第五十八話 ロビンの願い
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「驚かせてしまって悪かったな」
ロビンは【通念】で通話するや否や、ヨルクに謝罪した。その言葉にヨルクは驚いたようだっだが、ロビンはそれに気づかぬ振りをして話を続ける。
「先に話せば、それはそれでキミに苦労をかけると思ってな」
“構わないが、あんたは本気で帝国と戦う気なのか?”
ロビンは自分の言葉を一番信じられなかったのはヨルクだということは分かってた。二重スパイである彼は、ハンス達の中で一番帝国の戦力に詳しいからだ。そうでなくても、国という巨大な相手に個人に等しい戦力で立ち向かうというのだ。まず、正気を疑うのが普通だろう。
だが、ロビンは今の話でヨルクが勘違いをしていることが分かった。したがって、まず、それを正すことにした。
「違う」
それを聞くなり、耳元で失望するようなため息が聞こえる。やっぱり嘘かと思ったであろうヨルクの考えをロビンは再び否定した。
「戦うんじゃない。帝国を倒すんだ」
ヨルクが息を飲んだ。何万、もしかしたらもっといるかも知れない勇者、そして総勢二十万を越す鍛え抜かれた帝国騎士、更には属性魔法を始めとする強大な魔法を振るう術者達。帝国の戦力は数え出せば切りが無い。
“勝算はあるのか?”
「ない方がいいか?」
こちらを疑うような言葉にロビンはあえてはぐらかすような発言をした。が、ロビンの思った通り、ヨルクは苛立ちはしなかった。当たり前だ。余裕のない人間の言葉を信じるような馬鹿は長生き出来ない。
「からかってるわけじゃない。全てをキミと共有したいが、そうすると不都合なんだ。キミはその、自然体でいてくれないとハンス達が不自然に感じるだろ?」
“あんたがハンスと協力するなら、俺がハンス達を騙す必要はないんじゃないか?”
ロビンが帝国を倒すと聞いた時に、ヨルクが信じられなかった理由の二つ目がこれだ。ハンスやルツカ、クロエを裏切らずに望みが叶うというのは都合が良すぎる。彼のような裏家業の人間にしてみれば、そんな良いことずくめの話は信じられないのだ。
「騙す必要はないな、全く。だが、キミにはハンスを導いて貰わなければいけないんだ」
“導く?”
思いもよらなかった言葉にヨルクは首をかしげる。だが、ロビンにとってはそれも想定内だ。彼は、淀みなく言葉を紡いだ。
「質問を質問で返すようだが、オレとハンスが手を組んだだけで帝国を倒せると思うか?」
ヨルクは思わず押し黙る。ロビンにしろ、ハンスにしろ、ヨルクの想像を超えた力の持ち主だ。だが、いかに強大な力を持っていても、所詮は個人。消耗戦を仕掛けられたら、為す術もない。
「オレとハンス、それにキミ達で帝国を倒すには筋書き、つまり、作戦が必要だ。ヨルク、キミにはそれを担う監督、つまり導き手になって欲しいんだ。それは、ハンス達に信用されていないオレには出来ないことだ」
“作戦だと。それはどんな?”
「悪いが今は語れない。これはキミのためでもある」
作戦の全容を知ってしまっていては演技にボロが出るということだとヨルクなら思うだろう。そして、確かにそれは半分は当たりなのだ。
“なるほど。大体分かった。だが、一つ分からないのは、動機だ。あんたは何で帝国を倒したいんだ? この世界のためだけに帝国を倒そうと言うわけじゃないだろ”
この質問はロビンにとって予想外だった。ロビンは、ヨルクをもっとドライな人間だと思っていたのだ。極端に言えば、メリットとデメリットだけを考えて動ける人間だと。だから、自分という人間に興味を向けるような無駄なことをしないと思っていたのだ。
(意外とセンチメンタルな奴なのか? いや、誰かに感化されたのか……)
どちらにしろ、嘘をつくのは悪手だ。しかし、完全に腹を割るにはまだ早い。したがって、彼がその真ん中をとることにした。
「オレは物語が書きたいんだ。ハンスにはその主人公になってもらう」
“物語ぃ? 一体なんの話だ”
「続きはまた今度だ、ヨルク」
そう言うと、【通念】を切る。ヨルクとの対話は悪くない感触だ。今のところ、全てが上手く行っている。
(かといって、完璧に筋書き通りだと面白くないけどな。まあ、“事実は小説より奇なり”って言うし、大丈夫だろ)
ロビンは転生前、いわゆるラノベが好きなコミュ症患者だった。オタク未満(自称)であった彼は、一人で幾つもの物語を読み、感化されるうちに、自らも何か書いてみたいと思ってペンを取る。だが、最後まで書けたものはなかった。
彼は諦めなかった。作家になるためのハウツー本を探して読んだり、小説の書き方をレクチャーするサイトを探したりと思いつく限りの努力をした。
才能が無いのは分かっていた。だから、彼は作家になろうとは思っていない。彼が願ったのは、たった一つだけ、自分で書いた物語が欲しいというささやかな願いだ。
しかし、現実は甘くなかった。
サラリーマンになった彼が勤めたのは、限りなくブラックに近いグレーな会社で、彼から毎日毎日執筆時間と気力体力を容赦なく奪っていく。
それだけではない。日々上司からぶつけられる無理難題や理不尽な待遇、先輩からの陰湿なイジメや嫌がらせは彼の空想と想像力を痛めつけ、損なった。
現実は辛く、醜く、汚らしい。
楽しいこと、清らかなもの、美しいものが存在する余地などないのだ。そんな毎日が続く中、彼は唐突に一つの事実に気がついた。
自分にはもはや、物語を生み出す力がない。
空想を信じることが出来ない。
ただただ毎日をやり過ごすことしか考えられない自分には夢や希望を語る資格がない。
彼は絶望した
物語を書く資格を失ったことではない。いつか必ずと信じていたことを自ら否定したことに絶望したのだ。
(だが、実際にあったことなら。目にした出来事を物語として書くことなら出来るはずだ)
彼が勇者として召喚された際に、最初に考えたことがこれだった。魔法、帝国、救世主。この世界にはファンタジーに必要なものが揃っている。後は筋書きだ。ピンチを作り、それを主人公が乗り越える。それを繰り返しながら、彼は強くなり、いずれ帝国を倒すのだ。
(頼むぞ、ハンス。キミは私の救世主なのだからな)
そんなことを考えながら、ロビンは目の前にある羊皮紙を広げる。これは彼が考える今後の構想をまとめたものだ。それをぼんやりと見ながら、先の展開を考える。
(展開上、ここで教皇は攫って貰わないといけないな。だか、あっさり成功したら面白くないよな)
教皇に着ぐるみを着せ、荷物に見せかけて脱出する予定だとヨルクから聞いていたが、これでは面白くない。何か見せ場がいる。ハンスには、ここで一歩間違えれば敗北するという絶対絶命の窮地を乗り越えて貰わないといけないのだ。
自分が知っているハンスの力を思い出す。それらが通じない、いや、むしろ逆手に取られるような相手がいい。そんな力を持った敵役はいないだろうか。
しばらく考えた後、唐突にロビンはポンと手を打った。
(そうだ。あいつらなんかおあつらえ向きだな)
知らず知らずのうちにロビンは口元に笑みを浮かべていた。自分の着想がどんなふうに展開するのかが、彼は楽しみで楽しみで仕方がないのだ。
(楽しみだよ、ハンス。キミならこの窮地も奇想天外な方法で切り抜けてくれるのだろう?)
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