の未来を知ることが出来る。日常生活では、問われる前に答えるくらいしか使いみちがない力だが、こと近接戦闘に置いては無類の力を発揮する。


「ハハハ。一度防いだくらいで調子に乗るなよ」


 クロエの剣を弾き、距離をとった男はフードを外す。現れたのは二十代前半くらいの男の顔だ。顔立ち自体は決して悪くないのだが、にやけた口元が全てを台無しにしている。クロエが最も嫌うタイプの男だ。


「意外だな。だが、分かってるぞ、ダフ」


 勇者として召喚されながら、帝国を裏切ったクロエはいわゆる脱走兵。今までに襲って来た刺客は十や二十ではきかない。そして、刺客は例外なくクロエの固有技能ユニークスキルや戦闘スタイルについて聞かされている。


 つまり、目の前に立ってクロエの《未来予想図アカシックレポート》の発動条件を満たそうとする相手はいなかったということだ。そして、目の前にいるダフという名の男がそうした理由もクロエには分かっていた。


「ハハハ、だろうな。実に自慢しがいがないよ、“先賢”様!」

「自慢話は惚れた女にでもするんだなっ!」


 勇者時代の二つ名を口にする男を両断する勢いでクロエは剣を振るう。ダフの回避行動さえ見切った攻撃は防ぐことも避けることも出来ない。


 が、クロエは自分の攻撃が男に届かないことも確信していた。


(こいつの固有技能ユニークスキルは恐らく……)


 未来に向かって放たれたクロエの必殺必中の攻撃は、突如その動きを止める。それと同時に、クロエの後ろをとったダフが喉元にナイフを突きつけた。


「ハハハ、自分の十八番が盗られた気分はどうだ?」


「分かってる。固有技能ユニークスキルの名は、《認識不能カメレオン》か」


「ハハハ、流石、先賢! だが、分かったところで意味はないぞ。《認識不能カメレオン》は、俺の存在を他人が感じとれなくする固有技能ユニークスキルだ。だから、お前の《未来予想図アカシックレポート》は俺には通じない!」


 《未来予想図アカシックレポート》は相手の存在を認識することが発動条件になっている。だがそれは本来、条件とも呼べないほど満たすのが簡単だ。相手の姿を見たり、声を聞いたりすれば充分だし、極端な話、相手の立てる音を聞いているだけでも構わないのだ。


 だが、《認識不能カメレオン》によってクロエがダフの存在を意識出来なくなると、《未来予想図アカシックレポート》は効力を失う。その一方で、ダフは簡単にクロエの隙をつくことが出来る。クロエにとって、ダフは天敵と言えるほど相性が悪い相手だった。

読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の七時に投稿します!

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